− you've got mail −
すっかり日も落ちた帰り道。
右手にはがさがさと音を立てるスーパーの袋。
この程度の荷物がやけに重い気がするのは疲れのせいだろうか。
ふぅ、とため息を吐くとふいに携帯のバイブが震えた。
それは彼女専用のバイブ音。
それに気づいた途端、気分が一気に高揚する。
いそいそと後ろ手でジーンズのポケットから取り出して携帯を開いた。
やはりそこには彼女からのメールが。
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From
Subject 満月が・・・
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タイトルにつられるように顔を上げると、確かに空には満月が浮かんでいた。
そういえば付き合う前、まだ友人という関係だった頃にもこんなメールを貰ったことがあったと思い出す。
今日は月が綺麗だよ、なんて他愛もない内容だった。
窓を開けて見ればそこには本当に綺麗な月が上がっていて。
彼女が教えてくれなければ気づくこともなかっただろう。
ひどく温かい気持ちになった。
付き合い始めてから、実はあれはなんでも良いからメールをする口実が欲しかったのだと
彼女が少し頬を赤らめてはにかみながら教えてくれた。
それにどうしようもなく嬉しくなったのを今でもはっきりと覚えている。
自分に月を見上げさせてくれるのはいつも彼女だなぁ、なんて思いながらメールの本文を開くと
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本文:
なんか美味しそうじゃない?
‐END‐
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と、なんとも色気のない文章がそこにあり、思わずぶはっと吹き出した。
俺今すげーセンチメンタルな感じだったのに!と笑いを噛み殺し震えながら返信する。
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To
Subject Re:満月
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本文:
腹へってんの?(笑)
‐END‐
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するとすぐに返事が返ってきた。
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From
Subject そうかも・・・
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本文:
なんかぽってり丸くて
ほわーっとした黄色で
見てたら食べたくなっ
ちゃった(笑)
‐END‐
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返信にくつくつと笑いながら再び空を仰げば
なるほど確かに彼女の言わんとしていることも分かるかもしれないと口端を上げた。
左手に持ち直したスーパーの袋をちらりと覗く。
中には牛肉ともジャガイモと人参としらたきとインゲンと玉葱と。
突発的に食べたくなったメニュー。
今晩はどうしてもこれと決めていたのだけれど・・・
でもすでに指は次の文章を打ち始めていた。
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To
Subject じゃあ食べる?
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本文:
今から月見うどん作る
けど食いに来ねぇ?
‐END‐
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送信するといくらも待たずに携帯が震えた。
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From
Subject Re:じゃあ食べ
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本文:
すぐ行く!!
‐END‐
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「返信早ェー!」
外だというのに笑いながらつい声に出してしまった。
すれ違う人にちらりと見られ、慌てて口を噤む。
気まずさに顔を赤くしながら足を速める。
今から彼女に会えるのだと思えばついついにやけてしまう口元を手で覆って。
家にある材料で間に合うよな?と思案しながら。
あれ、荷物こんなに軽かったっけ?なんて思ってしまう自分は本当に現金だ。
心の中でよくでかした満月!と、訳の分からないお礼を月へと告げる。
家路を照らす温かな月が微笑んだ気がした。
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肉じゃがはまた明日v