−子−


右を見ても左を見ても、前を見ても後ろを見ても、似たような木ばかりが並んでいる。
いつのまにか森に入ってから、気付けばかれこれ小一時間程だろうか。
こりゃあやっぱり・・・
嫌な予感を感じつつあたりをキョロキョロと見回す俺の隣で、が感慨深げに呟いた。

「ゾロは、本当に、よく迷うねぇ・・・」
「しみじみ言うんじゃねーよッ!」

怒鳴る俺にびびりもせず、は何やら噛み締めるようにうんうんと深く頷いている。

「大体一緒に歩いてたんだから、お前ェだって迷ってんじゃねーか!」
「いや、私はゾロが迷子になる様子を観察してただけだよ?」
「はぁッ?じゃあお前ェ俺が迷うとこ黙って見てたのか!?」
「うん」
「気付いてたんなら言えよ!」
「何言ってんの、教えちゃったら観察にならないじゃない」

さも当然の事のように胸を張って話すに、俺はイラつくのも通り越して呆れ果てた。
仕方なく俺はまた歩き始める。
「・・・っかしーなぁ、目印ちゃんとあんのに・・・」
「えっ?目印なんてつけてたの?」
なんだよその心底意外です、みてェな面は。俺だって目印くらいちゃんと考えてるっつーの。

「ほら、こうやってツタが絡まってる木に沿ってきたから、それを辿れば・・・っておい、?」
は口を押さえて俯きながらふるふると震えている。
気分でも悪くなったかと心配になり覗き込むが・・・

「てめェ何笑ってんだよ」
「・・・ッ!・・・ごめっ・・・!あまりにも発想が素敵で・・・っ!」
ついに吹き出したは涙を流して笑っている。

「笑いすぎだっ!」
「だってゾロ可愛いんだもん・・・っ」
「嬉しくねーよっ!」

げほげほとむせながら、ツタの絡まった木なんて森には腐るほどあるから
今度から目印にしない方が良いよとは笑った。

釈然としない思いに頭をがりがり掻きながらも歩みを進めるとだんだん足場が悪くなってきた。
の方を振り返って見れば少し息が切れている。
コイツも黙って見てた責任はあるがやっぱり迷ったのは俺のせいな訳で。段々申し訳なさが込み上げる。

「悪ィな・・・」
そう言いながら手を差し出すと、は少し驚いたような顔をしたがすぐに笑顔になって手を取った。
「全然悪くないよ?」
は笑ってそう言うが、こうしてコイツを巻き込むのはこれが初めてじゃねェ。
いい加減嫌気が差すんじゃねェかとガラにも無く心配になる。

そんな考えが顔に出ていたのか、俺を見てがふふっと笑った。

「いいじゃない。ゾロは生き方が真っ直ぐすぎるくらい真っ直ぐなんだから。
 実際に歩く道くらい迷うくらいで丁度良いのよ、きっと」

やけに穏やかで優しい表情を向けられ、俺はつい見入っちまった。

「それに迷子も悪いことばかりじゃないよ?」
「・・・悪ィこと以外ねェだろーが」

まぁまぁと宥められて俺はまた頭を掻く。
コイツといるといつも調子を狂わされる。
なのに、それがちっとも嫌じゃねェなんて・・・。
ったく、俺ァ何考えてんだ。

熱を持ちそうな顔を見られないよう、よりも半歩先を進んだ。



そこからしばらく歩くと急に視界が開けた。
切り取られた崖の先には大きな滝が水しぶきを上げ、色とりどりの野鳥がひしめいていた。
澄んだ水には虹がかかり、その鮮やかな景色に俺たちは息を呑む。

「・・・すっごいねー!」
「・・・すげェな」

しばし立ち尽くすと、がにんまり笑って俺の顔を覗き込んだ。
「ね?だから悪いことばかりじゃないって言ったでしょう?」
「・・・そーだな」
口端を上げながら、の頭をわしわしと撫ぜれば猫のように目を細めるから。
きっと俺は今他のヤツには見せらんねェような面してんだろうなと自覚した。

「じゃ、そろそろ船に戻ろっか」
「あァ?お前帰り道分かんのか?」
「当たり前じゃない。ほら、行くよっ」

・・・だったら最初っから言えよ、と思ったがそれは口に出さずにため息を吐く。
ま、コイツとこんなとこに来れたんだから良しとするか。


が俺の手を取って先を歩くと驚くほど早く船へと到着した。
・・・あの苦労は何だったんだ。思わず頭を抱えたくなる。
そんな俺の隣でもため息を吐いた。

「あーぁ、やっぱり私が先歩くんじゃなかったな・・・」
「なんでだよ」
着いたのに何が不満なんだ。

「だって迷ってればもう少しゾロと二人きりでいられたでしょう?」
なんで私には迷子の才能ないのかしら、と残念そうにアホな事を言ってのけるに口が塞がらなくなった。
・・・悪いことばかりじゃないって、そういうことか。

また緩んじまいそうになる口元を悟られないよう誤魔化すかのようにその頭を小突く。
「別に迷子にならなくったって一緒にいられんだろーが」
「まぁそうなんだけどね」
その屈託のない笑顔に、どんなに迷ってもこの笑顔だけは見失いたくないと。
ガラにもない事を思っちまった自分に気づいて居心地が悪くなる。

「また一緒に迷子なろーねっ」
「・・・物好きなヤツ」
呆れたように言いながら、となら迷子も悪くねェかもなと思う俺はやはりどうにもおかしいらしい。
それでもいいかと思っちまうんだから尚更に。


とりあえず今度は普通に歩きてェな・・・






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 あの迷い方は天才だと思う