−memories−
目に留まったそれを持ち上げると、そこには厳つい顔のコックさんと幼き日の彼の姿が写っていた。
「これってサンジと・・・ゼフさん?」
「え?あぁ・・・そうだよ」
私の手から写真立てを受け取ったサンジはやわらかな表情をそれに向けた。
こういう顔を見ると、いかに彼がゼフさんを慕い、いかに彼が愛されてきたのかが分かる気がしてこちらもつられて顔を緩めた。
そんな私に気付くと照れ臭そうにそっぽを向くものだから、つい笑ってしまう。
「それにしても可愛いわねぇ・・・。これが噂のチビナス時代か」
「チビナ・・・って、さんそれ誰に聞いたの!?」
してやったりという笑みを向けると、彼は拗ねたようにむくれた。
「ったくアイツら油断も隙もねェな。・・・まぁ、クソジジイにとっちゃ俺ァ今も“チビナス”らしいけどね」
いくら否定しても直しゃしねェなんて、ぶつくさ文句を垂れるけどそこにはしっかりと愛情が感じられた。
子供の頃のサンジ見ていると、なんだかふっと寂しい気持ちが胸に湧いた。
「いいなぁ・・・私ももっと早く出会えればよかったのに・・・」
出来ることなら生まれた瞬間から一緒にいたかった、なんてどうしようもない事を思ってしまう。
ふいにこぼした呟きに、サンジは驚いたように私を見た。
「なに?」
「い・・・や、さんがそんなこと思うなんて意外っていうか・・・そんな風に思うのは俺だけかと思ってた」
「失礼ねぇ」
サンジはちっとも分かってないんだ。どれだけ私がサンジを好きか。
いつまでも片思いしてるみたいに言うけど、本当はとっくに私の気持ちの方が上回っている。
・・・悔しいから言わないけど。
つんと顔を逸らした私をサンジが後ろから抱き締めた。
「だって俺はそれを四六時中思ってたからさ。マリモ野郎が俺の知らないさんを語るたびに
二人が思い出話をするたびに、あぁなんで俺はコイツより先にさんに出会えなかったんだろうって・・・」
女々しくて口には出せなかったけど、ってサンジは苦笑する。
「だから、俺だけじゃなくさんもそう思ってくれたことがクソ嬉しいんだ」
「そんなの・・・思うに決まってるじゃない。私より先にサンジに出会ったクルーみんなに嫉妬したわ」
小さく告げると、サンジは嬉しそうに微笑んだ。
「だけどさ、最近ちょっと思い直したんだ」
「思い直した?」
「そう。あなたに出会うまでの時間は、俺があなたに相応しい男に、あなたを支えられるだけの男になるために
必要な時間だったのかなって。そういう時間を経てあの日さんに出会えたからこそ
俺たちはこうして恋人同士になれたんじゃねェかなってさ」
「あの日出会えたのは私たちが恋をする準備が出来たからってこと?」
「そ。俺たちはあの日出会って恋におちる運命だったんだ」
運命だなんて言い方、あまりにもサンジらしくて破顔した。
だけど、本当にそうだったらいいな。私はサンジに出会う運命だったんだと。
「そっか。じゃあ私はサンジを支えられるだけの女になるために早く生まれたのね、きっと」
「うーん、俺にとっちゃ高嶺の華に拍車がかかったって気もするけど・・・。
でもいいな、それ。なんかさんが生まれたのは俺に会うためって感じがして」
そっと瞼にキスされて私はくすぐったさに身をよじった。
サンジの胸に頭をあずけて再び一緒に写真に目を向ける。
「いつかゼフさんにお会いできるといいな」
サンジに料理と戦い方と騎士道と、そして生き方を教えたこの人に・・・
「もちろん連れていくさ。こんな美人紹介したらジジイびっくりして腰抜かすかもな!
パティやカルネ、店の野郎共にも自慢しねェと」
子供みたいに話すサンジがふいに真剣な顔になる。
「だから、いつかオールブルーを見つけたら、俺と一緒にバラティエに行ってくれませんかプリンセス?」
真っすぐ視線を合わせたままそっと手の甲に口付けられて、胸が高鳴る。
「・・・うん、連れていって。あなたの大切なその場所に・・・・」
そう告げるとサンジはふわりと笑って私をきつく抱き締めた。
ふいにガンガンッと音がしてはっと振り向けば、開いたままの扉をゾロが刀の柄でノックした音だった。
「・・・何男部屋でいちゃついてんだよ」
慌てて離れようとしたが、そうはさせまいとサンジが腕の力を強めた。
「ちょっと・・・サンジってば!」
「邪魔すんじゃねェよクソマリモ」
ギロリと睨み付けるサンジにゾロがすたすたと歩み寄る。
「大体てめェの親云々の前に心配しなきゃならねェ事があるだろうがクソコック」
「あァ?」
訝しがるサンジにゾロがにやりと口端を上げてぼそりと何かを告げた。
すると見る間にサンジが青くなっていく。
「何?どうしたのサンジ?」
「・・・そういや、さんのお父様って道場の師範だっけ・・・」
ふらりとよろけるサンジにゾロが意地悪い笑みを見せる。
「覚悟しとけよ。コウシロウ先生は一筋縄じゃいかねェぞ?」
ひらひらと後ろ手を振りながら出ていくゾロを見送りながら、すでに小舅の貫禄が出始めたかもしれないなと苦笑した。
出会うまでに離れていた分も、これから一緒に思い出を作ろう。
あなたを作り上げてきた歴史と私のそれがあの日交わり、こうして一緒にいられるのも奇跡みたいなことだから。
そしていつかきっと、幼き日のあなたの面影が残る場所へと私を連れていってね・・・。
そんな祈りをこめて、私はいつの日か迎えるであろう私の父との対決に頭を抱える彼へとそっと口付けた。
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