夕食が終わる頃、俺はある違和感を感じていた。
なんかさんと目が合わない気がする・・・?
でもいつものように笑っているし、それ以外変わった様子もないし
俺の気のせいだろうか?
さんの事ばっか考えてるせいでおかしくなってんのかな俺・・・
うーん、こりゃ末期だな。
食べ終わり立ち上がったさんを呼び止めようとした時。
「ゾロちょっと良い?」
さんがゾロを呼んだ。
ゾロは一瞬不思議そうな顔をしてから頷いて一緒に出て行った。
なんだろう?
でも別にさんがマリモを呼ぶのは珍しいことじゃない。
その時の俺はそこまで気にしていなかった。
けれどそれから数日、さんはゾロと一緒にいることがやたらと多くなった。
それに比例するように俺と顔を合わせる機会はどんどん減っていった。
避けられている気がする・・・徐々にそう思うようになった。
けれど話しかければ返してくれるし、他のクルーともいつも通り接している。
極端な変化ではなかった事がかえって理由を聞きづらくした。
正直困惑していた。どうしてだか理由が分からない。
俺は何かしてしまったんだろうか。
もしかしたら、彼女に気持ちを押し付け過ぎたせいだろうか?
俺の気持ちが彼女を追い詰めてしまったんだろうか?
迷惑だったのだろうか・・・。
不安の増加とともに気持ちは弱気になっていった。
日に日に彼女との距離は離れる一方で、避けられているのは最早明白だった。
ゾロと二人でいる姿を見るたびに不安が押し寄せる。
もしかしたら彼女の気持ちは変わったのかもしれない。
アイツへと向かったのかも・・・。
船首で告白した日、彼女に伝えた言葉は全て本心だった。
彼女の話を聞いて、彼女の気持ちも俺に傾きかけているという自信があった。
けれど、もしかしたら嫌われてしまったのかもしれないと思うと途端に動けなくなってしまう自分がいた。
あの日の俺は彼女を好きだからという理由で強くなれた。
だが今の俺は彼女を好きだからという気持ちによって弱くなっていた。
あんなに自信満々で宣言したのに、クソ情けねェ・・・
そんな風に葛藤と困惑を繰り返しているうちに、さんが夜の見張りをする日がやってきた。
俺はこの機会にきちんと話をしようと心に決めた。
みんなが寝静まった頃、俺はラウンジで煙草を吹かしながらさんへの差し入れを準備していた。
バスケットに軽食と熱い紅茶を詰めると、深く吸い込んでから煙草を灰皿にぎゅっと押し付けた。
見張り台へと近づく度に緊張が増す。
縄梯子を上り、見張り台へと手をかけると座っているさんの後姿が見えた。
俺に気づく気配もなくぼんやりと海を眺めている。
「さん・・・」
呼びかけると、彼女はびくっと体を強張らせて振り向いた。
その表情には動揺と怯えの色が見て取れた。
彼女の様子に俺は固まってしまった。
目を・・・逸らされた・・・
そこにははっきりとした拒絶があった。
鼓動が早まるのを感じながら俺は見張り台の中へ降り立つ。
バスケットを渡すと彼女は小さくありがとうと呟いた。
このまま逃げ出したい気持ちと、彼女に詰め寄りたい気持ちが同時に湧き出した。
意を決して話し出そうと彼女の名を呼んだ時。
「オイ、何やってんだ?」
下からゾロの声がした。
あいつを追い返してこのまま話を続けようという気は無くなった。
さんの顔に明らかな安堵が見えたから・・・。
俺はぐっと拳を強く握り、そのまま黙って見張り台から降りた。
降りた時ゾロの視線を感じたが見向きもしないで通り過ぎた。
ゾロが見張り台へと上っていくのが分かった。
これはそういうことなのか?
自分の問いかけに失笑した。
それ以外どう考えればいいんだよ?
あそこまではっきり拒絶されといてもう期待も何もないだろう。
マリモとデキてようがそうじゃなかろうが
俺にはもうどうしようもない、そういうことだろう?
