「敵襲―――――――!!!」



見張り台にいたウソップがそんな叫び声を上げたのは
俺が昼食の片付けを終え、一服しようとした時だった。
ラウンジから出ると爆音と共に少し離れた海上で水しぶきが上がり、
遠くの方にジョリーロジャーを掲げたやたらデカイ船が見えた。


「おーおー、あちらさんはもうやる気満々じゃねえか」
「ぃよぉーーーっし!一暴れしてくっか!!」
「よーし、行ってこいお前達!俺は援護するっ!」
「お、おおおオレも戦うゾ・・・!」

やれやれ、クソ剣士とクソゴムは心底嬉しそうだし
長っ鼻と青っ鼻は足ガクガクで腰引けてるし・・・。

「じゃあちょっくら行ってくるか。さん達はキッチンで隠れていてくれるかい?
 ウソップ、チョッパー、ちゃんとレディー達を守っとけよ!」

レディー達をキッチンに避難させ、ウソップとチョッパーにGM号を任せると
やる気満々な船長が敵船に腕を伸ばし、俺たち三人は敵船に乗り込んでいった。


しかし着いた先には見事に雑魚ばっかり。クソ手応えねェなと思った時
船のデカさの割に船員がやけに少ない事に気付いた。
嫌な予感がしてGM号に目を向けると、群がる蟻のように野郎共が乗り込んで行くのが見えた。
水中からか!?

「っやべぇ!おいルフィ!あっち戻んぞ!!」

残党をゾロに任せると、俺達はすぐさま引き返した。


ラウンジの前には鉄で出来た網みたいなもんに閉じ込められているロビンちゃんとチョッパーが蹲っていた。

海楼石入りか!?用意周到に悪魔の実の能力を防ぐようなもんを・・・。
ってことははなっからウチの船狙いだった可能性もあるな。
あっちを囮に水中から乗り込んでいったのも、ルフィの能力で俺らが乗り込むことを見込んでかもしれねえ。

周りの敵共を蹴散らし二人を解放すると、ルフィは船尾、俺は船首の方へと別れた。
向かってくる奴らを蹴り落としながら、胸が逸る。
俺の意識はどうしたって彼女の安否へ向けられた。

「サンジっ!!」

見張り台からウソップに呼ばれ顔を上げれば「あっちだ!」と指を差す。
ウソップ自身は自分に向かってくる奴らを相手するので手いっぱいで、すぐにパチンコを構えなおした。
差された方向へ目を向けると、俺の目は信じられねェもんを捉えた。


さんっ!!」


倒れているさんと、それを庇う様にして敵と対峙するナミさん。
そして・・・さんの体の下にはどす黒い色をした血溜り。


それを目にした瞬間、頭ン中が真っ赤になった。
自分の中の血が沸騰するような感覚に見舞われ
気付いた時には彼女達に向かっていくクソ共を蹴り潰していた。


コイツら、殺してやる・・・!!


生まれて此の方感じた事が無いくらい強く、本気でそう思った。





俺は完全に我を忘れていて、かなり注意力散漫になっていたのだろう。

「サンジ君っ!!」

ナミさんの声にはっとすると、そこには砲弾が接近していた。
まずい!と思った時にはもう、蹴り返すだけの距離はなかった。
しかしそれでも俺の体は無意識に、玉との間に蹴るだけの距離を作ることよりも
彼女達の前に身を挺して壁を作ることを選んだ。
辛うじて足に当たったもののやはり蹴り損ない
砲弾は俺の体から殆ど距離を作らずに爆発した。
目の前が一瞬にして眩しい光に包まれ、強烈な痛みが全身を包むと
そこで俺の意識は途切れた。







 


 


  ―――・・・・人の気配がする

  うおっ!痛ってェ!!体がクソ痛ェ!!

  あ、ってことは俺生きてんのか?

  あー、それにしても痛ェ・・・

  目開かねェし、どうなってんだ?

  さん達は無事、なのか・・・?




・・・・・?話し声・・・?



