−Platonic−


「サンジ君は“軽い”」




・・・ぐしゃっ




その時聞こえてきた音は、彼女の発言によって思わず握り潰してしまったトマトの音ではなく
きっとそのトマトのように無残に潰れた俺のハートの音・・・



ラウンジで何気ない談話中、テーマに上がったのは『それぞれに対するイメージ』について。
そこで彼女が俺にあてたのが『軽い』だったのだ。
しかもその前の会話で、好きなタイプは『硬派』と彼女が言っていたものだから
さすがにこれには動揺を隠せずコックとしてあるまじきことに食材をダメにしてしまった。
(もちろんそれも後で調理して野郎共の口に入れたのだが)

『軽い』ってようは軟派ってことだろ?『硬派』の真逆じゃねーか!
キッチンに向かっていた俺はみんなに背を向け聞いてないフリを装いつつ、意識と耳は全力でそちらに傾けていた。

「『硬派』っていやぁゾロとかか?」
というルフィのセリフにどきりと胸が跳ねたが
「いや、ゾロは硬派っていうよりムッツリだと思う」
と一刀両断したちゃんの言葉にほっと胸を撫で下ろした。
(当のゾロは酒を吹き出してむせていた)

けれどマリモがライバルから外れたところで、俺が彼女の眼中にないことは変わりないのだ。


どうしたものか・・・



なんて考えた所でどうしようもなく
好きなもんは好きなんだからしょーがねェじゃねーか!とばかりに
俺はそれからあまり日も経たないうちに己の想いに耐え切れなくなって彼女に告白してしまった。

すると彼女は驚くほどあっさり
「いいよ」
と付き合いを了承してくれた。

「え!?い、いいの?」
思わず素っ頓狂な声を上げてしまった俺に彼女は顔をしかめる。
「何それ、断って欲しかったの?」
もしかしてドッキリかなんか?と睨む彼女に俺はぶんぶんと首を横に振った。

「や、ちゃん俺みたいなのタイプじゃねーって言ってたからさ・・・」
困惑する俺に彼女はため息を吐いた。
「タイプと実際に好きになる人が同じとは限らないでしょ?」
そう話す彼女は俺なんかよりよっぽど大人びて見えた。
いやそんなことより・・・!

「好きな人って・・・ちゃん俺のこと好きなの!?」
「私好きでもない人と付き合ったりしないわ、失礼ね」

不服そうな顔でぷいっと横を向いた彼女だったが
その頬はほのかに赤みを帯びていて、その可愛らしさに俺は悩殺される。

ちゃ・・・っ!」

思わず抱きつこうとしてはたっと気付く。
これだから軽いって言われるんだよ!


ぐぐぐっと押し止まり、伸ばしかけた手をさも頭を掻こうとしてましたとでもいうかのように誤魔化してへらっと笑った。
そんな俺を彼女は不思議そうに見上げていた。



まぁタイプじゃねェのは仕方ねェけど、この想いを受け止めてくれた彼女のためにも
なってやろーじゃねェか『硬派』とやらにッ!

海に向かって拳を握り締めザッパーンッ!と波に打たれる俺を通り掛かったチョッパーが首を傾げて見ていた。




それからと言うもの、毎日が戦いだった。
渾身のスィーツが完成して踊り狂わんばかりにレディー達のもとへ行きそうになるのを寸での所で押さえたり
ちゃんの発狂しそうな程まぶしい笑顔についちゅーしたくなるのを堪えたり
船が揺れた弾みにきゃっとか身悶えする程可愛らしくしがみ付かれて思わず抱きしめそうになるのを堪えたり・・・etc.

その度に俺は「硬派硬派硬派硬派硬・・・ッ」と呪いの呪文のように唱え続けた。


あぁぁぁ・・・硬派ってなんてしんどいんだ!




若干やつれながら飯の支度をしているとちゃんが側に近づいてきた。
たったそれだけのことで体中の神経がそちらに集中するのを感じる。

「これ今日の夕飯?美味しそ〜」

フライパンの中を覗き込みながら蕩けそうな顔をするちゃん。

―――君の方がよっぽど美味しそうだよ・・・

ふと過る邪な思いを首をふって追い払う。

「あ、味見してみるかい?」
小皿に少量を取り分けて手渡すと彼女は嬉しそうにそれを口にし、ぱあっと綻ばせた顔をこちらに向けた。

「美味しいっ!」

ちろりと舐めた舌が覗き、唇は艶々と輝いて。


あー超キスしてェー・・・

・・・俺欲求不満過ぎじゃね?