夜の海よりも真っ暗でおどろおどろしい場所へと心が沈んでいった。
ハンモックへと身を投げたが、一向に眠りは訪れなかった。
部屋へ戻ってこないゾロに対して苛立ちだけが増していった。
一睡もしないまま朝になり無理やり体を動かし仕事をした。
朝食の時間になり、逃げ場の無い狭い船内に心底嫌気が差した。
しかしさんは朝食に訪れず、正直ほっとした。
ゾロはいつも通りの仏頂面だった。
昼過ぎには次の島に着くとナミさんが言った。
朝食の片付けが終わってラウンジに一人になると俺はテーブルに突っ伏した。
もう何もかもが嫌だった。
ぼーっとしているとラウンジの扉が開きロビンちゃんが入ってきた。
「コックさん、ちょっと良いかしら?」
「・・・あぁ、何か飲み物でも?」
緩慢な動作で体を起こす。
「いいわ、あなたと話がしたいの」
そう言うと、ロビンちゃんは俺の目の前に腰掛けた。
「、ずっと塞ぎ込んでいるわ」
「・・・そう」
「・・・何かあったのね?」
「・・・・・・・・・」
俺が黙っているとロビンちゃんは話し続けた。
「最近ずっと様子がおかしかったものね」
「ははっ、そりゃあれだけ騒いでたのにぴたっと止めりゃあ誰だって気づくよね」
俺たちの変化に他のクルーが気づき始めていることも分かっていた。
「・・・空気悪くしちまってごめんよ」
でもそんなことに構っていられるような余裕はなかった。
ロビンちゃんはそんな俺をじっと見つめ、静かに口を開いた。
「・・・前にもあの子の様子がおかしくなった時期があったわ」
「・・・前?」
「ブルーダイヤを探した島を出た直後よ」
俺が彼女にはじめて気持ちを告げた時期だった。
その事に俺は少なからず驚いた。
俺自身が散々おかしくなっていた自覚はあったけれど
彼女はいたっていつも通りに見えていた。
顔を上げて見返すと、少しだけロビンちゃんは微笑んだ。
「あなたがはじめてあの子に気持ちを告げた時ね?」
「さんに聞いたのかい?」
驚いて聞き返すと、静かに首を振った。
「あの子は何も言わないわ。でも見ていれば分かる。
表に出さないようにする子だけれど、私には若干甘えてくれる所もあるし」
確かにさんは、この船で唯一年上のロビンちゃんには俺たちと違う表情を見せているところがあった。
「私と、あの子と付き合いの長い剣士さん、それから船長さんも気づいてたみたいね」
「ルフィも?」
こういうことには一番鈍そうなアイツが?
「ええ。が笑ってるけど、本当には笑っていないって。
そんなの嫌だけど今は自分の力で頑張ろうとしてるから見守ってやるんだって言ってたわ」
・・・ほんと稀に確信突くヤツだよな。
多分ゾロもそんな感じで黙って見守ってたんだろう。
さんが無理してたことだけじゃなく、分かりやすいクソゴム共のことまで気付けなかったなんて。
つくづく俺自身がどんだけいっぱいいっぱいだったか思い知らされる。
だけどそれも今更だ・・・。
「ロビンちゃん・・・もうその時と状況は変わっちまったんだよ・・・」
彼女も俺に対して必死になってくれていたのだということは嬉しかったけど、今更そんなこと知ったって・・・。
「本当にそうかしら?」
「・・・どういう事?」
「そうあの子が自分で言ったの?あなたはそれを伝えた?」
「・・・・・・・・・・・」
伝えてはないけど・・・でも・・・
「言葉にしなければ分からないこともあるわ」
あんなに気持ちを伝えて、あんなにはっきり拒絶されたのに、今更・・・
「・・・あの子、あなたが思っている以上に不器用な子よ。恋愛においては殊更ね。とても臆病だし・・・恋をするのがヘタなのね」
ロビンちゃんは困ったように微笑した。
「いずれにせよ、このままじゃすれ違ったままになってしまうわ。
たとえ結果がどうなろうとも、きちんとお互いの気持ちを伝え合った方が良いと思うの」
お節介だとは思うけれど・・・とロビンちゃんは付け加えた。
結果がどうなろうとも、か。つまりまた心を抉られようとも俺にぶつかって砕けてこいと・・・。
