paille


 −my sweet kitty−


「ダメだよ、?お前の餌はこっち」


朝食中のは、サンジの言葉にまだそれほど咀嚼していない肉を思わずごくりと飲み込んでしまった。
一瞬これ食べちゃダメだったのかななんて不安が頭を過ぎったが、それ以上に気になることがあった。


・・・・・『』?

サンジはいつも自分のことを『さん』と敬称つきで呼ぶ。
呼び捨てにされることなどこれまでほとんどなかったのだが・・・

「サンジ、あの、餌って・・・?」
「え?あぁ、さんのことじゃないよ。コイツの話」
そう言ってサンジが笑顔で持ち上げたのは、一匹の小さな黒猫だった。




その子猫を拾ってきたのは他でもない自身だった。
数日前上陸した島で、捨てられてカラスに襲われそうになっているところを助けたのだ。
ひどい怪我だったため、船に連れて帰りチョッパーに診てもらったのだが、もう出航の時間が迫っていた。
故郷から引き離すのは気が引けたが、元いた場所に戻せばまた襲われてしまうだろうし
まだ子猫ならば新しい場所でも順応出来るだろうと療養がてら船に乗せ、次の島で飼い主を探すことにしたのだった。



だがしかし―――
「なんで『』なの・・・?」
「ロビンちゃんに聞いたんだ。動物を飼うときは愛しい人の名前を付けると大事に出来るから良いんだって。だから『』」
語尾にハートマークを付けてご機嫌に言い放つサンジにはがっくりと項垂れる。

「だからって勝手に人の名前つけないでよ!」
「そんなこと言ったって、もうコイツも覚えちゃったし。なぁ『』?」
にゃあ

サンジに呼ばれると子猫は返事をするかのように一鳴きして、再び餌を食べ始めた。
他のクルー達も別段異論は無いらしく
なし崩し的に子猫の名前は『』に決定してしまったのだった。



それからと言うもの、は憂鬱な日々を強いられる破目になった。
、俺を引っ掻くンじゃねェ!」
!俺の肉食うなよ!」
っ、トイレはそっちじゃねーゾ?」


クルー達が子猫のを呼ぶたびに頭を抱えたくなる。
そしてそれ以上に厄介なのが・・・


「なんだー、構って欲しいのか?まったくは甘えん坊だなぁ」
「ほんっとにはクソ可愛いなぁ・・・もう食っちまいてーくらいだ」
「そんなに俺が好きなのか?あぁ、俺も愛してるよ、マイスィート・・・」

「・・・・・・・」

目の前で愛おしげに子猫にキスをする自分の恋人に、は恨めしげな視線を送る。


「サンジ・・・なんなのソレは」
「何って?ただのスキンシップだよ?」

嘘をつけ嘘を!これ見よがしに人の前で猫といちゃつきやがって・・・じとりとサンジを睨む。

「大体、黒猫に人の名前つけるってどうなの?」
「可愛くていいでしょう?それに黒くて艶のいい毛並みに青い瞳だなんて!まるで俺たちのベイビーのようじゃないですかッ!」

んーっと再び蕩けそうな顔で猫の頭に口付けるサンジを見ていると、は段々恥ずかしくなってきてしまった。


きっとこれはあてつけなのだろう。
船にいる時は他のクルーの手前いちゃいちゃ禁止令を出しているを、こうして困らせて楽しんでいるのだ。
けれど、本来ならこの子猫にするように普段から自分といちゃつきたいのだろうか、我慢させているのだろうか・・・
そう思うとはなんだか強く言えない気分になり、照れくさいような、居た堪れないよう気分のまま
猫に愛を語る恋人を横目に、ずずずっと紅茶を啜り上げたのだった。





深夜のラウンジで寝る前の一服をしていたサンジの足元に、子猫のが擦り寄ってきた。
サンジは煙草を銜えた口に弧を描くと、そっと抱き上げて膝の上に乗せた。
撫でてやるとその場にくるりと丸まって落ち着いた。
そんなを見ながら、愛しい人のことを思い出して顔が緩む。

子猫に、と呼びかけながら甘い言葉を並べるたびに顔を赤くしながら居心地悪そうにそっぽを向く。
そんな恋人の様子が可愛くて、ついつい意地悪してしまいたくなるのだ。

愛しい人に想いを馳せていると、膝の上のがにゃあっと鳴いた。
喉元を撫でてやれば、ごろごろと喉をならしながら気持ち良さそうに目を細める。

―――やっぱさんに似てるな

そんなことを思ってついまた口端があがる。
漆黒の艶のある毛並みや、くりっと丸く心の奥底まで見透かされそうな瞳。
そしてなにより、気まぐれに俺を振り回すところが・・・


「俺に爪を立てて良いのも、さんとお前だけだしな?」
イタズラっぽく囁いて笑みを零すと、子猫のはにゃあっと鳴いて膝から降りてしまった。

「あーぁ、もう少し抱かれてればいいのに・・・」

姫は煙草がお気に召さなかったようだなと
彼女に似た気まぐれさに苦笑を漏らしつつ、愛おしげな視線を向ける。
やがて立ち上がり明かりを消すと
「おやすみ、俺のお姫さま」
そう呟いてサンジはラウンジを後にした。




それからしばらく経ち、船は次の島へと到着した。
みんなで島中を駆け回り子猫を飼ってくれそうな人を探すと、優しそうな老夫婦が引き取ると申し出てくれた。
サンジは渡したくないとごねたが、船で動物を飼うのは難しく島へ残した方が子猫の為だと諭されしぶしぶ了承したのだった。


老夫婦に子猫を託して船へと帰る道すがら、がっくりと肩を落とすサンジにはやれやれと苦笑した。

「良い人たちに貰ってもらえて良かったじゃない」
「・・・俺の・・・俺のが・・・うううっ・・・」


落ち込むサンジにふーっと勢いよく溜息を吐くと、はそのネクタイをぐいっと引っ張りサンジにキスをした。
不意打ちに驚いて目を丸くするサンジに
「あなたの『』はこっちでしょーが」
と、やや顔を赤くしながら膨れっ面で呟く。

「それとも私だけじゃご不満?」
首を傾げてみせるにサンジは「まさか!」と破顔した。

「貴女さえいてくれれば、他にはなにもいらないよ・・・my sweet  kitty?」


そんな甘ったるいセリフ以上に甘く蕩けそうな顔で告げると、サンジはの腰を引き愛おしげに口付けを落とすのだった。






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 ある人が何の気なく子猫に言った「もう少し抱かれてればいいのに」ってセリフにやたらドキっとして