−放課後−
一生懸命ノートを写すその俯き加減な顔に、まだ出来立ての傷。
「またケンカ?」
「向こうが勝手に絡んできたんだ」
「アンタは黙ってても絡まれる人間なんだから、いい加減手出す前に口を出すことを覚えなさいよ」
そう言うとゾロは眉間に刻まれた皴をいっそう濃くした。
ゾロはいつも誤解されやすい。
この前だって不良に絡まれていた子を助けただけなのに勘違いされて呼び出しを食らった。
けど弁解ってものをしないヤツだから、教師達に理不尽に叱られ続ける。
その度に私や友人たちがフォローに入るのだ。
まぁ、私たちがそんな風に必死になるのも、ひとえにコイツの人徳の賜物だけれど。
やれやれとため息を吐いているとふいにゾロの手が頬に触れた。
びっくりして思わず飛び退く。
「な、何!?」
「ほっぺたに睫毛ついてたから取っただけだ。んなにびびんなくてもいいだろ」
不貞腐れたような物言いに腹を立てる。
「だーからアンタは手出す前に口出せっつってんでしょ!?」
「いいじゃねェか別に」
「いくない!早く写しなさいよ、もぉっ」
―――びびるっつの!好きな人にいきなり触られたら!
人の気も知らずに納得のいかない顔でまたノートを写し始めるゾロ。
「今日はサンジ君とかウソップとか捕まらなかったんだ?」
「そういう訳じゃねェけど、お前ェのノートが一番見やすいからな」
・・・ほんっと人の気も知らないで。
四六時中寝てる誰かさんに見せるためにこっちはどんだけ丁寧にノート取ってると思ってんの?
褒められた嬉しさを滲み出させないように
「早く写してくんないと私も提出できないから急いでよ〜」
なんて憎まれ口叩いてみせる。
グラウンドでは野球部が練習していて、カキンッなんて子気味いい音が響いている。
本当はゾロを見つめていたいけど、あんまりじっと見てるのも悪いからぼんやりと窓の外に視線を向けた。
・・・あ、ルフィが乱入してきた。
野球部の顧問がいないのを良い事に、混じって遊び始めている。
ぷっ、サッカーボールで野球し始めたよあの子。
ウソップも悪乗りして参加してる。
あれ、いつのまにかサッカーになった。
あぁ、やっぱサンジ君サッカー上手いな。
はははっ、顧問に見つかっちゃった。うわ、逃げ足早っ!
笑いを堪えながらグラウンドを見ているとふいにパタンとノートが閉じる音がした。
「あ、終わっ・・・・」
振り返ったら――― 何故かキスされた。
呆然とする私の前でゾロはぶすっとしたまま顔を赤くした。
「・・・は・・・?・・・・え・・・何、で・・・・・」
「あんま他のヤツ見んな。なんか面白くねェ」
いや・・・答えになってな・・・いや、なってるのか?
尚もじっと見続ける私に居心地悪そうに視線を逸らして
「お前に惚れてんだよ」
とぼそっと呟いた。
「っっ!!〜〜〜だーからアンタってヤツは!手より先に口出せって言ってんでしょ!?」
赤面して怒鳴る私につんっと顔を背ける。
「いいじゃねェか別に」
「いいワケあるか!」
「俺が惚れててお前もそうならいいだろ?」
「誰がアンタに惚れてるって言ったのよ!?」
「なんだ、違うのか?」
「〜〜〜ッ違わないけどっ!」
「んじゃいいじゃねェか」
「ダメだっつってんでしょ!」
何故か完全にゾロペースになってしまった。
こんな風に告白するつもりじゃなかったのに!
それでもゾロは嬉しそうに笑う。
くっそぉ、その不意打ち笑顔やめろっ!
赤くなった顔を取り返したノートで隠す。
なんかもう逃げたくなってノート提出を理由に立ち上がると腕を掴まれた。
「まだ答えちゃんと聞いてねェ」
「は?言ったじゃん!」
「知らねェな」
っんだこの唯我独尊ヤローは!!
にやり笑いを浮べるゾロに負けてる気がして悔しくてしょうがない。
くっそ・・・
意を決して深呼吸して向き直る。
ゾロは私の言葉を黙って待っている。
ちゅっ
その顔に不意打ちで口づけた。
ゾロが目を丸くして固まっている。
あーくそっ、やった私のが恥ずかしいわ!
それでもゾロもみるみる赤くなっていった。
「おまっ・・・人には口出せっつったくせにっ・・・!」
「だから出したじゃない“ク・チ”」
んべーっと舌をだして廊下のほうへと逃げた。
「おい、っ!」
「ゾロに惚れてんの!」
赤い顔のままケンカ腰で言い逃げして走った。
最後に見えたゾロの顔は嬉しそうだった気がする。
・・・明日どんな顔して会えば良いんだろう
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