−知らない方がせなこと−



色とりどりの食材が並ぶ大きな市場。
がやがやと活気ある人込みの中、サンジとゾロは買い出しに来ていた。

領土の広いこの島は商業都市として栄えており、麦わらの一味は各々の時間を楽しんだ。
最近ではサンジの買い出しに付き合う事の多かったも、今回は女性陣三人でショッピングを楽しみに行ってしまった。
そこでサンジは最も暇そうだったゾロを捕まえて買い出しの荷物持ちをさせる事にしたのだった。

ゾロは終始「なんで俺が・・・」「面倒臭ェ」「眠ィ・・・」などぶつくさ文句を言い、
サンジもまた「コックに逆らうと餓死すンぞ」「なんでこんな素敵都市をむさ苦しいマリモと・・・」「ほんとならさんと二人きりで・・・」などと零して
時々相手のセリフにカチンときて往来で刀を振り回したり、蹴りを炸裂させたりと物騒な喧嘩を押っ始めたりしていた。


そんなこんなで大量の荷物を抱えながら歩いていると、ひとりの小さな女の子が飛び出してきてサンジの足にぶつかった。
コテンと倒れてしまった女の子を優しく抱き起こすと
「ごめんよ、怪我はないかいプチレディー?」
とサンジは甘い言葉をかけ、ゾロはその薄ら寒さに肌を粟立てた。
女の子は恥ずかしそうにはにかんでからお礼を言うと、ぺこりと頭を下げ再び駆けていった。
目のぱっちりとした大層可愛らしい子で、その艶々した長い黒髪や色白の肌に薔薇色の頬は愛しい人を想起させ
ついサンジは顔を緩ませた。

「クソ可愛い子だったなァ。小さい時のさんもあんな感じかなぁ・・・」

彼女の幼少期に思いを馳せ、ほわ〜っと夢見心地な表情でぽつりと呟いた言葉に、ゾロが隣でぼそりと返答した。

「半っっ端じゃなく可愛かったぜ。今のガキなんか目じゃねェくらいな」

「・・・お前時々本気でムカつくな」
「テメーは時々じゃなく四六時中ムカつくけどな」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」

いかにもお前の知らないアイツを知ってるぜ的な空気を醸し出すゾロにイラつきながらも
まぁここで嫉妬を露にするのも見苦しいと思いサンジは青筋立てつつ堪えた。

しかしふと、の過去という繋がりで、ずっと気になっていたあのことを聞けるチャンスなのではという考えが頭を過ぎった。

「・・・なぁ」
「あ?」
「・・・・・・・」
「なんだよ」

「・・・さんて今まで何人くらいと付き合ったか知ってるか?」
「・・・・・・・」


以前彼女から『何人かと付き合ったことがある』と聞き、その時は涼しい顔をしていたが
正直むちゃくちゃ気にしていたのだった。

「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「お前それ本当に知りたいか?」
「あー!やっぱいい!言うな!何も喋るな!」

サンジは両耳を手で覆い、あぁぁぁーっ!と大声を出して聞こえないようにした。
こういう事は知りたいのは山々だが、聞いた所で良いことなんてひとつもないのだという見解はあった。
あったのだがやはり気になるという気持ちがついぽろりと口をついてしまったのだ。

「聞いたら後悔すんぞ」
「だから喋んなっつってんだろ!っつーかそんなん聞いたら余計気になるわッ!」
「とりあえず死ぬほど引く手数多だったな」
「それくらい言われなくても想像つくっつの!大体そういう中途半端な情報が一番腹立つンだよ!」
「道場の門下生ほぼ全員の信者だったしな」
「・・・全員蹴り飛ばしてェな」
「まぁ全員俺がシメといたけどな」
「・・・それだけは誉めてやるよクソマリモ」
「テメーに誉められる筋合いはねぇ」

オメーの為にやったんじゃねェ、とばかりに不機嫌になるゾロ。

「その分だと彼氏もか?」
「ったりめェだ。全員返り打ちにしてやったよ」
「・・・シスコンマリモ」
「うっせェよラブコック」
けど今思えばこんなクソコックにくれてやるくらいなら
あのうちの一人に取られた方がまだマシだったぜとゾロはため息を吐いた。

「でもよー、そんな事してさん怒んなかったのか?」
サンジの言葉にゾロはにやりと笑った。
は基本俺に甘ェからな。むしろそんな俺にキレた野郎の方に怒鳴ったりしてたな」
「・・・・・・・・・」

