−イラつく恋人−
「だぁーからそこさっきも教えたばっかりだろうが」
「うっ・・・」
「テメーは単細胞生物か?」
「はァ!?ミドリムシに言われたくないよ!」
「・・・殴るぞテメー」
「やれるもんならやってみなさいよ!お兄ちゃんに言いつけてやる」
「あんなぐるぐる怖くねェよ」
「じゃあ、おじいちゃんに言いつけて減給してもらう」
「・・・・・・・・・・・・・」
「ほっほっほっ、それが嫌ならさっさと黙って教えなさい!」
コイツまじで殴りてェ・・・・!
どうやらここの血筋の人間は、遺伝子レベルで俺をムカつかせるように出来ているらしい。
「お前ほんっとにムカつく女だな!」
「そのムカつく女に惚れたのはどこのマリモですかぁ?」
「ッ・・・・・・・・・・」
・・・そう、何をトチ狂ったのか俺はこのムカつく天の邪鬼女に惚れちまった。
しかも勢い余って告っちまうという失態までしでかしたのは先々週のこと。
訳の分からねェことっつーのはなぜか続くモンで、なんとこいつもそれを受け入れやがった。
そんな訳で実は恋人同士のはずなんだが、普段はこのとーりそんな素振り微塵も見せねェ。
けど、ふとした瞬間・・・
「ぃよしっ、出来たぁ!」
「おぉ・・・」
が解いたノートに目を通して丸を付ける。
「ん、よし上出来。ちゃんと復習も頑張ってるみてェだな。エライエライ」
ぽんぽんっと頭を撫でるとはちょっと頬を染めながら俯いた。
「・・・とーぜんじゃんっ」
・・・あークソッ、なんでこうコイツは不意打ちで可愛いんだよ。
口では強気なくせにうっれしそーな顔しやがって!
こういうのツンデレって言うのか?俺そんなもん興味ねェはずなんだけどな・・・
ちきしょー・・・普段の憎まれ口すら可愛く思えてきちまいやがる。
悶々と耽っているとが不思議そうに覗き込んできた。
「先生?」
「・・・ゾロだろ?」
そう言うとまた顔を赤くして、むちゃくちゃ小っせー声で
「ゾロ・・・」
と照れ臭そうに呟き、恥ずかしさがピークに達したのか顔を手で覆い隠して小さくなった。
けど耳まで赤くなったそれはちっとも隠れちゃいねェ。
・・・何だコレ、堪んねーな・・・
バイト中にも関わらずなんか変なツボを刺激された俺はついうっかりに手をかけちまった。
きょとんとした顔で見上げるにそっと近づくと、ちょっとうろたえる素振りを見せながらもじいっと俺に視線を返してくる。
「・・・目ェ瞑れよ」
そう囁いて一気に距離を詰めようとした途端、ノックと同時に勢い良くドアが開いた。
「〜!一休みしてお兄ちゃん特製ガトーショコラでも・・・・・・ってお前ら何してんだ?」
「な、何って何もっ!?やだなー先生何してるんですかぁ?おっちょこちょいだなぁ〜」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
俺は間一髪に突き飛ばされて椅子から転がり落ちていた。
そんな俺をクソコックがじろりと睨む。
「テメー、まさかうちの可愛い妹に手ェだしてねぇだろーな?」
「やだなぁお兄ちゃんってば。私がこんなマリモヘッドさんと付き合う訳ないじゃない!」
―――コイツ・・・曲がりなりにも彼氏にむかって・・・・
「そーだよなぁ、まぁお兄ちゃんものことは微塵も疑っちゃいねぇんだけど、なんせは箱入りだから心配で心配で・・・」
「・・・・箱に入りすぎて腐ってンじゃねーか?」
椅子に座り直しながらぼそりと呟くとがギロリと睨んだ。
「クソ可愛いもんだから、ついつい蝶よ花よと大事に大事に・・・」
「した結果がラフレシアじゃねーか・・・・・・・痛ッ!」
酔ったように冗舌に語るぐる眉の言葉にいちいち小声でツッコんでいたらついにに蹴られた。
もちろんクソコックにはばれないように・・・・テメーその外弁慶なんとかしろよッ!
ケーキを受け取ってクソコックを追い出すと、俺たちは休憩にすることにした。
無言のままそれを食べ始める。
「・・・誰がマリモヘッドさんだって?」
「誰が腐ってるって?」
「人のこと突き飛ばしやがって」
「ラフレシアで悪かったわね」
「よくも脛蹴りやがったな」
「自業自得でしょ」
「お前ほんとに俺のこと好きか?」
「先生ほんとに私のこと好きなの?」
「・・・だから告ったんじゃねーか」
「だからOKしたんじゃないの」
納得いかねェ・・・と顔を顰めながら紅茶をすする。隣でも納得いかなそうにむくれていた。
「・・・・お前さ、例えば俺とコックが溺れてたらどっち先に助ける?」
「なにその質問・・・」
「よくあんじゃねェか、そういうの」
我ながらアホな質問だと思ったが、魔が差して聞いてしまった。
「お兄ちゃんスポーツ万能だから溺れたりしないもん」
「俺だって溺れねェよ」
「マリモだしね」
・・・コイツ殺していいか?
青筋立てていると、まぁ万が一そんな事が起こったとしたら・・・とがフォークを銜えたまま呟く。
「そんなの言わなくても分かるでしょう?」
にっこりと笑みを向けられて一瞬期待が走る。
「もちろん先生踏み台にしてでもお兄ちゃんを全力で助けるよ!」
何親指立ててんだテメーは!ぐっ、じゃねェよっ!
・・・・・・・・期待した俺がバカだった。
「だってバカは風邪引かないっていうし、多少長く浸かってたって平気でしょ。マリモだし」
「そのネタ引っ張るンじゃねーよッ!」
「それにもし億が一風邪なんか引いちゃったら、私が看病しに行ってあげるからさ」
ねっ?と無邪気に微笑んでは小首傾げた。
ねっ?じゃねーよ。そんなもんで騙されてたまるかッ。
くっそ・・・、なんでこんなんで俺は赤くなってんだよ!?アホか!!
こんだけ虐げられてんのにこんな笑顔ひとつで許しちまうなんて、俺は本当にどうかしてる。
がりがりと頭を掻くと、ケーキ皿を取り上げて休憩を終わらせた。
ぶーぶー文句を言うに教科書を押し付けて、また机に向かわせる。
むくれる面まで可愛いと思っちまうなんざ、もう末期だな。
まったくこのムカつく女のどこがいいんだか・・・
そう思いつつ俺の顔は緩んでいた。
多分あのクソコックに俺たちの関係がバレて面倒臭ェことになるのは、そんなに遠い未来じゃねェだろう・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ラフレシアは死肉色の腐臭がする巨大花です(笑)