−私がいるよ−
目の前には美しいレディ。
けどちっとも嬉しくねェこの状況。
「イイ男の顔を歪ませるのは爽快ね」
「お褒めにあずかり光栄です、麗しきレディ」
「あらまだそんな口叩けるなんて随分余裕じゃない?」
余裕・・・は残念ながら皆無。
この刃物投げてくるレディに強さで負ける気はしないが、分が悪いことにここに辿り着く迄ですでに俺の体は満身創痍。
まぁた肋骨を何本かやってんだろう。
そのうえ相手がレディとあっちゃ、こちらからは満足に攻撃も出来ない。
やべェな、結構マジでピンチだ。
「それにしても本当に綺麗な容姿。どこから奪ってあげましょうか。その綺麗なブルーの瞳?
料理人と言っていたからその大事な腕にしましょうか?」
「残念ながらアナタにあげられるものはもう何一つないんですよ」
俺の心も体も残らず全部愛しいあの人に捧げてしまったから。
あの笑顔を見られないなんて耐えられねェからこの瞳をやる訳にはいかねェし
例え腕を失ったって俺は料理を諦めたりはしねェけど
それでもあの柔らかな体を抱き締められなくなるなんて絶対に考えられねェからこの腕もやれねェ。
「そんな戯言なんて吐けないようにその口から奪ってやるわ!」
勘弁してくださいよ。さんに愛の言葉を囁けないなんて、俺ストレス溜まって死んじまう。
そんなことを考えながら、俺はその女が剣を向けて飛び掛かってくるのをスローモーションの様に見ていた。
まいったな、体がぴくりともしねェ。これ以上傷増やしちまうと、またあの気丈なプリンセスを泣かせちまうっつーのに。
次の瞬間感じた衝撃は、斬撃ではなく剣同士がぶつかり合うことで生まれた風圧だった。
俺の目の前には赤の飛翔を飛ばす傷だらけの女神。
「サンジ、生きてる!?」
「さん!」
名を呼べば一瞬こちらに視線を向けて、間に合って良かったと場違いなほど可憐に微笑んだ。
不謹慎にもそれに胸が高鳴る。
「少し目瞑ってて!すぐに片を付けるから!」
恋人の前で女二人がやりあうとか修羅場みたいで嫌だわ、とかなんとかとぼけた台詞を吐く。
その間も剣同士がぶつかる金属音が高く響く。
まったくこの人はこんな時まで・・・。
きっと女性が傷つくのを好まない俺を気遣って見るなと言っているんだろう。
でもそりゃ無理な相談だ。
刀を振るうあなたの美しさに俺の目はもう釘づけなんですよ。
参ったなァ、さんそりゃ格好良すぎるよ。あんまりにも格好良すぎて笑いが込み上げてくるくらいだ。
相変わらずの流れるような太刀に見惚れて、俺はさんと出会った日の事を思い出した。
ああ、そうか、俺はあの瞬間からとっくにあなたに心を奪われていたんだ。
あなたは本当に強く、優しく、気高く、そして美しい。
ねぇさん、これ以上俺を惚れさせてどうするつもり?
あーぁ、プリンセスに守ってもらうプリンスだなんて立つ瀬がねェなァ・・・。
さんは宣言通りあっという間に片を付けて倒れている俺の傍に駆け寄った。
「サンジ、大丈夫?」
「・・・最愛のレディに守ってもらうなんて俺クソ情けねェな」
眉尻を下げてため息を吐くと、無事だと判断したさんは安堵の表情を見せた。
「なぁに言ってるの!ここに来るまで散々守ってもらったんだから、たまには私にもサンジを守らせてよね」
守られるだけなんて性に合わないわとさんは鮮やかな笑顔を見せる。
「そうじゃないとなんの為にゾロに稽古つけてもらってるか分かんないじゃない」
「え、俺の為なの?」
驚いて聞き返すとさんは照れ臭そうにはにかんだ。
「羨ましかったのよ、サンジが安心して背中を預けられるゾロやルフィ達が・・・
私もいつか、背中はまかせてって言えるくらいになりたいなって思ったの。・・・なーんて、まだまだなんだけどね」
えへへっと浮べる苦笑はもうどうしようもないほど可愛らしく・・・そんな顔でそんなセリフ・・・
・・・あーぁ、ダメだ。完敗。
俺マジでこの人に何回恋すりゃ気が済むんだろう。
もうこれ以上ないくらい骨抜きにされてんだけどなァ。
俺は軋んで悲鳴を上げる体を起き上がらせて彼女の前に立った。
「血で汚しちまうけど抱き締めさせていただけませんか、プリンセス?」
さんはころころと鈴が転がるように笑った。
「とっくに血だらけですから今更構いませんよ、プリンス」
クスクスと微笑み合って互いに抱き締める。
彼女がここにいて、またこうして体温を感じられたことに心底安堵する。
クソ、絶対ェもっと強くなってやる。
さんの時間をクソ剣士との稽古なんかに取られてたまるもんか。
そんな必要ねェって言えるくらいの強さを手に入れてみせる、俺の騎士道に誓って。
そんな決意を胸に、俺はこの美しき戦いの女神に誓いのキスをした。
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背中をまかせてって歌詞が好きだったのでvv