−意地っ張りベイベー−
呼び出されたのは私たちが出会ったあの公園。
久しぶりに会える!と思うと居てもたってもいられず駆け足になる。
会ったらなんて言おう?
もっとマメに連絡しなさいよ!とか、あんまり私のこと放っとくと浮気してやるから!とか
色んな憎まれ口を考えつつにやけ顔で走った。
けど会った途端、そんなものは全部吹っ飛んでしまった。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
多分今、私死ぬほど目見開いてる。口もぽかんと開けたままで先生を凝視した。
当の本人は居心地悪そうに微妙に目を逸らして黙っている。
「・・・・・先生の髪が・・・黒い・・・」
「・・・おぉ」
「・・・頭が黒い」
「おぉ」
「黒い・・・」
「・・・・・・」
「黒マリモ・・・」
「お前シメんぞ!?」
しつこく繰り返す私にとうとう痺れを切らして怒鳴った。
だって先生の頭が緑じゃないなんて!!
「なんで!?なんでなんで!?」
興奮気味に詰め寄るとぷいっとそっぽを向く。照れてんのかな?
「受験することにしたんだ」
「受験?」
「教師目指すことにした」
「教師!学校の先生!?」
「そう」
以前からぼんやりとは考えていたらしい。学校の先生になって、剣道教えたりするのもいいかもしれないと。
極悪面教師・・・とか思ったけど、なんだかとっても納得出来てしまった。
勉強の教え方が上手いのは誰よりも私が知っているし。面倒見も良いし。何気に子供好きだし。
「先生なら受験なんかしなくても剣道推薦とかで入れるんじゃないの?」
「それも考えたんだけどな。けどうちの高校からだと入れるとこ限られてくるし、行きてェとこあっから」
「どこの大学・・・受験するの?」
先生の口から出たのはこの辺りでもかなり偏差値の高い所だった。
「えぇぇ!?あんな頭良いとこ・・・先生入れるの?」
「今は無理だな」
「今はって・・・もう夏終わったよ・・・?」
「部活も引退したし、こっから本腰入れてやるよ。だから、あんまり会えなくなるかもしれねェ。バイトも終わっちまったしな」
「そ・・・っか。そうだよね・・・」
むしろ三年で忙しいのにこんなぎりぎりまで引き受けてくれていたことに感謝しなくちゃいけないよね。
寂しいけど・・・でも・・・
「良かった、先生は遠くに行っちゃわなくて・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
お兄ちゃんは高校卒業と同時にフランスに行ってしまうから。
向こうで料理の修業をして、ゆくゆくはお爺ちゃんのレストラン・バラティエを継ぐ。
でも帰ってくるまで何年かかるかはわからない・・・
「・・・もっと落ち込んでるかと思ったぜ」
「はじめから分かってたことだもん。ちゃんと聞いたのは昨日だけど・・・」
あの女好きのお兄ちゃんがわざわざ男子校を選んだのだって、バラティエに一番近い高校だったからだ。
暇さえあればしょっちゅう手伝いに行ったりしていた。
お兄ちゃんは料理に全てを懸けている人だから、その進路はとても自然な気がした。
「それに・・・」
「ん?」
「私がこんなに平気でいられるのは、先生がいてくれたからだよ?」
「・・・・・・・・・・・・・」
ひとりだったらきっと寂しくて耐えられなかった。先生はどうするんだろうって不安で不安で仕方がなかった。
「だから・・・先生も遠くに行っちゃわなくて良か・・・っ・・・」
堪えきれずに涙が出た。先生がぎゅっと抱きしめてくれた。
その温かさにもっと涙が溢れてくる。
「・・・俺さ、お前のおかげで教師になりてェと思ったんだ」
「・・・え・・・?」
思わず泣き顔のまま見上げると、先生は照れたように笑った。
「お前に勉強教えてるうちになんか面白くなっちまって。こういうのもいいかなと思うようになったんだ」
「そう・・・なんだ・・・」
好きな人の進路に自分が影響したなんて、なんかすごい。すごく嬉しい。
「でも複雑・・・」
「何が?」
「私意外に先生が授業するなんて・・・」
「ぶっ・・・なーに妬いてんだよ」
「・・・生徒に手出したりしないでね」
「アホ!するか!」
「したじゃん」
「・・・お前は特例だ」
進路かぁ・・・。なんだか一気に置いていかれた感じがして寂しいな。
私だってあと二年すれば同じ立場だけど、まだ進路なんて全然だし。
でも・・・
「先生と・・・同じ大学行きたいな・・・」
ぽつんと口にしてしまった言葉に、先生は驚いたような顔をした。
あ・・・軽蔑、されたかな・・・?こんな不純な動機じゃだめだよね・・・
過ぎった不安を一掃するように先生はにっと口端を上げた。
「いいな、それ。上手くいきゃ二年は机並べて授業受けられるじゃねェか」
今度は私のほうが驚いて見返すと、頭をわしわし撫でられた。
先生と一緒に・・・?うわっ、それすごい!ドキドキしてきた!
「じゃあ死んでも受からねェとな。俺が落ちたせいなんかでお前のレベル下げさせる訳にいかねェし」
「そん時は私だけいい大学入っちゃうもんねー」
「けっ、よく言うぜ。お前の学力じゃまだまだ程遠いぞ?」
「私はあと二年あるも〜んっ」
「それだけデカイ口叩いて落ちたら笑ってやっかんな?」
「そっちこそ!」
小突き合いながら二人で笑った。
「受験終わったら、また家庭教師してくれる?」
「おー、死ぬほどびしびし鍛えてやっから覚悟しとけ」
「・・・怖〜っ」
「まぁそれで落ちた時は」
「ちょっと!縁起でもないこと言わないでよ!」
「俺が責任とってやっから心配すんな」
「・・・・・・・・・・・・へ?」
ぽかんと見返してみれば、すたすたと歩き出してしまった。
「ほーら、帰んぞー」
「・・・え?え?そ、それって永久就職ってこと・・・?」
「腹減ったな。あのぐるぐるになんか作らせるか。今あいつ家いんのか?」
「いる・・・って、そうじゃなくて!先生ってばー!」
「お前その“先生”ってのいい加減直せよ」
「〜〜〜〜ゾロッ!」
「おー、なんだー?」
はぐらかしてにやにや笑う顔が悔しくて背中から突進してやった。
地味に痛ェよとかキレるゾロにべーっと舌を出す。
腹立つ!苛つく!ムカつく!超大好きッ!!
見てなさいよ!?絶対同じ大学入ってやるんだから!!
抑えきれないにやけ顔で抱きつくとおでこにキスされた。
そんな愛おしそうな顔しないでよ、熔けちゃうじゃん!
「顔赤ェぞ?」
「夕日のせいですぅ〜!ゾロこそ赤いよ?」
「夕日のせいだろ」
「意地っ張り」
「捻くれ者」
「どっちが!」
「オメーだろ」
夜、お兄ちゃんからゾロは推薦でかなり良い大学にいけるのだと聞いた。
けどそれはここから遠く離れてしまうから蹴ったのだと。
それって、私のためだって自惚れていいんだよね・・・?
私はお兄ちゃんの前だというのに号泣してしまった。
お兄ちゃんは少し寂しそうに、けれどとても優しく笑ってくれた。
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