「ー!またなんか話聞かせてくれー!」
甲板に出したパラソルの下で寛ぐレディー達のもとにお子様組が駆け寄ってくる。
最近じゃ見慣れた光景の一つ。
俺も麗しい彼女達へ届けるアイスティーをトレイに乗せ、そちらへと向かう。
「そうねぇ、じゃあ今日は私がゾロと出会った時の話をしましょうか」
「おぉー!それ聞きてぇー!」
椅子に座るさんの足元に集まる三人。
ナミさんやロビンちゃんも面白そうに本から視線を上げる。
「あれはまだ私が子供だった頃のことよ。私はある日一人で村にある綺麗な湖へと散歩に出かけたの。
湖に近づいてその中を覗き込んでみるとそこには小さくて丸い緑色の塊・・・マリモが浮いていたわ」
俺は思わずトレイを落としそうになるのを既の所で堪えた。
「マリモって、いっつもサンジが言ってるアレか?」
「そうよチョッパー、シオグサ科の緑藻植物なの」
さんはにっこり笑って続ける。
「私は物珍しさから、じーっとそれを見ていたの。
すると突然、そのうちの一つが私の方を向いて喋りだしたの! 『あ?もう朝か?・・・ぐぅ〜zzz』」
「「「ぎゃはははははっっっ!!!」」」
さんは前髪を上げて顔を顰めるとゾロの口調を真似た。
それがまたっ・・・超上手ェ!
「すげー!マリモ喋ったのか!?」
「そうなの!私もびっくりしちゃった!」
あ〜クソッ・・・!信じきってるチョッパーの面と真顔で話すさんがくそツボにハマる。
「面白かったから私はそれを小瓶に入れて家に持ち帰ったの。
毎日出来るだけ日に当ててあげるとそれはすくすくと育ったわ。
でもね・・・ある日、マリモから手足が生えてきてっ・・・!」
「「「・・・・・!・・・・・・・!!」」」
完璧ホラーじゃねえかっ!
「えぇーー!?手が生えたのかぁーーー!?」
「そう、足も!!」
「「「ぎゃはははははははっっっ!!!」」」
ルフィとウソップは床を転げ周り、ナミさんはテーブルをバンバン叩きながらひーひー言ってるし
ロビンちゃんでさえもそっぽを向きながら小さく震えていた。
俺はと言うと間一髪で飲み物を置いた後、腹を抱えて蹲っていた。
だめだっ!腹痛ェーーー!!
それでもさんは神妙な顔して「いやー、それがあんなに大きくなるとは思わなかったわぁ」とか言い続けている。
「じゃあ、それがゾロだったのか!」
「うん、そうよチョッ・・・・痛たたたたたッ!」
「ンな訳ねぇーだろーがっ!!」
ようやく騒ぎに気づいたらしいゾロが青筋立てながらさんの頭を拳でぐりぐりと挟み込んだ。
「テメーはまたくだらねェ事ばっか言いやがって!!」
「ちょっとしたジョークでしょ〜?」
「えっ?今のウソなのか!?」
「お前ェも信じてンじゃねぇよチョッパー!!」
「・・・っひー!!面白ェーなぁ〜!!もっかいゾロの真似やってくれっ!」
「あ、気に入った?えへへへっ、『背中の傷はァ〜剣士のは・・・』って、痛ぁーいっ!」
「お前全っ然反省してねーじゃねーかっ!!!」
「「ぎゃははははっ!サイッコーーー!!」」
「てめェ等もいつまでも笑ってンじゃねぇーーー!!!」
そしてさんは「シメてやる!」とか言っているクソマリモに担がれ、「きゃーっ」と笑いながら拉致されていった。
さんは本当にあっという間にこの船に馴染んだ。
俺の第一印象はクールビューティーなレディーだったが実はとてもお茶目な可愛らしい人だった。
ルフィ達のガキみたいな遊びにもよく付き合ってやっているのを見かける。
でもそれはあいつ等と同等にというよりも、まるで保母さんが園児と遊んでやっているような雰囲気だった。
そんなさんに奴らはソッコーで懐いた。
レディー達もそれぞれ打ち解けているようで
ナミさんは本当の妹のように可愛がるさんにすごく懐いているようだし
ロビンちゃんは博識なさんとの会話をいたく気に入っているようだった。
そしてさんが来て一番変わったのが、ゾロだ。
まぁさっきは「シメてやる」とかなんとか抜かしていたが見事に口ばっかり。
どうにもヤツは、さんに弱ェというか、甘いらしい。
さっきのだって他の人間がやったことだったら「叩っ切ってやる!」とか言いながら
ボコボコにするぐらいの事はしただろうが、さんには最終的に「しょーがねーなぁ」で許しちまう。
まぁ、万が一さんに手上げるような真似しやがったら俺が許さねェけどよ。
さんの方も久しぶりに弟分に会えた事が堪らなく嬉しいようで
にこにこしながらアイツのトレーニングを見守っていたり
一緒に昼寝してたりと、クソマリモの側で過ごすことが多かった。
そんなさんにマリモも満更じゃなさそうにしている。
それどころか偶然二人でいるのを見ちまった時なんか
俺たちには絶対ェ見せねえようなクソ甘ェ面を晒していたり、ガキみてえな面してたり・・・
さんが特別な存在であることは一目瞭然だった。
そして、俺はと言えば・・・・・
「サンジー!」
物思いに耽っていた俺はさんの声にはっとして、近づいてくる足音に心が跳ねるのを感じた。
さんはトレイにさっきのアイスティーグラスを乗せてラウンジに入ってくる。
「持ってきてくれたんだ。わざわざありがとう」
お礼を言って受取ると、礼を言うのはこっちの方だとさんが笑った。
「コレすっごく美味しかった!いつもいつもありがとね」
「さんに褒めてもらえるなんて光栄だなぁー!」
さんは「相変わらずね」と、クスクス笑って出て行ってしまった。
俺はさんが出て行った扉を暫しぼんやり眺めると、ポケットからタバコを取り出し銜えて火をつけた。
さんが笑えば嬉しいし、俺の作ったもんで喜んでくれりゃー幸せだ。
それは他の女の子達となんら変わらない・・・はずなんだ。
けれど、美辞麗句を並べたり愛の言葉を叫んだり
他のレディーの前では当たり前にしていることが彼女の前では意識しねェと出来ねえ。
それを日増しに認識するんだ。
なんっか俺らしくねえんだよなぁ・・・。
ゾロと彼女の関係を気にしているのが原因・・・なんだろうか。
さんがこの船に来た日、彼女はゾロのことを本当の弟のように思っていると言っていた。
けど実際はあの二人は血の繋がりがある訳でもねェし、男と女の関係になったって全くおかしくねえ。
いや、むしろその方が自然なくらいだ。
だってどう考えてもさんはゾロの事を追っ掛けて来たとしか思えねェし。
たかだか弟分の為に、ふつー女一人でわざわざこんな危険な海までやってくるだろうか?
それに・・・時折二人にしか分からないような空気を感じることもある。
それが幼馴染みだからって理由だけで生み出せるもんなのかは、俺には分かんねェけど。
いや、そもそも俺があの二人の関係を気にしたからって
こんな風に落ち着かねえような気分になる必要あるんだろうか・・・。
俺は外の喧騒をBGMに、さっきのグラスを洗いながら煙草をふかした。
蛇口から出た水の温さがどうにも飼い馴らせないこの想いに似ている気がした。
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