市場で買出しを終えて俺は船へと向かって歩く。
両手には山のような食材。
そして隣には───目も眩むような美しいレディー・・・
出会いは小一時間程前に遡る。
俺達を乗せた船は数週間ぶりに島へと到着し、いつものように俺は買出しに向かった。
島は小さく、食料の品揃えもあまり良いとは言えなかった。
まぁそれでもこんだけ買えりゃ十分か、と帰路へつこうとした時
道の先で一人の女性が野郎共に絡まれているのが目に入った。
「オイオイ、オネーチャン、えっらい別嬪さんじゃねぇか」
「俺達と遊んでいこうぜ〜」
下卑た笑いを浮べる男達に、安いセリフ吐いてんじゃねぇよと嫌気が差す。
一方のレディーはさして動揺した風でもない口調で「ごめんなさい、急いでいるの」と静かに告げた。
その透き通った声は凛としていて、どこか心惹かれるものがあった。
こんな離れた後方からでも見て取れるプロポーションの良さと美しい佇まい。
美女の予感に不謹慎にも期待が高まる俺がいる。
「まぁそう堅いこというなって〜」
下衆野郎の汚ェ手が彼女に向けられそうになり当然の如く助けに入ろうとした。
が、動いたのは彼女の方が早かった。
背負っていた荷物の中から素早く刀を抜き取り、流れるような太刀を振るう。
一瞬のことだったがその無駄の無い動きに思わず目を奪われた。
彼女を囲んでいた野郎共は刀背打ちにされてバタバタと倒れこんだが
やたら図体のデカイ男が一人だけそれを交わし、逆上して彼女に殴りかかった。
彼女も構え直したが今度は俺の方が早かった。
両手の食材を零さないように抱え込んだまま思いきりそいつを蹴り飛ばす。
わき腹に右脚がのめり込むと男は蛙が潰れたみてェな声を上げて吹っ飛んだ。
側にあった木箱の山に派手な音を立てて突っ込むと男はもうぴくりともしなかった。
「ったく、女性に手ェあげるなんざどういう教育受けてんだ。お怪我はありませんか、レディー?」
スタン、と降りて振り返るとそこには目を見張って少し驚いた様子の彼女がいた。
が、それ以上に驚いちまったのが俺だった。
・・・なんっつー綺麗な人だ。
意思の強そうな瞳は黒曜石のように深い漆黒で吸い込まれちまいそうになった。
それを長い睫が扇形に縁取り甘い印象に変えているから尚更に。
ふっくらとした唇はもぎたての果実のように艶やかで惑わされそうになっちまうし。
それらが映える雪のように白い肌は陶器のように滑らかで。
腰まで届くさらりとした緑の黒髪といい、思わず手を伸ばして触れてしまいたい衝動が沸き起こる。
「助けて下さって本当に有難うございました。・・・あの?」
彼女を目の前にアホみたいに呆けていた俺は、彼女の声でようやく我に返った。
「えっ!?あ、いや、当然の事をしたまでですから」
「有難うございます。それでは私はこれで・・・」
あ、やべっ行っちまう!
歩き出そうとした彼女を引き止めたいと焦燥感に駆られているとあるものが目に留まった。
彼女が荷物から取り出したそれはよく見慣れた紙。
「アレ?それ、ルフィ・・・?」
彼女の手には数枚の手配書が握られており、その一番上にはあの馬鹿みたいに能天気な奴の顔があった。
「あなた・・・この人を知っているの?」
お、よっしゃー!引止め成功っ、と心の中でスキップしつつ俺は彼女の手元のものをぴらぴらと捲った。
「っつーか、これ全部うちのクルーの手配書じゃねェか」
残り二枚はロビンちゃんとクソマリモのそれ。つまり今現在うちで手配されている全員のものだった。
「うちのって・・・貴方麦わらの一味なの!?」
「あ、あぁ。俺はこの船のコックなんですよ」
至近距離になった美人につい見蕩れながらも手元の食材をほら、と見せて説明する。
「あのっ不躾にこんな事お願いするのもどうかと思うんだけど、私をその船に連れて行ってもらえないかしら?」
突然の申し出でさすがに驚いた。
すると彼女は慌てたように胸の前で両手を振る。
「あ!私決して怪しいものじゃ・・・って、十分怪しいか」
困ったように自分でツッコんだ彼女に思わず噴出した。
「失礼、でも俺ァこんな素敵なレディーを怪しいだなんて思っちゃいませんよ?
さ、自己紹介は道すがらにして行くことにしましょうか。ご案内致しますよ、俺達の船へ」
格好つけながら言うと、彼女は心底嬉しそうな顔で「ありがとう!」と笑顔を零した。
・・・っかーーー!クソ可愛いぜっ!!
彼女の名前はさんと言うらしい。
なんて素敵な名前だー!彼女にぴったりだぜっ。
「それにしても、さっきは本当に助かったわ」
「いや、助けに入らなくても大丈夫そうだとは思ったんだけどね。つい体が動いちまって」
「そんな事ないわ。あれでも結構焦っていたの」
「全然そんな風には見えなかったぜ?でもなんでさん刀腰に差さねェの?」
リュックの中に仕舞われたそれはとても取りづらそうだし、不思議に感じる。
「だって私は剣士じゃないもの」
「ええ?あんなに強ェのに?だってその刀、しかも二本も・・・」
「私の剣術なんて大したことないわ。それにこの刀は自分の為に持ってる訳じゃないの。時々護身用に使うことはあるけれど」
さっきみたいにね、とにっこり笑ってみせるさんに心が溶けそうになっちまう。
謙遜するさんも素敵だぁーーー!!!