「ロビンちゃん、そりゃ随分手厳しくないですか?」
「あら、コックさんなら大丈夫だと思ったから言ったのだけど?」
俺そんなに打たれ強くないですよ?と内心苦笑しつつ
「信頼して戴けて光栄です」と恭しく頭を下げた。
「それにしても、ロビンちゃんがこんな風に言いにくるなんて珍しいね?」
「フフ、そうね。あの子にはどうも、ついつい甘くなってしまうみたいだわ」
優しい微笑みを浮かべるロビンちゃんを見て、少しだけ気持ちが落ち着いてきた。
ロビンちゃんもさんのことが本当に好きなんだなと思うと俺も少しだけ表情が緩んだ。
けれどやはりそうすぐには気持ちを切り替えられるはずもなく。
ラウンジを後にするロビンちゃんを見送りながら俺は迷い続けていた。
遠くからルフィの、島だー!という呑気な声が聞こえていた。
上陸の準備をしながら、俺はずっとさんの事を気にしていた。
話をする事もそうだが、部屋から一向に出てこない彼女が心配で仕方なかった。
他のクルーも心配そうな顔をして上陸どころでは・・・という空気になった。
しかしゾロが「そんなことしたらアイツが余計気にするから行ってこい。船には俺が残る」
と言いだし二人を残して上陸することになった。
正直気に食わなかったが、さんにしたらそれが一番なのかもしれないと思うと何も言葉が出なかった。
ナミさんが最後まで自分も残って側にいると粘ったが、ゾロに押し切られてしぶしぶ降りていった。
船を後にしようとした時、いきなりゾロに呼び止められた。
「おいコック、話がある。今晩一人で船に来い」
俺にだけ聞こえるようにそう告げると、返事も聞かずにさっさと歩いていった。
なんだっつーんだよ、エラソーに・・・。
話の内容は十中八九さん絡みだろう。
我が物顔で彼女の側にいるアイツに苛ついたが、だからといって何も出来ない自分には更に腹が立った。
久しぶりに踏みしめた地面は重く、なかなか足が進まなかった。
この島では久しぶりに宿を取ろうという話は前々から出ており
しかしさんを心配するナミさんが取りやめようと持ちかけたが、ルフィが頑として譲らなかった。
俺たちが話をするにはその方が好都合だが・・・
もしかしてルフィはまた、何かに感づいているのかもしれない。
解散したあと、俺は目的もなく歩き回った。
頭の中は彼女のことでいっぱいだった。
徐々に街が茜色に染まり始めた頃、俺は海を眼下に望む見晴らしのいい崖に腰を下ろした。
煙草を吸うとやけに苦味が強く口に広がった。
どうすりゃいいんだろう・・・
今彼女を苦しめているのはきっと俺なんだと思う。
ならばこのまま黙って身を引くのが彼女のためなんじゃないだろうか・・・
そう考えてしまうのは自分がこれ以上傷つきたくなくて逃げているだけなのか?
確かにこのままじゃ俺も彼女も前に進めない。
ならば彼女の気持ちを聞いて、それから答えを出すしかないんだ。
俺は彼女に笑っていて欲しい。幸せになって欲しい。
それは出来ることならこの手で叶えたかった。
他の野郎になんて死んでも譲りたくなかった。
だけど・・・彼女がそれを望むのなら・・・
俺が彼女にしてあげられることなら何だってしてやる。
まずは真正面から向き合うんだ。
例え・・・例え、嫌われても。
彼女に嫌われたらと思うと身が千切れそうだった。
握りすぎた拳からは血が滲んだ。
涙が出ないのが不思議なくらいだった。
考えを巡らすうちに徐々に辺りは暗さを増していった。
月光の明るい夜だったが、風が強く雲の流れで月は見え隠れを繰り返していた。
暗い道を俺は船へと向かっていった。
まずはクソ剣士と顔を突き合わせなきゃならねえ。
アイツが何を言うつもりか知らねェが、何を言われようと俺は自分の気持ちを言うまでだ。
そして、さんと話をして・・・。
船に近づくと、ふいに物音がした。
話し声も聞こえてくる。なんだか口論しているような・・・
さんと、ゾロ・・・?