サンジはあの弟至上主義とも言える彼女に対する恋人の苦労は今に始まったことではなかったのかとげっそりした。
元彼なんてひたすら忌々しいだけの存在だが、ほんの一瞬同情の念と仲間意識を抱いてしまった。


「お前さぁ、本当にさんに恋愛感情とかないわけ?」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「ねぇな」
「なんだよ今の間は!」
「うるっせェな、ねぇっつってんだからそれで良いじゃねーか」

ゾロの言葉にサンジは、なんか納得いかねェだの、怪しいだのとぶつぶつ言いながら歩いていく。
そんなサンジのやや後方で、ゾロはため息を吐きながらついぽろっと独り言を洩らした。

「っつーか押し倒しても相手にされなかったんだから、今更・・・」









「・・・・・・・・・・・・・・今、テメーなんつった?」


サンジがぴたりと動きを止めた。
ゾロは、しまった面倒臭ェことになったと思いながらどんだけ地獄耳だよとぼやいた。


さんを・・・・・・・押ーしー倒ーしただァ〜〜〜!!?」
「落ち着け、未遂だ」
「ったりめェだろーがッ!・・・さんを・・・あの汚れなき天使のようなさんを・・・マイスウィートハートを・・・ッ!!」
サンジはワナワナと震えた。
実はサンジも付き合う前にを押し倒した前科があったのだが、それは完全に棚上げだった。


「だーから未遂だって・・・ぐっ!・・・テメ、なに人の首絞めて・・・ッ!」
「今回ばかりは生かしちゃおけねェ・・・成敗してくれるわこの野獣マリモッ!!」

両手を荷物で塞いでいたゾロはうっかり隙を作り、サンジに絞首刑に処された。
サンジは怒りのあまり、人でないモノのような形に変形しておりその目にははっきりとした殺意が浮かんでいた。

どうにかこうにかそれから逃れたゾロはげほげほとむせる。

それから二人は盛大に暴れながら仲良く船へと戻っていった。
サンジは今回の事で、決してゾロの存在に気を許してはならないのだと改めて心に誓いながら。








ラウンジへ入るとがそんなやり取りがあった事など知る由もなく、のほほんとお茶を飲んでいた。
サンジは食材を仕舞いながら、耐え切れなくなってに尋ねた。

さん、あのさ・・・マリモにさっき聞いたんだけど・・・さんアイツに押し倒されたことがあるって・・・」
「えぇー?」

さして動揺した風でもなく、そんなことあったけー?と呑気には首を捻った。
それをハラハラと見守るサンジ。

「あぁ!そういえばあったあった!あはははっ、懐かしー」
「いや、笑い事じゃ・・・」
「あの時はさー、確かいつもみたいに戯れついてたらなんかそういう態勢になっちゃって
 そしたらゾロもまだ血気盛んな年ごろだったから、なーにを血迷ったかその気になっちゃったらしくってさぁ」

けらけらと笑うに対しサンジはみるみる青ざめていく。

「そ、それでどうしたの・・・?」
「んー?言うこと聞かないから殴ったよ?」
けろっとした顔でが言う。サンジはとりあえず胸を撫で下ろした。

本当はがサンジにしたように押し倒し返した挙句ゾロにちゅーでもしたんじゃないかと気が気ではなかったのだ。
そんなサンジの心中など全く気付かずに、近親相姦だっつーのよねーとか笑い事でないことをさも可笑しそうに言っている。

そんなを見ていると、本当に微塵もゾロを男だと意識していないのだと安堵しながら
ここまで意識されないゾロに不本意ながら哀れみすら感じてしまうのだった。

「はははっ・・・良かった、あの時みたいにキスでもして止めたのかと・・・」
乾いた笑いとともに冗談のつもりで言ったのだが、の一言で再び地獄に突き落とされた。

「だってちゅーなんて小っちゃい頃に死ぬほどしてるから今更したところでなんの抑制効果も・・・」


サンジは思わず買ったばかりの皿を割った。


し、死ぬほど・・・・・!?


目の前が真っ暗になる。
が能天気に大丈夫ー?なんて聞いてくるが、ちっとも大丈夫じゃなかった。

落ちた皿の破片を拾い集めながら
この姉弟に決して油断してはならないのだと再び深く悟る。



とりあえず後でに死ぬほどちゅーしてやろうと心に決めたサンジであった。








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 オチが被ってる・・・っ!orz