−電の中の1ページ−


珍しく朝早く目が覚めて、いつもより早い時間の電車に乗った。
乗り換えの駅で降りてホームの反対側へ歩き、電車を待った。
その子に気づいたのは本当に偶然で。
長い髪をそっと耳にかける仕草や
ぴんと伸びた姿勢のいい背中から何故か目が離せなくなって。
気づくと同じ車両に乗っていた。

あれ以来、君はなんとなく気になる子になったんだ。



 

「っかーっ!いいねぇ純愛っ!」
「・・・うっせーよ、長っ鼻」
「それで万年遅刻魔のお前が毎朝ちゃんと学校来てるって訳か。珍しいと思ったら結局オンナかよ」
「万年寝太郎のてめェに言われる筋合いねーよ!」
「腹減ったな〜〜」
「・・・・・・・・・・・・」

三バカにうっかり話しちまった俺は散々冷やかされる破目になった。
あーあー、なんだって朝っぱらからこんなムサイ野郎共に囲まれなくちゃならねーんだ。
俺にとって人生最大の汚点は男子校なんかに入っちまった事だ。
男しかいない空間に身をおき続けるなんて青春の無駄遣いだぜまったく。

「しかしサンジが手出さねぇなんて珍しいな」
「いつもなら可愛い子と見りゃコンマ5秒で声かけに行くのによ」
「やっと本気になったってトコか?」
「俺はいつだって本気だよ!っつか、そんなんじゃねェし・・・」


そう、そんなんじゃねェ。
ただなんとなく、気になるだけで・・・



自分に言い訳しながら、結局今日も低血圧の体を引き摺ってあの電車に乗り込む。

あ、いた。

今日は運よく席に座れて、俺は彼女の斜め向かいの席。
いつものように彼女は鞄から文庫本を取り出して読み始める。
さらりと揺れる前髪や影を落とす長いまつげについ見惚れる。

何読んでるんだろーなぁ・・・

その細く白い指で琥珀色のページを捲って、君は何を見ているの?
名前も知らない子なのに、気になって気になって仕方がない。


これまで学校に行くのなんてダルくて仕方なかった。
早く週末にならないかと思ってばかりいたのに。
近頃じゃ金曜日になると憂鬱になるんだ。
月曜が待ち遠しくて・・・


いつも君は私服。会社員って感じじゃないけど、大学生かな?
年は同じくらいに見えるんだけど。
その薬指に束縛の証がない事に安堵して。

・・・なんだ、やっぱり好きなんじゃないか

自分の気持ちに気づいて苦笑した。


あいつらの言ったとおり、いつもなら気軽に声をかけられるのに。
君にはそれが出来ないのは何故だろう・・・。
きっと怖いから。
断られても平気と思える相手じゃないから。
君に嫌われるのが怖いから・・・。

あぁ、今日もひとつ前の駅で降りちまう。
君の後姿を眼で追いながら。
行かないで、なんて・・・。
バカな事を考える自分に呆れた。

まだ一日は始まったばかりなのに
もう明日が待ち遠しい。
見ているだけの恋なんて初めての経験だけれど
案外苦しいもんなんだな・・・。

次の駅に到着して、俺は雑踏に紛れていった。

 

 

 




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 名前も知らない恋とか夢小説に不向きこの上ない・・・!