−恋降る−
白い息を手に吐いて両手を擦り合わせていると視界にちらりと白いものが映った。雪だ。
どうりで寒いはずだと自分を抱きしめるように腕を体に巻きつける。
「こんなクソ寒い日に外にいたら風邪引いちまうよ?」
振り返ると風で流れる金糸を片手で押さえながらこちらにやってくるサンジ君。
なんとなく海を見てたくて、なんて取ってつけたような理由を口にしようとして止めた。
自分ではそのつもりだったけど多分それは違うから。
こんな風に寒い中一人でぼうっと立ってたりしたらサンジ君が心配して声を掛けてくれるだろうことを私はどこかで分かっていた。
これじゃあ構って欲しかったみたいだと思って頬が熱くなる。いや、みたいじゃなくてきっとそう。
こんな方法で気に掛けてもらおうとする子供じみた自分に呆れる。
何も言わない私を訝しがるでもなくサンジ君はその手に持っていたマフラーをぐるぐると私の首に巻いた。
なんだか子ども扱いされているようで不服な気もしたけれど、それ以上に嬉しい気持ちが勝ってしまい唇を不恰好に結ぶ。
どうかした?と覗き込まれて、ごめんねと苦笑しながら謝るとサンジ君はいっそう首を傾げた。
「どうして謝るの?」
「甘ったれだなぁと思って、私」
「そう?もしそうだとしても別に謝ることじゃないと思うけど」
「どうして?」
「だって嬉しいし」
ちゃんに甘えられるの。そう事も無げに言って煙草を銜えた口角を上げるから思わず視線を落とす。
特別な風に受取っちゃいけないと自分を戒める。なにせ彼は一流のラブコック。
「サンジ君は優しいね」
「ちゃんだからだよ」
「女の子だからでしょ?」
「うーん、それは否定しねェけど。でもちゃんは特別だよ」
「・・・それはどうも」
「アレ?なんか俺疑われてる?」
さあとはぐらかすと苦笑して眉尻を下げて見せる。
サンジ君にこういう顔されると何だって許してしまいそうな気がした。
現にこうして勘違いさせるようなセリフも責めることなど出来ない。
特別だなんて言葉真に受けてしまったらそれこそ構って欲しいじゃ済まなくなるのに。
きっと独占欲で雁字搦めになって身動きが取れなくなってしまう。
そんな自分が容易に想像できて、手を温める振りをしてそこにため息を吐いた。
細かい雪はいつの間にか量を増して降り注ぐ。船に。私達に。
「粉砂糖みてェだなァ」
上空を仰ぐサンジ君の表情は心なしか楽しげで、垣間見えた無邪気さに知らず頬が緩む。
冬島が近づいていると言っていたから気温はもっと下がるだろう。この分だと積もるかもしれない。
ルフィ達がはしゃぐだろうななんて考えているとサンジ君が何か思案するように顎に手を当てた。
明日はポトフでも煮込むかな、とぽつり零した呟きに思わずふっと笑ってしまった。
寒い日は体の温まるものを、か。
サンジ君の思考はいつだってすぐに料理に直結する。
料理人だから云々じゃなくて、本当に料理が好きなんだなぁと思ったら何だか微笑ましくなってしまった。
突然笑われてきょとりとした表情に益々笑みが込み上げる。
「いや、料理人モードのサンジ君ていい顔してるなぁと思ってさ」
「え?それは男前ってこと?」
わざときりりとした顔を作ってそんなことを言うものだからくすくす笑いが止まらなくなってしまった。
それに気分を害するでもなく柔らかな表情で目を細められ、とくんと胸が跳ねる。
以前サンジ君に言われた。ちゃんは笑ってる顔が一番可愛いと。
サンジ君のことだからそんなセリフきっと飽きるほど口にしているだろうし、
その相手の一人に私も含まれていたことなど本人はとっくに忘れているかも知れないけれど。
こうして私の中には大切な宝物みたいに消えずに残ってしまった。
そんなセリフを意識してしまいますます顔に熱が集まる。
どうしよう、もう手遅れかもしれない。身動きなんて、もう。
「さて、そろそろラウンジに戻ろう?ほっぺも真っ赤になってるし」
不意打ちで頬にサンジ君の手の甲が触れて。ひやりとした感触にぴくんと体が震えた。
それはサンジ君の手が冷たかったからなのか。それとも私の頬が熱かったからなのか。
後者だとしたら赤く染まったその理由が寒さでないことなど明白だ。
居た堪れなくなった私はそれを隠すようにマフラーに顔を埋めて足早に歩き出す。
そんな私をサンジ君の声が引きとめた。
「今度は真っ直ぐラウンジに来てくれると嬉しいんだけどな」
脈絡のない言葉に疑問符を浮かべて見返すと、その口端が悪戯に上がる。
「こんな寒い中で待たせて風邪でも引かせちまったら大変だし、ね?」
にっこりと言われたセリフをしばし自分の中で巡らせて。やがて辿り着いた答えにどかんと顔中沸騰しそうになった。
バレてる!ラウンジに直接会いに行く勇気が無かったことも、
それでもサンジ君に構って欲しくてわざわざこんな寒い中突っ立ってたことも、全部全部・・・
くつくつと笑う彼が悔しくて、かあっと熱くなった顔を半分マフラーで隠したまま恨めしげに睨み上げた。
「サンジ君がそんな自惚れ屋だなんて知らなかったわ」
精一杯の強がりを言っても意地悪な笑顔はますます楽しげに揺れるだけ。
「そう、実は俺すごい自惚れ屋だったみたいなんだ。
だからそのりんごみたいに真っ赤になったほっぺも、ちゃんがここに居たのも、
全部俺が理由だったらって自惚れてるんだけど、ダメだった?」
その言葉にもう何も返すことが出来ずに、私はただ呆然と固まった。
ラウンジへと促すサンジ君は満面の笑み。往生際の悪い私は唇を尖らせながら恨み言を零す。
「・・・サンジ君が優しいって言ったの撤回する」
「特別だって言ってんのに信じてくれなかったちゃんが悪ィんだよ」
「とんだイジワル王子様だわ」
「知らなかった?イジワルで自惚れ屋でその上独占欲も強くて、挙句短気でちゃんの気持ちが固まるまで待てないときた」
「とんでもない人を好きになっちゃったみたいね、私」
私の言葉に一瞬その動きを止めて、やがてふわりと優しく微笑んだ。
それは私の大好きな笑顔。やっぱり、ずるい。サンジ君はずるい。
赤くなったまま口を尖らせる私にラウンジの扉を押し開けて促しながらサンジ君が小首を傾げた。
「さぁそろそろ笑顔を見せてくれませんかプリンセス?ちゃんは笑顔が一番可愛いんだからさ」
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相互リンク記念『清福』の春瑞揺様へ捧げますv