躊躇いを感じつつも俺は縄梯子を上って言った。
船に降り立つと俺は声のした方へと視線を奔らせた。
暗くてよく見えない。
が、次の瞬間雲間から月が現れて。
そこには。
壁に押し付けられているさんとそれに被さるように口付けるゾロの姿があった。
頭が真っ白になる。
視線を逸らせないまま、そこへ立ち尽くした。
けれど。さんの目から涙が零れているのを見た瞬間。
カッと頭に血が上り、気づけばゾロを殴り飛ばしていた。
「てめェ何してんだよっ!!」
胸倉を掴み壁に打ち付けると、ゾロは憮然とした表情でぷっと血を吐き出した。
「何だよクソコック、のこと諦めたんじゃなかったのか?」
「そんな訳あるかッ!さんのこと泣かせやがって・・・ッ!」
再び殴りかかろうとした俺の腕をさんが掴んだ。
「・・・も・・・止めて・・・っ」
そう呟くとずるずるとその場に座り込んでさんは顔を覆った。
俺はゾロを睨みつけたまま憎々しげに掴んでいる腕を下ろした。
ゾロは仏頂面のまま口端の血を指で拭い、スタスタと歩き出す。
「てめェどこ行・・・!」
「、それがお前の答えだろ?」
ふいにゾロが振り返り、俺の言葉を遮った。
「ゾロ・・・」
さんが涙を浮べたまま顔を上げるとゾロはまた踵を返して船から下りていった。
俺は困惑したまま二人を見ていた。
本当は追いかけていって蹴り殺してやりたかったが
壁際に蹲って涙しているさんを放っておく訳にはいかなかった。
さんの前に俺もしゃがみ込む。
しゃくり上げて泣いている彼女を抱きしめたい衝動に駆られて腕を伸ばした。
けれどそれをする権利は自分にないのだと唇を噛み、その手をぎゅっと握り締めた。
なんとか自分を抑えると、そっと彼女の頭を撫ぜた。
触れた瞬間彼女はぴくりと震えたが、そのまま黙ってそれを受け入れていた。
ずきりと手に痛みを感じ、そういや手で人を殴ったのなんて久しぶりだったと言うことに気づいた。
俺はもしかしたら二人の間を邪魔してしまっただけなのではないかと不安が胸を渦巻く。
手を下ろし、再びぎゅっと拳を握る。
「・・・さん、俺また余計なことしちまったかな。ごめんよ。嫌われてるって分かってんのに諦められなくて・・・」
さんは目に涙を湛えたまま、目を見開いた。
こんな状況にも関わらず、久しぶりに間近に彼女を感じて心が高鳴る。
「私、サンジのこと嫌ってなんかないわ・・・」
今度は俺が目を瞠る番だった。
「えっ?俺の気持ちが迷惑になって避けてたんじゃねーの・・・?」
彼女は必死で首を振った。
「違うっ!迷惑なんかじゃ・・・あれは恥ずかしくて逃げてただけで・・・」
「じゃあ、なんで俺のこと避けて・・・?」
俺の質問にさんは口をつぐんだ。長い沈黙の後、彼女は重く口を開いた。
「私・・・ナミに嫉妬したの・・・」
「ナミさんに・・・嫉妬?」
訳が分からず聞き返せば、苦しそうに眉をひそめて俯いたまま小さく頷く。
「前にね・・・ラウンジでサンジがナミの手を握ってるところを偶然見ちゃって・・・それで・・・」
「手を握るって・・・?」
身に覚えのないことに困惑したが、ふと、ナミさんにネイルを見せてもらった日のことを思い出した。
「あ!あれは、手を握ってたとかじゃなくて、爪を・・・」
「うん・・・そういうんじゃないんだって事は何となく分かってた。
それなのに、心の中にドロドロと醜いものが湧き出るのを止められなくて、汚い気持ちでいっぱいになったの。
ナミは大事な仲間よ?大切な親友でもあるし、本当の妹みたいに思ってる。
それなのに・・・そんな気持ちを抱いてしまう自分が心底嫌で。本当に許せなかったの・・・。
第一、私に嫉妬する権利なんてないのに・・・」
本当に辛そうに顔を歪めて話すさんに、俺は不謹慎にも喜びを感じてしまった。
彼女が自分のことで嫉妬してくれていた事が嬉しくて堪らなかった。
彼女はこんなにも苦しんでいるというのに・・・と、どうしようもない自分に呆れた。
「それからサンジの顔まともに見れなくなっちゃって・・・でも一度避けたらますます顔合わせづらくなって・・・」
彼女に嫌われていなかったのだということに心底安堵した。
「それならそうと言ってくれりゃあ良かったのに」
「・・・避けているうちに、こんなことしてもう愛想つかされたんじゃないかって・・・」
気まずそうに呟いた彼女の言葉に開いた口が塞がらなくなる。
愛想をつかすって?俺が?さんに?