煩悩でひたすら悶々としながら夕食を終えると、ラウンジには後片付けする俺と酒を飲んだくれるマリモの二人になった。
あーもうこりゃ飲まなきゃやってらんねェよと、片付けを終えた俺もマリモの前に座ってグラスに酒を注いだ。
そんな俺をじいっと見ながらマリモが口を開く。


「お前ェ最近を見る目がヤベェぞ?」
「・・・人を変質者みてェに言うんじゃねーよ」
「なんつーかこう、生々しいんだよ視線が」
「・・・・・・・・・・・」


普段ならソッコー言い返す所だが、そんな気力もなく俺はテーブルの上に崩れ落ちた。


「しょーがねェじゃねーか!生々しいこと考えてんだからよォー!」
うぉぉぉーっと、既に半泣きな俺を藻が呆れた顔で見下ろす。
「そりゃ色々したくもなるだろーが!あんなクソ可愛い子が側にいたら
 あーんな事もこーんな事もしてェって思っちまうだろーがよォ!」
「ならさっさと押し倒しちまえばいいじゃねェか」
「アホか!この破廉恥マリモめ!ちゃんは硬派が良いっつってんだよ!女心の分からねェ奴だなァ」
「ケッ、分かりたくもねェなそんなモン」

大体破廉恥なのはテメーの方だろうがと悪態を吐くゾロに俺は欝憤をぶちまける。

「俺はそんなちゃんの為に、ちゅーどころかまだ手も繋いでねーんだぞ!?
 こんなに手ェださねェなんて俺の中の最高記録だよ!もう健全過ぎて逆に不健全だっつの!」
俺は叫びながら頭をむしゃくしゃと掻き毟った。
「それお前ェの自己満足なんじゃねェの?」
「なーに言ってンだクソマリモ!全ては愛の為、ちゃんの為だろーが!大体俺のどこが満足してるっつーんだよぉ〜!?」
「絡むなっ、面倒くせェ」

おーいおいおいと喚き散らす俺を放置してクソ剣士様は酒を飲み干した。
くっそぉ〜、好きかって言ってくれやがって!
胸クソ悪ィ俺は結局一晩中ゾロを捕まえて飲み明かし、散々クダ巻いて絡んでやった。






その結果―――



「・・・頭イッテー・・・」

完璧二日酔いの俺は、コックとしての仕事の間以外は完全にダウンしてラウンジのソファに倒れていた。
そんな俺を心配そうにちゃんが見舞う。

「サンジ君、大丈夫?」
「あぁ・・・平気だよ・・・」

だからそんな無防備に近づかないでおくれハニー・・・。

「俺のことは良いから、あっちでルフィ達と遊んでおいでよ」
「でも・・・」


至近距離の彼女に体の高まりを感じて焦る。



「頼むから・・・もう放っといて・・・」



苛立ちからつい口調がきつくなり、はっとして彼女の方を見ると、とても傷ついた顔がそこにあった。

「あっ、ごめ・・・!ちゃん違うんだ・・・!」
「もういい・・・サンジ君なんか知らない!」

俺の制止を振り切って彼女はラウンジから飛び出していってしまった。
追いかけようとがばっと体を起こすと頭に激痛が走ってソファに再び倒れこんだ。

俺、何してんだよ・・・


体にぐっと力を入れて立ち上がると体がふらりと揺れた。
けど大事なレディー傷つけといて放っとけるか!と重い体を引きずり出す。
甲板にはすでにちゃんの姿はなく、しまった船降りちまったかと浜辺の方へ視線を向ける。
すると真新しい足跡が船から海岸沿いを伸びていた。
船から飛び降りるとそれを追いかけて走り出す。



