−君のに口づけを−


「髪、短くしようかなぁ」


何気なく呟いた一言に、想像以上に恋人が食らい付いてきた。

「なんで!?」
愕然とした表情に気押されて、さすがに若干引き気味になる。

「そ、そんな驚くこと?」
「驚くよ!髪は女性の命でしょ!?」
「って言ってもロビンくらいとかだよ?」
「バッサリじゃん!何それ失恋!?俺フッた覚えないよ!?」
「・・・私もフラれた覚えはないな」

バカみたいな押し問答に呆れながらも
じゃあなんで!?と半泣きな様子に
なんでアンタがそこ迄必死なんだと段々可笑しくなってきた。

「海上での生活じゃ髪も傷みやすいのよ。手入れも大変だしさ」
色々面倒なんだよ?と言う私の言葉に神妙な顔して唸る彼。
ほんとに必死だなぁと他人事みたいに思った。


「じゃあさ、俺が代わりにさんの髪洗ってあげるよ」
「えぇ!?」
「そしたら多少楽になるでしょ?」
「何でそこまで・・・」
「だってそんなクソ綺麗な髪切っちゃうなんて勿体ないよ」
すげェ似合ってんのに、なんて臆面もなく言うからこっちの方が照れてしまう。
本当に憎たらしいくらいさらっと言うんだから・・・。
そういうとこも好きだけど、なんか悔しい。

「よし、じゃあ今から洗いにいこう!」
「今から!?」
「善は急げって言うだろ?」
これは果たして善なのか?と思ったけど、もうすっかりその気の彼を止めることも出来ず
まだ日も高いうちから洗髪するハメになった。



洗面台の前に椅子を置いて背もたれにクッションを挟み調節すると
洗面台の淵にタオルを乗せて頭をのせた。

「こういう時って顔にタオルのせたりするもんじゃない?」
「えー?顔が見えなくなるからヤダ」
「・・・恥ずかしいんですけど」
「俺はクソ楽しいです」

言葉通り本当にご機嫌なサンジは鼻歌混じりに私の髪を掬い上げた。

「うわーすっげぇサラサラ!やっぱ綺麗だなぁ、さんの髪」
「長いから大変だと思うよ?」
「だいじょーぶ!任せて」

水温を調節してから私の髪を濡らしていく。

「柔らけえなぁ。なんか洗うこっちの方が癒されそうだよ」

サンジの感心するような口振りについ頬が緩む。
普段頑張って手入れしていて良かったとこっそり思った。


いつも私が使っているシャンプーを手に取り、泡立てて馴染ませていく。
しゃかしゃかとリズムよく動く手つきはなかなか様になっていて
あ、結構上手いかも・・・
気持ち良いな・・・


うっとりと目を瞑ると、サンジの楽しげな声が降ってきた。

「お加減はいかがですか、お客さま?」
「あははっ、気持ち良いでーす」

美容師さんみたいな口調が可笑しい。


「お痒いところはございませんか?」
「はい、ないでーす」


「チューしていいですか、お客さま」
「えぇ!?えーと、ダメでーす」


「お客さまのお顔を見てたらチューしたくなってきたんですが、お客さま」
「だから、ダメですってば」


「クソ野郎共もいないので今チャンスなんですが、お客さま」
「ぶっ・・・!ダメです言ってんのにっ!」
ついに堪え切れず吹き出してしまった。


すると突然、ちゅっ、と可愛らしい音を立てて唇が触れた。


「・・・このセクハラ美容師め」
さんが可愛すぎるのがいけねェんだよ」

悪怯れもせずにしれっと言うサンジが憎たらしい。
多分私の顔は赤いんだろう。


シャンプーを洗い流すと次はコンディショナー。
「あーさんの香りだ」
これすげェ好き、と屈託のない笑顔を見せる。
それはあんまりにも卑怯じゃない?
逃げることも出来ないこの状況じゃ照れた顔を隠すことも出来ないじゃないのよ。

そして最後にトリートメントまでしてくれて、流し終えるとふわりとタオルに包まれた。
優しく水分を取っていく様子は、本当に本当に大切なものを扱うかのようでなんだかくすぐったくなった。



その後、女部屋へ移動して髪を乾かす。ドライヤーを当てながら指で撫ぜて、これがまた・・・
「き〜も〜ち〜・・・」
「ははっ、さん猫みてぇ」
丁寧に乾かしおわると今度は髪を梳き始める。
なーんか上手すぎじゃない・・・?

「サンジ、ほんとに初めて?」
「何?そんなに上手かった?」

嬉しそうにするサンジに、そういう意味じゃないんだけど・・・と口籠もる。
すると今度はにやりと意地悪な笑いを向けてくる。

「あれ?もしかして何か疑ってる?」
ヤキモチってやつですか?なんてにやにや笑うサンジがムカつく。
むーっとむくれると今度は子供みたいに笑った。

「前にさんがしてくれたのを真似しただけだよ?クソ気持ち良かったから
 いつかさんにもしてあげたいと思ってたんだ」

その言葉に、以前戦闘で怪我をしたサンジの頭を洗ってあげたことがあったっけと思い出した。

「あの時はサンジの髪洗うの楽しかったなぁ」
「うん、俺も今日その気持ち分かった」
「だってサンジの髪すごい綺麗なんだもの」
「はははっ、さんのがクソ綺麗だよ」



梳き終えた私の髪をとってサンジが指に絡める。

「だから髪切るなんて言わないでよ。ね?」

髪にそっと口付ける仕草が色っぽい。
つくづくズルイ男だと思った。

「またこうしてサンジが洗ってくれるんなら考えてもいいよ」
強がりな私はつくづく可愛くない。
それでもサンジは蕩けそうな笑顔を見せてくれる。

「もちろん喜んで。あ、なんなら今度は一緒に風呂入って・・・」
「却下!」



えぇー、と不満の声を上げるサンジを適当にあしらってさっさと先に女部屋から出た。
潮風に吹かれてふわりとなびいた髪から洗い立ての香りがする。
それに思わず熱くなってしまう顔をさっきサンジがしたみたいに髪を持ち上げて隠した。



そっとそれに口付けて。
本当に髪の毛の先まで愛されているんだなんて。
最高に自惚れたことを思ってしまった自分を恥じる。
それでもきっと彼ならそれを否定しないんだろうな、と
思う私はやっぱり腑抜けていて。
あぁもうっ髪切れなくなっちゃったじゃない!
なんて心で悪態を吐いてそんな自分を誤魔化した。



それでもそんな私の顔はどうしようもなく緩んでいた。









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 ワンピにドライヤーないんじゃ・・・(脱兎)