−旅の宿−


ひさしぶりの畳は居心地がよく、その上に胡坐をかいて座った。
お猪口を手に持つとがとっくりの首を摘んで傾けた。
見慣れない浴衣姿に目を奪われる。
纏め上げた髪から露わになった白いうなじが妙に色っぽい。
ふいに目が合ってしまい、見惚れていたことを誤魔化すように酒を煽った。


がそっと髪に手をやった。
慣れないかんざしが気になるようだ。
それは偶然露天で見かけたもので、
に似合いそうな気がしてガラにもなく買ってやったのだ。
クソコックみてぇに女の欲しいもんなんて分からねェから
気に入らねえかもしれねぇがと渡すと
何を貰うかではなく誰に貰うかが大事なのだと
は嬉しそうに笑った。

シンプルだが鮮やかな緋色の玉かんざし。
思った通りそれはによく似合う。


外はもうとうに闇に包まれて、窓の外では満開の桜が花びらを散らしている。
それを上弦の月が照らす様はやけに幻想的だった。
そんな雰囲気のせいだろうか、今宵のがやけに艶っぽく見えるのは。
酒の中に落ちてきた花びらが一枚ふわりと浮いたが、それごと一緒に飲み干した。
そんな俺を見てまたが微笑む。


おかしい・・・どうやら俺は酔ってるみてェだ―――


剣士たるものいつ何時も・・・なんて普段言っている俺だが
ことの前では例外が多くなっちまう。
コイツの隣では気配の動きにも気づかず熟睡しちまったり
こんな風に酒に飲まれちまったり・・・

俺はの腕をぐいと引っ張り腕の中に収めた。
かんざしを抜くと長い髪がはらりとほどける。
首筋に顔を埋めると風呂上りのいい香りが鼻をくすぐった。
あぁ・・・ほんとに酔っちまった・・・


「せっかくかんざしで纏めたのに・・・」
腕の中から見上げてくる
非難めいた台詞とは裏腹に表情は楽しそうだった。
「俺がほどくためにやったんだよ」
にやりと口端をあげればはころころと笑う。


俺はの膝の上に頭をあずけて寝転がった。
俺の髪をが梳くように撫ぜる。
その手をとって甲に口づけると、は目を細めた。
その頬が染まって見えるのは風呂上りのせいだろうか。


どうにも気持ちよくなってきちまった俺は
の手を握り締めたまま目を閉じ微睡んだ。
やべぇ・・・寝そうだ・・・

うっすら目を開けば穏やかな微笑みを湛えるがいる。
今夜はを抱く力はなさそうだ・・・
勿体ねェ、なんてがっついた事を考えちまう自分に呆れた。


まぶたの重みに負けて再び目を閉じると
俺は久しぶりの酔いと共に夢の中へと落ちていった。


きっと今夜はの夢を見るんだろう。








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 なぜか拓郎さんでゾロ