「・・・・・とに、ごめっ・・・、私のせ・・・で・・・」

――――ナミさんが泣いてる?珍しいな・・・

「何言ってるの。あの後私のこと守ってくれてたのナミだったんでしょう?」

――――さん!良かった、無事だったんだ・・・


「だっ・・・て、もとはと言・・・ば私が、不注意、だったせいで、が・・・」
「も〜、泣かなくていいのっ」

どうやらナミさんを庇ったせいでさんがあそこに倒れていたということらしい。
ナミさんはさんにクソ懐いてるから、涙してるのも納得がいった。
出血のわりには怪我もひどくないのだと知り、心底安堵して胸を撫で下ろした。

「サンジも大丈夫だって、さっきチョッパーが言ってたし」

――――そうそう、俺は大丈夫だから泣かねェでよナミさん

「・・・うぅぅっ・・・」
「も〜、しょうがない子ねぇ」

――――さんの優しい声が耳に心地良い。ナミさんの事抱き締めてやってんのかな?
      ・・・クソ羨ましい・・・。


「それに、サンジならチューの一つでもしてあげれば、意外と起きるかもよ?」

――――さん・・・俺のことなんだと思ってるんですか?・・・まぁ起きるけども

「ぷっ・・・じゃあやってみせてよ」
「イヤよー、押し倒されちゃう」

――――まぁ否定はしねェけど

「ほらほら、夜更かしは美容の大敵よ?サンジには私がついてるからナミは先に寝といで」
「・・・うん、でもも無理しないでね」
「大丈夫よ。おやすみなさい」

おやすみという声と共にナミさんが動く気配がして、パタンと戸が閉まる音が聞こえた。



「・・・・・・・・・・・・」

さんも俺の事は良いから休んでもらいてェ。
と思ってはいるんだけど。

さんが傍に居てくれる事が、どうしようもなく嬉しい気持ちを止められねェ。
俺ァはどうしようもねぇ野郎だな・・・。


ふと、髪に何かが触れ暖かさを感じた。
さんが俺の髪を手櫛で梳いているのだと分かった。


「・・・サンジ・・・」


心地良いと感じた手が離れ、少しの間をおいて聞こえてきた声は驚くほど弱々しかった。
どきりと胸がはねる。


「・・・サン・・・ジ・・・」

――――・・・さん?

「・・・・・・・・・」

――――泣いて・・・る?

「・・・ひっく・・・」

――――さん

「・・・うっ・・・く・・・」

――――さん、お願いだから泣かねェで・・・

「・・・・・・・・・・・」

――――抱き締めてェけど、今体動かねェんだ。



さんの泣き声を聞きながら、ぴくりとも動かない自分の体に苛立った。
こんな時になんて役立たずな体だともどかしさを感じていると
しゃくり上げながらさんがぽつりぽつりと話し始めた。


「・・・サン・・・ジって・・・ほんっ・・・と・・・・・」

―――― ・・・・・・・・・・・・

「・・・ほんっとにバカ」

――――えぇ〜〜!?

「すっごいバカ・・・ほんっと、救い様もないくらい・・・」

――――まさか寝てる時まで罵倒されるとは・・・

「バカで・・・バカで・・・」

――――や、そこはなんかこう甘いセリフとかを囁くとこなんじゃ・・・?

「ほんと、どうしようもないくらい・・・・」

――――・・・ゴメンナサイ

「優しいんだからっ・・・」

―――― ・・・・・・・・・・・



「・・・・優し・・て、優しくて・・・・優し過ぎ、て…」

――――・・・・さん・・・

「・・・心配になるよ・・・」

――――心配なのはこっちだよ


「いつだって・・・人の事ばっかり、気にして」

――――ナミさんの前では気丈にしてたくせに

「まわりが危険な目に合うとすぐ、自分の身も顧みずに、飛び込んで・・・」

――――貴女って人は、もう、ほんっとに強がりなんだから

「助ける為なら、自分の命だって、迷わず投げ出して・・・」

――――なんでそう、平気なふりすんの上手いかな?

「そういう・・・サンジの強さとか、優しさとか、すごいと思うけど…」

――――本当はこんなにも弱ェのに・・・

「そういうとこも、好きだけど・・・」


――――ねぇ、さん・・・

「時々どうしようもなく、見てて、辛くなるっ・・・」

――――そんなこと言われたらさ

「私は・・・そんな貴方だから・・・」

――――俺、調子にのるよ?