ガンガン鳴る頭を押さえながらしばらく進むと、膝を抱えて波打ち際に小さく蹲る彼女の姿があった。
ほっとしながら近づくと、ちゃんは俺に気づいてはっと顔を上げた。


「サンジ君・・・」


その瞳に涙が湛えられているのを見た瞬間、考えるよりも先に体が動いた。




その細い腰を引き寄せて腕に閉じ込め、ぎゅっと抱きしめる。
彼女は一瞬驚きに体を堅くし、しかし徐々に身をゆだねてくれたのが分かった。



―――あーぁ、やっちまった・・・せっかくここまで我慢してきたのになァ。

そう思い苦笑を零しつつも、この腕を放すつもりなんて更々なかった。
ようやく手に入れたこの温もりに、じわりと熱いものが胸を満たす。

―――やっべー何だコレ超幸せかも・・・



すっかり状況を忘れ幸せに浸っていると、腕の中からすすり泣く声が聞こえてきた。
それに驚いてばっと体を離すと、彼女はぼろぼろと涙を零していた。

「ご、ごめんちゃん!俺ついッ・・・い、嫌だった・・・?」
あわあわと慌てふためきながら恐る恐る尋ねると、ちゃんはぶんぶんと首を振った。

「そうじゃなくてっ・・・やっとサンジ君が触れてくれたから・・・」
「えっ・・・?」

思ってもみないセリフに固まって彼女を凝視する。

「だって、サンジ君付き合ってるのに手も繋いでくれないし、側にいくと辛そうな顔するし、すぐ目そらすし
 私のこと避けてるみたいだし、だけど他の女の子にはフツーだし・・・私嫌われちゃったのかと・・・・」

しゃくりあげながら話す彼女を見て、自分に心底嫌気が差した。


俺は本っ当にクソ野郎だ。ちゃんをこんなに悲しませてる事にも気づかずに・・・
そりゃあんな態度取られりゃ誰だって不安になるに決まってンじゃねェか。
冷静になれば分かりそうなもんなのに、勝手に一人で舞い上がって彼女を置いてきぼりにしちまってた。


涙を流す彼女を再びきつく抱きしめる。

「俺がちゃんの事嫌いになるはずねェよ。聞こえるだろ?こうして抱きしめてるだけで心臓がクソ煩ェんだ。
 ガキみたいに緊張してどきどきしちまう・・・。俺をこんな風にさせるのは、ちゃんだけなんだぜ?」
「じゃあ・・・なんで触ってくれなかったの?」

ぐずっと鼻を鳴らしながら困惑した顔を向ける彼女に苦笑いを零す。

ちゃんが硬派な男がいいっていうから、そうした方が良いのかと思って」

そういうと彼女はキッと俺を睨んだ。

「バカ!タイプと好きになる人は違うんだって言ったでしょ!私はありのままのサンジ君が好きなの!
 それに・・・好きな人に触れたいと思うのは当然でしょう・・・?」


真っ直ぐな気持ちを伝えてくれる彼女が愛しくて堪らない。


「そうだね。本当に俺はクソ馬鹿な野郎だ。ちゃんの為にやってるつもりが、逆に傷つけちまうなんて」
「あんまり触れてくれないから、私魅力ないのかなって・・・自信なくしちゃてたんだよ?」
「まさか!ちゃんが魅力ない訳ないだろ!?それどころか魅力的過ぎて俺は死ぬほど触りたいのを我慢しまくって・・・っ!」

突然捲くし立てる俺をきょとんとした目で見つめ返す彼女に、思わず口が滑ったとはっとつぐむ。
すると彼女は可笑しそうにクスクス笑った。そして、微笑を湛えて俺を見つめる。


「もう・・・我慢なんてしないでね・・・?」

小首を傾げてそう言う彼女に堪らなくなって力の限り抱きしめる。


「うん、もうしないよ・・・」

っつーかもう出来そうにない。
一度箍が外れてしまえば、もう溢れる欲望を止められそうにねェ。
今まで我慢してた分その反動はさらに大きそうだ。


「愛してるよ、俺のプリンセス・・・」

だから覚悟しててね、プリンセス?
俺の箍を外してしまったのは君自身なんだから・・・








夕食の後片付けをしながら、自分に課していた制約を投げ捨てた俺は
これで晴れて・・・むふふふふっ・・・と邪な想像に鼻の下を伸ばしながらご機嫌で皿を洗っていた。
その後ろではちゃんがナミさん達と談話している。
なにやら話題は結婚式のことらしい。結婚かぁ!いいなぁ・・・新妻のちゃんっ!ぶふっぶふふふっ・・・!



「え?バージンロードってバージンで歩くものでしょう?」






・・・ガッシャン




ふいに聞こえてきた彼女の言葉に俺は手の中の皿を落とす。


・・・・・・・・・はい?
え?なに?俺もしかして・・・結婚するまでおあずけ?
触れていいのはちゅーまでですか・・・?





一難去ってまた一難・・・どうやら俺の我慢の日々はまだまだ続くらしい・・・




シンク前でずーんっと項垂れる俺を見て、酒を呑んでいたマリモがにやりと笑った。

「ご愁傷サマ」













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 赤い〜スイ〜トピ〜♪的サンジ君(笑)