paille


真っ暗な視界の中で、右足だけを温かさが包んでいた。

時折爪に触れるそれを感じながら、冷やしたタオルを目から下ろす。

足元ではやけに真剣な顔をしたウソップが私の爪に色をのせている。

刷毛が動くたびに色づいていく足先をぼんやりと目で追った。



 −失ネイルサロン−



人にペディキュアをしてもらうとなんだか女王様にでもなったみたいな気分になる。

しかも男友達にそれをしてもらうというのは一層変な気分だ。

だけど異様に器用な彼は見事な程美しく私の爪を彩っていく。

「ウソップってほんとに器用だよねぇ・・・」

自分でも情けなくなるくらいの鼻声が出た。


「へへっ、まぁな。ネイルやらせたら世界一選手権関東代表だからなっ」

「なんだその微妙な位置付けは・・・」

私が笑うとウソップも笑った。

あ、すごい・・・私笑ってる・・・。


少し落ち着きを取り戻すと、段々腹が立ってきた。


「・・・まったくさぁ、こんなイイ女ふるなんて馬鹿な男もいたもんよねぇ」

「ほんとにもったいねーよなぁ、こんなイイ女」

「おーっと、珍しくのっかったね?」


まぁたまにはな、なんて言いながら今度は左足にとりかかるウソップ。



「・・・いっつも無茶なことばっかりしてる人でさぁ。本当に子供みたいでどうしようもないの」

「そうかぁ、どーしようもねー奴だなァ」

「ねぇ?馬鹿みたいに夢おっかけてさ、ほんとにしょーのない奴よ!」

「付き合わなくて正解だなそんなヤツ!」

「そうだよねぇ、フラれて清々したよこっちも!」

「よしっその意気だ!」


ウソップが一緒に怒ってくれるのが嬉しくて、ちょっと気持ちが凪いだ。


「・・・いつだって能天気な顔で笑ってるくせに、昨日はすごい真面目な顔してさ

 ずるいよね?あんな顔して、ごめん・・・なんて言われたら、冗談だなんて誤魔化せなくなるじゃんねぇ?」

「・・・・・・・・・・・」


枯れてしまったはずの涙がまた込み上げてきた。

足元の綺麗なグラデーションが滲んで見える。


「いつもはへらへらしてるくせに、いざっていう時はすごく頼りになってさ・・・」

「・・・ああ」

「本当に馬鹿だし、無鉄砲だし、・・・無茶苦茶な人、だった・・・けど」

「うん」

「本当に・・・・・好きだったんだよぉ・・・・」


最後の方は声にならなかった。

また溢れ出してしまった涙がぼろぼろと零れてくる。

顔を覆ってしゃくりあげていると、ふいに足先が濡れるのを感じた。


「・・・なんで、ウソップも泣いてんの・・・?」


泣いたまま間抜けな顔でぽかんと口を開けた私の前で

ウソップはごしごしと袖で目元を拭い、グズグズと鼻を鳴らした。


「泣いてねぇよ・・・こりゃ鼻水だ。俺は花粉症なんだよ・・・」

あーちきしょー目が痒ィーとか言いながら泣いているウソップについ噴出した。

「あんたは目から鼻水出すんかい」

「そうだよ、最近流行ってんだぞ?知らねェのかお前」

おくれてんなァとか訳わかんないことを言うウソップに笑いが止まらなくなった。


二人で馬鹿みたいに泣きながら笑った。



爪はラメ入りピンクのグラデーションで綺麗に彩られていた。

目は真っ赤に腫れて顔はスッピンな私には勿体ないくらいだ。

でもそれは私を励ましてくれる。


短いメールを送ったらウソップはすぐさま駆けつけてくれた。

泣いている間中黙って隣にいてくれた。

蹲ってたら足元が目について、欠けたペディキュアが自分みたいだと自嘲気味に呟いたら

俺が塗りなおしてやるよと言ってくれた。


ウソップはいつだって誰にだって優しい。

今はその優しさが何より沁みるよ・・・



「ウソップ・・・本当はさ、しばらく家から出たくないなんて思ってたんだけどね・・・」

「あぁ」

「せっかくこんなに綺麗にしてもらったから、外に出ないと勿体ないよね?」

「おぉ、そうだぞ。家でじめじめしてたらカビ生えちまう」

「ゾロの頭みたいに?」

「・・・それ本人に言ったら殴られるぞ」

内緒だよって笑うと、どうすっかなーなんてイジワルな顔で笑った。


 

こんなに早く笑えるようになるなんて思わなかったよ。

ウソップがひと掃け塗るたびに心が軽くなる気がした。

せっかくこんなに綺麗にしてもらったんだから、ちゃんと格好もオシャレして外に出よう。

そしてまた新しい恋を探すんだ。


ウソップは優しいねって言ったら、俺は優しさライセンスA級だからなと

また訳のわからないことを胸張って言っていた。

いつかウソップにもこの優しさを返せると良いなと思った。

だからウソップがフラれた時は私がネイル塗ってあげるねと言ったら

縁起でもねーこと言うな、っつーか俺が塗ったら気持ち悪ィじゃねーかとツッコまれた。

それに笑いながら、私もウソップのように優しい人になりたいと願った。


 



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 ウソップなら一緒に泣いてくれそうな気がして