「誰より優しいサンジだから、誰より幸せになって欲しいって・・・」

――――あんまり俺を喜ばせねえでくれねェかな

「願っちゃうんだよ・・・」

――――また性懲りも無く・・・期待しちまう

「こんなに優しい人が傷つく姿を・・・見たくなんか、ないのよ・・・」

――――全く・・・誰よりも大事な女性を泣かせてるっつーのに

「ねぇサンジ・・・」

――――喜んでる俺は

「貴方の優しさが・・・痛いよ・・・」

――――クソ最低なヤローだね






ようやく薄く開いた視界には、俺が横になっているソファに顔を突っ伏し
声を殺して泣いているさんが見えた。

体に激痛が走る。
でも、そんなこと構ってられっかよ。


「・・・!・・・サ、ンジ・・・?」

さんの頭を引き寄せて胸に押しあてた。



「・・・そんなこと言われると、抱き締めたくなるんですけど」

やけに擦れた声が出た。
さんがグズグズと鼻を鳴らす音が聞こえる。

「・・・狸寝入りなんて・・・趣味、悪いんじゃない・・・?」

声を詰まらせながらも強がってみせるさんが、愛しくてしょうがねえ。

「や、ほんとに最初は動けなかったんだって」
「最初・・・は?」
「途中からは、さんの言葉が嬉しすぎて動けなくなっちまった」
「・・・嬉しかったんだ?」
「もうね、嬉しすぎて死にそうなくらい」
「それ、この状況で言われるとシャレにならない・・・」

俺の胸に顔をつけたままのさんが上目遣いで睨んでくる。


「もうっ、いつから起きてたのよ」
「んー?いつだろ?すげェバカバカ連呼されたのは覚えてるけど」
「・・・・・・・・・」
「クソ傷ついたなァ」
体の怪我よりも、心が傷ついたなァなんて大げさに傷ついてみせる。

「・・・スイマセン」
「お詫びはほっぺにチューでいいよ?」
「・・・やっぱり死ねばよかったのに」
ひでー、と笑うとさんは呆れたようにため息を吐いた。

そっと顔を上げると、また悲しそうに瞳を揺らす。


「サンジ、ごめんね・・・」
「何が?」
「・・・私がもっと、強かったら・・・サンジをこんな目に合わ・・・」
さん」
言葉を遮られて、さんが息を呑んだのが分かった。


「俺はさ、こういう性分だし、それはこれからも変わらないと思うんだ」

真摯な瞳が俺を見つめ返す。

「仲間が危ない目に合ったら絶対ェ助けてえし、さんがピンチの時はなにがなんでも救いてえ」
「・・・・・・・・・」
「じゃなかったら、俺生きてる意味ねえよ」
「・・・・サン、ジ・・・・」

俺はさんの頭をゆっくり撫でて笑顔を向けた。

さんが心配してくれんのはクソ嬉しいんだけど、やっぱり俺は生き方を変えられねえ」

さんの目からまた大粒の涙が零れる。
あーあ、また泣かしちまった。

「だけど、こんな風にさんに泣かれんのはクソ辛ェんだわ」

ぐっと唇を噛んで俯く姿に思わず苦笑する。

「だからさ、俺、もっと強くなるよ・・・
 もっともっと強くなって、さんがもう泣かなくても良いように、安心して見てられるように、強くなってみせる」

必死で堪えようとしても溢れ出る涙にさんが顔を歪めた。


「だから、さん」

ゆっくり上げた顔は、目も鼻も真っ赤だ。
せっかくの美人が台無しだぜ?


さんの事、俺に守らせてくれねぇかな?」

――――今は、ただの仲間としてでも良いから・・・


「そんな、自分の事は自分で守れないとなんて、寂しいこと言わないでよ」
ぼろぼろと零れるそれをそっと指で拭ってやる。

「プリンセスを守るのは、プリンスの役目なんだぜ?」

悪戯っぽくウィンクして見せると彼女はようやく笑顔を見せてくれた。
ろくに開いてねェ目でこんなことして滑稽この上ないんだろうけど
いいんだ、貴女が笑ってくれるなら。

「サンジ・・・ありがとう」
「どういたしまして、レディー」
ふふっとまたあの可愛らしい微笑を零す。
俺にとっちゃ何よりの薬だな。

さんはまだグズグズ鼻を鳴らしながらも、手で顔を擦って整えた。
「ほら、そろそろ休んで。絶対安静なのよ?」
「はーい。あ・・・じゃあさ、またさっきみたいにやってくんねえ?」
「さっきって?」
「俺の髪撫でてくれてたでしょ?」
クソ気持ちよかったと言うと彼女は目を丸くしてから
ほんとにいつから目覚めてたんだか、と笑った。

俺も口に弧を描きながら目を閉じると、髪にまたさんの温もりを感じた。
すっげェ気持ちいい。眠ィんだけど、寝ちまうのもったいねえなぁ。





けどやっぱり睡魔には勝てず、夢へと落ちていく俺は
微睡みの中で頬を掠める暖かな温もりを感じた。
でもそれは俺の願望が見せた幸福な夢だったのかもしれない。









・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


                                   Next>>>

                                   Back>>>