「サンジさんの方こそ強くて驚いたわ。手配されていないのが不思議なくらいよ」
「いやいや、それ程でも・・・まぁ手配書の件に関しちゃあ、海軍の見る目がねぇとしか言いようがねェけど」
大体クソ剣士ごときが6千万ベリーで俺のがまだ出てねぇなんて職務怠慢もいいトコだぜ、とぶちぶち呟く。
すると彼女は興味深そうに俺を見た。
「クソ剣士って・・・このロロノア・ゾロって人のこと?」
「そ。まぁ俺の手配書がでたらそいつの金額の倍は固いけどねっ」
にっと笑って見せるとその大きな目をいっそう大きく丸くする。
「サンジさんはこの人より強いの?」
「当−然っ!全てにおいてね」
親指を立てて見せると、へぇ・・・と感心したよう呟いた。
船へと足を進めながら本題に入る。
「それで、どうしてうちの船へ?」
「実はずっとずっと探していた人がいて、その人があなたの船に乗っているのよ」
「へぇー、さんみたいな素敵な方に探していただけるなんざ、羨ましい限りだなぁ」
「ふふ、サンジさんは口がお上手ね」
「とんでもないっ、本心を言ったまでですよ。それで、その幸せ者は誰なんだい?」
「ええ、あ・・・そうねぇ、それは船に着いてからのお楽しみってことでどうかしら?」
悪戯っぽく微笑みながら口元に人差し指を立てる彼女に俺のハートはブチ抜かれる。
謎めいたさんも素敵だぁーーー!!!
そうこうしているうちに、停泊しているGM号が見えてきた。
「あれがうちの船ですよ」
「あら、随分可愛らしい船首ね」
話しているとその羊頭の上に人影が見えた。
「サンジー!遅っせぇぞー!ナミがもうログ溜まったって・・・ありゃ?」
「どーしたルフィ?」
「なんかサンジが女連れて来たぞー」
「女ァ?まーたナンパかよアイツ」
「すげーなっ珍しく成功したのか!?」
いらねェこと言うんじゃねぇよ、長っ鼻に青っ鼻!
さんに誤解されちまうじゃねーか!って、あぁ!すでに怪訝な表情になっちまってる!
あんにゃろー・・・今日の夕食はトナカイの丸焼きキノコ添えで決定だな。
「うっせんだよクソ野郎ども!大切なお客様なんだから丁重にお迎えしろ!ささっ、さん狭い船ですがどーぞ」
俺の突然の剣幕に圧されながらも彼女は小さく返事をして、俺に続いて縄梯子を上った。
俺は先に船に乗り込むと荷物を置き、彼女に手を差し伸べる。
騒ぎに気づいたクルーの面々が集まりだす。
彼女は船に降り立つと鮮やかに微笑んだ。
「突然お邪魔してごめんなさい。はじめまして、と申します」
「「「「・・・はじめまして」」」」
優雅な動作でお辞儀してみせるさんにそれぞれが返答する。
が、うち数人は彼女の美貌に惚けて呆然としていた。まぁ当然の反応だろう。
「そんでお前ェこの船になんの用だ?」
「あぁ、それなんだが・・・・」
「オイ、なんの騒ぎだ?」
ルフィの質問に答えようと口を開いたところで
煩くて眠れねえじゃねェか文句を零して寝腐れ剣士が欠伸をしながらやってきた。
っつーか、さっさと起きろよ。
「ゾロ!!」
さんの声に全員が驚いて振り返る。
「・・・・・・?」
呆然と立ちすくむゾロの前にさんが駆けていった。と、思った刹那。
カシャンッ!
さんが突然ゾロの眉間に照準を合わせて拳銃を構えた。
「おい、お前ェ!一体なんのつもりだ!!」
「さん!?」
怒鳴るルフィや動揺する俺たちを他所に妖艶な笑みを浮べるさん。
それに対し、驚き浮べていたゾロの表情は徐々に呆れたようなそれに変わった。
「お前ェ等、コイツに手出すんじゃねぇぞ」
「手ェ出すなったってアンタッ・・・」
「いいから黙ってろ」
ガリガリと頭を掻き毟るゾロには焦りの色が全く見えない。
・・・何が・・・どう、なってんだ?
「久しぶりね、ゾロ。会いたかったわ」
「・・・なんでこんなトコにお前ェが居んだよ?」
「あら、随分な言いようね。それが感動の再会を果たした姉に対する口の聞き方なの?」
「「「「「姉ェーーーーーーー!!!??」」」」」
ううう嘘だっ!こんなお美しい方がクソマリモのお姉さまだなんて!
どんな遺伝子操作だよそりゃ!ありえねえ!
顎が外れんばかりに驚く俺たちの様子に可笑しそうにさんはころころ笑った。
「楽しい皆さんね」
「・・・お前ェはまた、そういうくだらねぇ真似を・・・」
「と、いう訳で皆さん、よろしくねっ!」
ねっ、という言葉と共に引き金が引かれ、パンッ!と乾いた音が船に響いた。
一瞬体を強張らせた俺たちが見たものは・・・
盛大に眉を顰めたゾロと、その眉間に張り付いた吸盤。
それと銃との間に伸びた糸に垂れ下がる色とりどりのテープ。
そして『よろしくね』と語尾にハートマークのついた垂れ幕だった。
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