・・・・・ありえねェー・・・
思わず頭を抱えて溜息をつくと、彼女はびくっと身を縮こまらせた。
そんな彼女につい苦笑する。
「俺がさんのこと嫌いになる訳ないでしょうが。まったく・・・どんだけ想像力逞しいんだか」
だったらこんなに苦しんでないっつーの。嫌いになる方法があるなら教えて欲しいくらいだよ・・・。
ロビンちゃんがさんを臆病だと言っていた意味がようやく分かった気がした。
ふいにさっきのゾロとの会話を思い出す。
まるで俺を煽るような言葉を言い放ったのは、彼女の前で俺に気持ちを言わせるためか?
「・・・なんでゾロのところに?」
「・・・ひとりでいるのが辛くて・・・。最低よね。ゾロの優しさに甘えて・・・」
船に上がって目にしたシーンが頭を過ぎり、俺は再び奥歯を噛み締めた。
「アイツのことを好きになったのかと思ったよ・・・」
「違うわ・・・さっきのだって・・・」
さんは悲しそうに俯いた。
「私段々どうしたらいいのか分からなくなってきて、みんなにも迷惑かけちゃって・・・。
そんな自分に嫌気がさして部屋で塞ぎ込んでたらゾロに甲板に引っ張り出されたの。
思ってること全部話せって言われて、自分の気持ちが分からなくなってきたって伝えたわ。
そしたら遠くからサンジが歩いてくるのが見えて・・・・急にゾロが・・・」
俺はじりっと靴を鳴らす。
「別にね、ゾロにキスされたからって、どうって訳じゃないの・・・だけど・・・私・・・・」
さんは声を震わせた。
「キスされてるところ、サンジに見られたくないって・・・誤解されたくないって思っ・・・たの・・・・」
再び彼女はしゃくり上げながら顔を覆った。
胸が、熱くなる。
「散々サンジのこと振り回して、傷つけて・・・・今更こんなこと言う権利なんてないかもしれないけど・・・」
声を詰まらせながらその瞳に涙を湛えて、さんは俺の目を真っ直ぐ見つめた。
「私・・・サンジのことが好き・・・」
時が止まったような気がした。
「好き・・・サンジが好きっ・・・好きなの・・・」
泣きじゃくりながら繰り返す彼女を前に、俺は夢でもみているんじゃないかと思った。
あぁ・・・すげェな・・・
あんなにも恋い焦がれて、こんなにも愛おしくて堪らない人が
俺のことを好きだって
俺を好きだって言って泣いてるなんて
なんか・・・銀河の果てまで飛んでいっちまいそうだよ・・・
体中が満たされるのを感じながら俺は溢れる想いのままに彼女を抱きしめた。
その温かさに、これは現実なのだと教えられてますます胸がいっぱいになる。
なんて途方も無い奇跡なんだろう。
好きになった人が自分のことを好きだと言ってくれるなんて。
こんなに想える人に出会えたことすら奇跡のようだと言うのに・・・。
彼女を抱き締める手が震えた。
熱いものが目の奥から込み上げてくる。
うわっ、俺泣いてるよ。
そっか・・・人を好きになると泣けてくるのか・・・。
愛しすぎて涙が出てくるなんてはじめてだ。
「・・・さん、好きだよ・・・死ぬほど好きだ。
誰よりも貴方のことが・・・貴方じゃなくちゃダメなんだよ・・・」
俺の言葉に彼女は一層涙を溢れさせ
ぎゅっと俺に抱きついた。
「世界中の誰よりも・・・・貴方を愛してる――――」
この気持ちを全部全部伝えたかったけれど
どんなに言葉にしても足りなくて、それがどうしようもなくもどかしかった。
言葉にする代わりに、俺は彼女に口付けた。
この想いを伝えるように何度も、何度も・・・。
そっと触れるようなそれは次第に熱を帯び、深さを増した。
俺たちは今まで離れていた時間を埋めるかのように
何度も何度も口付けて
見つめ合って
抱き合って
好きだと呟いた
それでも溢れ続ける想いは止まることを知らなかった
隙間がないほどに抱きしめたけれど
それでも足りなくて
彼女を抱き締める度に
体が邪魔で仕方なかった
二人を隔てる境界線がもどかしかった
いっそ一つになれたら良いのにと本気で願った
穏やかな波の音だけが辺りを包み、優しい月明かりが俺たちを照らした。
潮風がそよぐ甲板で俺たちはいつまでも抱き合っていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
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