−くれデート−


「なんっで私は勉強させられてる訳!?」

が納得いかねェって顔で俺を睨みつけてくる。

「時間外で見てやってんだからありがたく思え」
「だってこれデートでしょ!?」
「別に一緒にいることに変わりねェんだからいいじゃねェか」
「そういう問題じゃ・・・っ」
「いいから早くこれ解けよ、手止まってンぞ」

はしぶしぶノートに向かうものの、納得いかないだの、なんか違うだのとぼやいている。
こちとらバイト代がかかってんだ。何が何でも成績アップしてもらわなくちゃ困ンだよ。

今日ははじめてがウチに遊びに来た。
たまたま昨日良い参考書を見つけた俺は、それとノートをテーブルに並べると
家に上がって早々にコイツをそこへ座らせた。
最初はぽかんとしていたが、状況を把握するとむくれた面でぶつくさと文句を垂れ始めた。


ぶちぶち言いながら問題を解くという器用な真似をやってのけるをムシして俺はノートに目を向ける。

「せっかくオシャレして来たっていうのに・・・」
小さく呟いたその言葉につられて俺はの格好に目を向けた。
まぁ惚れてる女が自分の為にめかしこんで来たと聞きゃ、悪い気はしねェな。

「なんだ、勝負下着でも着けてきたか?」
にやりと口端を上げればは真っ赤になって憤怒した。
「こんのエロマリモッ!!」
「ほぉー?問11から50まで追加な」
「っっ〜〜〜〜!!」
忌々しげに顔を顰めるとがりがりと親の敵のようにシャーペンを進める。
っつーか、そんなぴらぴらした服来てくるなんざ襲ってくださいと言ってるようなもんだろーが。



の勉強を見ながらふと時計に目をやると、時計の針は2本とも真上を差しかかっていた。
「腹減ったな。なんか作るか」
「あ、料理だったら私が・・・」
そこまで言うとは、はっとしたように口をつぐんだ。

「なんだ?作ってくれンのか?」
「つ、作んないよ!なんでマリモごときに作ってやんなきゃなんないのよ!」
「あァ?オメーが作るって言ったんだろうが」
「言ってないもん!耳遠いんじゃないの?耳鼻科行ってくれば?」

暴言を吐いて噛み付いてくるに青筋立てながらも、その様子に疑問を抱く。

「なんだ、料理出来ねェのか?」
「でっ出来るわよ!バカにしないで!」
「じゃあやってもらおうじゃねェか」
「・・・・・・・・・・・・」

俯くを覗き込む。
「なんだよ?」
「・・・先生、お兄ちゃんの料理食べたことあるでしょ?」
「あぁ、そりゃあ・・・」

言いかけてなんとなくの様子に合点がいった。
コイツの兄貴は、ゆくゆく祖父さんがやってるレストランで働くつもりらしく、料理の腕前はなかなかだ。
だからあいつらとつるむ時はよくあの野郎が飯を作ったりするんだが、
どうやらコイツはそれと比べられるのを嫌がっているようだ。

「別にアイツと比べたりしねェよ」
「・・・ほんと?」
上目遣いで聞いてくるに頷いてみせる。
すると、じゃあやる・・・と言ってキッチンに立ち始めた。




数分後・・・

ザクッ、ザ、クッ・・・ザ、ク・・ゴトンッ・・・どんっ!
覚束ない包丁の音と、時折何かをひっくり返したり落としたりする音。
加えてきゃー!だの、うわっ!だのと悲鳴が聞こえてくる。

「・・・大丈夫か?」
「こっちこないで!見たら刺すわよ!?」
ネコみたいにフーフー言いながら肩をいからせ包丁を向けてくるに思わず後ずさる。
大人しく部屋に戻り、ガラス戸越しにちらちら盗み見る。
真剣な顔で一生懸命作る姿につい笑みがもれた。


そしてしばらくすると出来上がった料理がテーブルに並べられた。
「・・・スゲーな」
「なにがよ・・・」
「男の料理って感「黙って食え!」
キレるにお前が聞いたんじゃねェかと思いつつ、俺は席につく。
野菜炒めとチャーハンらしきそれは、野菜のぶつ切り加減が見事なまでに豪快だった。

「だって普段はお兄ちゃんが作ってくれるし、あれだけ上手い人が家にいると作る機会ないんだもんっ」

そりゃそうだろうな。しかもアイツのことだから、のこと甘やかして台所なんて立たせなそうだ。
それでもそんな自分の腕を差し置いて、ここンちのキッチンが狭くてやりづらいだのなんだのと文句を垂れる。
オメーんちのシステムキッチンと貧乏学生のボロアパートのなけなしの台所を比べるんじゃねェよ。

まぁ食えりゃなんでもいいやと俺は箸を伸ばす。
は何だかんだ言いながらもやっぱり心配なのか、ハラハラした表情で口に入れるのを見守っている。


「・・・・・なんだこりゃ」
「そっ、そんなにマズイ・・・・!?」
「いや、むちゃくちゃ美味ェ」
「ほんと!?」
「まじで」


心底ほっとした様子でも箸を動かし始めた。
しかし、こんだけ見た目と味にギャップがある料理もスゲーなぁ。なんで美味いのか謎だ・・・
味付けはシンプルだが、俺にはクソコックが作る手の込んだ料理よりこっちの方が口に合う。

