−Love Holic−



昼食の後片付けを終えたサンジがいそいそと私の許へ近づく。
ソファの肘掛に凭れているとするりとその間に入りこみ、読書をしていた私を後ろから抱き締めた。
私のウエストあたりに腕を回して首筋に顔を埋め、その場に落ち着く。


「あ〜クソ幸せ〜」
「私は少し暑い」
「つれないさんも素敵だァ〜」


素っ気ない言葉にもサンジは至極楽しそうにしている。
抱き締めるその腕にぎゅっと力が入り、しばしそのまま動かなくなったかと思うと
満足げなため息とともにゆるりと力が抜けた。
それでもその腕は離れることなくお腹の前で組まれている。


「俺さんさえ居てくれたらもう何にもいらねェや」


ほう、と漏らすように呟かれた声は幸せそうでありながらどこか切なげ。


「それは嘘よ」
「本当だよ?」
「だってサンジには必要でしょう?夢も仲間もコックとしての信念も、
 帰りを待っていてくれている人達も。何一つ捨てることなんて出来ないと思うけど?」
「・・・俺は欲張りかな?」
「ううん、私はそういうのも含めてサンジが好きよ」
すわぁ〜ん!」

またぎゅーっと音がしそうなほど抱き締められて、今度は少しばかり苦しかった。



次のページを捲ろうとする手を取られて、とても自然な動作で指に口づけられる。

「クソ愛してます」
「・・・ありがとう」

照れの混じった素っ気無い返事に、指に触れている唇が弧を描く。
そのまま指同士が絡められて今度はうなじにキス。



サンジの空いている時間をこうして当たり前のように二人で過すようになったのはいつからだったか。
以前から口説き文句だの美辞麗句だのをさらりと口にする人ではあったけど
付き合い始めてから益々拍車がかかっている気がする。普通逆じゃないだろうか?

こうしてサンジが甘えるようにくっついてくるのが日常になって
他のクルー達がそういう時間帯は気を利かせてかあまりラウンジに入ってこないようになった。
申し訳なさからサンジにもう少し控えようと言ったけれど、現状で既に最大限譲歩しているのだと真顔で言われた。
これで我慢しているのだと言われると、本当はどれだけいちゃついていたいのだろうかと心配にすらなる。
けれどなんだかんだ言いつつ結局彼の言い分を甘受してしまうのだから、私も大概サンジに甘いなと反省した。



肩に置かれた頭が甘える猫のように擦り寄ってくる。


「もう愛おしくて愛おしくて堪らねェ。さんへの想いでおかしくなりそうだよ」


そのままの格好で話すから首に息が触れてくすぐったい。
でもそれ以上にくすぐったいのは甘ったるいセリフの方。
サンジが甘い言葉を惜しみなく与え続けるから糖分過多で病気になってしまいそうだと冗談めかして言えば
耳朶を甘噛みするように触れた唇が艶のある声で囁いた。


「病気なのは俺の方だよ。すっかりさん中毒だ。もうあなた無しじゃ生きていけねェ」


甘い低音の声がぞくりと腰まで響いて思わず身を捩る。
そんな私を知りながら楽しげにわざと音を立てて耳に口付けるサンジを窘める。
恐らく誰も入ってこないだろうとは思うけれどここは共有スペースなのだし、第一真っ昼間からこの雰囲気はいただけない。

「サーンージー?」

咎めるように名を呼んでもくすくすと笑いながらなぁーに?なんて知らないふり。
分かってるくせにと額を小突くとその手も捕らえられてしまい、上半身を反転して向き合う格好にさせられる。
捩れた体の上から本がばさりと落ちたけれど、そんなことお構いなしに私の両腕を自分の首に回す。
端正な顔をいたずらっ子のように綻ばせて、額をこつりと合わせるサンジを上目遣いで睨むと苦笑された。

「それ余計煽ってるようにしか見えないんだけど?」
「そんな訳ないでしょ」
「分かってるよ。他のクルーの手前控えろって言うんでしょ」

分かってますって、と啄ばむように口付けられる。
・・・どの辺りが分かってるんだか。
思い切り矛盾している行動に顔を顰めると、そのくるりと巻いた眉尻がへにょりと下がった。


「お願いだから許してよ。さんに思いの丈を吐き出して、さんに触れて
 そうじゃねェともうどうにかなっちまいそうなんだ。胸に仕舞ったままなんて、とてもじゃねェが抱えきれねェ・・・」


その声は驚くほど真摯で切実で。
蒼い隻眼で覗き込まれて懇願されるとつい流されてしまいそうになる。

口では咎めてみせたって私だって本当は嬉しくて仕方ないのだから・・・

どうしてこんなにも想いを注いでくれるんだろう。
私はサンジのように上手く言葉にすることなんて出来ないのに。
それに不満を見せることもなくサンジはありったけの好意を伝えてくれる。


軽々と横抱きにされて腰を引き寄せられ。
胸元に寄せられた金糸を梳けばぽすりと頭を預けられた。
今日はいつにも増して甘えたな気がする。

「・・・サンジ」

呼んでも返ってきたのは抱きしめる腕の強さだけ。


「サンジ?」
「・・・さんが俺の名前を呼ぶ声、すげェ好きだ」


再び繰り返した名前に蕩けそうな声がくぐもって聞こえた。


「もっと、もっと呼んで。愛の言葉なんかじゃなくていいから、その声をもっと聞かせて」


私の頬に手を添えて愛しげに懇願するから胸が詰まって苦しくなる。


「・・・愛の言葉じゃなくていいんだ?」
「いいよ。あなたの分まで俺が愛を囁くから」


後頭部に回された手がさらりと髪を撫ぜ、それに促されるようにキスをする。
いつだって最後はサンジのペースにのせられてしまう。


きっと意地っ張りな態度になるのは怖いから。
二人とも溺れてしまうような恋はすぐに終わってしまいそうで。
だから冷静なふりを装って。
でもそれもあっさりとサンジによって崩されてしまう。
もうきっと手遅れなんだ。

とっくに私は溺れてる。



「クソ愛してる」



息が触れるほど近くで視線を絡ませ告げられた言葉に、どうしようもなく胸が甘く痛んだ。
衝動に抗えずその薄い唇に再び口付ける。
やはり病気なのは私の方だと観念するように。

煙草味のキスは少しほろ苦くて、そしてうんと甘かった。













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