「兄貴より上手いんじゃねェの?」
「何言ってんの!?お兄ちゃんがこんなのに負ける訳ないでしょうが!!」

てめェが作った料理に向かってこんなのって・・・
大体、褒めてんのに何でキレられなくちゃなんねェんだ。
たとえ自分の料理だろうがなんだろうが、クソコックを貶されることは許せないらしい。
ほんっとにどこまで兄貴バカなんだか・・・

そんなに呆れ返りながらも、俺が食うのをえへへーっとか照れくさそうに笑って見ている姿を前にすると、
まぁいいかと思っちまう。・・・俺も大概重症だな。





メシを食い終わり片付けが済むと、はまた参考書をテーブルに広げた。
開いたばかりのそれを俺が閉じるとは不思議そうな顔で見返す。

「せっかくめかしこんできたんだろ?そろそろデートとやらに切り替えようぜ」
「いいの!?わーいっ!」
無邪気に腕に抱きついてくる。・・・襲うぞコラ。

「あ、でも・・・外に行くの?」
財布を尻のポケットに突っ込んだ俺をが何か言いたげに見上げる。
「なんだ?どっか行きたかったんじゃないのか?」
そうなんだけど・・・と歯切れ悪いは、なんだかもじもじしている。

「?」
「・・・せっかく二人きりだし、もうちょっとこう・・・くっついたりしたいって言うか・・・」
頬を紅潮させて俯く




・・・・・・・・・・・・・・・・それは襲ってくれと見なしていいんだな?




一瞬教え子に手出すのも・・・と理性が頭を過ぎる。
しかし、足を崩して座るの短ェスカートから伸びる白い太ももにごくりと唾を飲んだ。
ダメ押しに潤んだ目で見上げられ・・・


―――理性3秒で崩壊。


自分の理性の脆さに呆れつつも、その場にを押し倒す。
驚いたように目を見開いただったが、揺れる瞳でじっと俺を見つめるとそっと瞼を下ろした。
あー、もうコレ止まんねーわ。


に被さり、顔を近づけようとした瞬間



♪〜〜〜♪〜〜〜



俺の携帯が鳴った。

「・・・携帯鳴ってるよ?」
「関係ねェよ」

無視して再び顔を近づけると、寸でのところで今度はの携帯が鳴った。

「!!この着メロはお兄ちゃんっ!」
「あァッ!?・・・ふがッ」
俺の顎を思い切り押し返しては携帯へ走った。
「テんメー・・・ッ!」
「しっ!ちょっと黙ってて!・・・はい、もしもし?お兄ちゃん?」
顎を擦りながら睨む俺に人差し指を口の前に立てては電話に出た。

「うん、うん・・・え?えーと・・・と、友達と一緒だよ?ま、まっさかー!そんな訳ないじゃんっ・・・」

どもんなよ、嘘だってバレバレじゃねーか。
呆れてため息を吐くと、ふいにまた俺の携帯が鳴り出した。
さっきと同じ着信音。そしてそれはクソコックが自分用にと勝手に人の携帯をイジって設定したものだった。
俺は動揺のあまり反射的にそれを切る。は固まってだらだらと汗をかいていた。

どうやらアイツはと俺が一緒にいるかどうかを探るために
家電でにかけつつ、自分の携帯を使って俺の携帯を鳴らすという芸当をやらかしたらしい。
・・・テメーはどっかの刑事か!?

「はっ、はいぃぃー!今すぐ帰りますっ!」

・・・は?なんだと!?
携帯を切るとはすぐさま帰り支度を始めた。

「嘘ついたのバレたから、今日はもう帰るねっ!」

ふざけんな!あんだけ盛り上げといて今更帰る気かよ!治まりつかねーっつの!
そんな俺に構わずは出て行こうとする。
・・・マジかよ。

俺は頭をがりがりと掻きながら玄関に向かうの腕を引っ張った。
軽く口付けると、は目を丸くしながら赤くなった。つられて俺も顔が熱くなるのを感じる。
そんな俺にはへへへっとはにかんだ。

「また・・・今度ね?」
「・・・おー」
俺の手をきゅっと握ると、は手を振って玄関を出て行った。
ぱたぱたと足音が遠ざかっていく。








「・・・・・・あっっっんのぐるぐる眉毛がぁぁぁぁあああーーーッ!!!」

どうしてくれんだこの収集つかねェ体をッ!
アイツ絶対ェどっかから監視カメラで見てるだろ!?
あー!クソッ!こんなことならさっさと手ェだしゃ良かったぜ・・・

玄関で蹲り、俺はあまりのやりきれなさに、うがーッと喚いた。
賃貸じゃなきゃ壁でも殴ってやンのに!
とりあえず今度クソコックに会ったらブン殴ってやろうと俺は心に決めた。










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 サンジがやった技は某ドラマの刑事さんがやったのを拝借w