−Breeder−

甲板で気持ち良さそうに寝ているゾロを見ていたら
それにつられて私も隣で寝始めてしまった。
春島海域なのか、ぽかぽかとした気候がなんとも言えず気持ちいい。
春眠暁を覚えずって本当だなぁなんて思いながら
心地よい眠りに身を任せていた。


すると突然重いものが体に乗っかってきた。
なんだか締め付けられているような・・・
なんだろうと思ったけれど、眠くて目が開かない。
けれどそれはほこほこと温かくて
あぁ、誰かが抱きついているのか・・・とようやく理解出来た。
鼻先をくすぐっているのは多分髪の毛で
それはお日様のにおいがした。
これはきっと・・・


「っっ!!何してんだクソゴム!!」


あ、やっぱりルフィか・・・とサンジの怒声で合点がいった。
力ずくでルフィが引き剥がされたらしく
ルフィの腕が巻きついていた私の体も一瞬宙に浮いた。
数センチ落下したことで軽い衝撃を受け
さすがにこれには私の意識も覚醒した。

「てっめーは何さんに抱きついて寝てンだよ!」
があんまり気持ち良さそうだったからよぉ」
「だからって抱きつくなッ!」
「だーって、すげー良い匂いするし柔らけーし、抱くとキモチイ・・・へぶッ!!」

猫のように首根っこ掴まれて説教されていたルフィが
勢いよく蹴り飛ばされて蜜柑畑の方へ飛んでいった。
すごい音を立てて壁にぶつかったルフィを見て
可哀想にと心の中で合掌した。まぁゴムだから痛くはないんだろうけど。

いまだ寝ぼけた頭でぼーっとその光景を眺めていると
ルフィを蹴り飛ばしたサンジと目が合った。
・・・うわっ、恐っ・・・

ルフィの言葉が逆鱗に触れたらしいサンジは鬼のような形相をしていた。
触らぬ神に祟りなし・・・とばかりにつーっと目を逸らしたが
「お目覚めですかプリンセス?」
温度の無い言葉で呼び止められてびくっと固まった。

再び視線を戻すと、にっこりと微笑みかけるサンジがいた。
・・・目が笑ってなーいっ
心で冷や汗を掻きつつ、とりあえずへらっと笑い返す。
「ラウンジで紅茶でもいかがですか?」
ここは逆らわない方が身のためだと考え
こくこくと頷いた。



さんは隙が多すぎるよ」
紅茶の準備をはじめたサンジはむすっとした表情を露にした。
まぁ作り笑顔よりこっちの方がずっと良いけど。
「無防備に甲板で寝たりして、しかもマリモの隣で!」
完全に拗ねているサンジに苦笑する。
「仲間しか乗ってない船なんだから良いじゃない」
「よくねーよ!ルフィに抱きつかれても怒りもしねーしさぁ」
サンジはぶつぶつと文句を垂れる。
前にゾロにキスされたことも未だに根に持っているようだ。

「だって子犬がじゃれついてきたからっていちいち怒る人はいないでしょう?」
私にとってルフィ達はそういう感じなんだもの。
「ゾロのあれだって、犬に噛まれたようなもんだわ」
「犬っつったってドーベルマンに噛まれりゃ痛ェよ!」
なんだか話がズレてるような気が・・・
しかしゾロがドーベルマンっていうのは言い得て妙だと思い吹き出した。
「じゃあルフィは柴犬かしら?」
そういえばゾロがサンジのことをきゃんきゃん騒ぐからスピッツみたいだと言っていた。
でも今それを言ったら火に油だろうなと、笑いをかみ殺した。


「・・・さん今俺のことも犬みたいだと思ったでしょ」
どうしてこういう時だけ鋭いんだろう。
でも確かに褒めると尻尾ふって喜んでるように見えるし
叱るとしゅんと垂れた犬耳が見えそうだと思う時がある。
「・・・思ってないよ」
「・・・すげー顔が笑ってるんですけど」
「思ってないってば」
笑いながら言うとサンジはますます剥れた。

苦笑しながらサンジの傍に行きその頭をよしよしと撫でると
何か言いたそうにしながらも、ぐぐぐっと押し黙った。
「・・・やっぱ犬扱いじゃねーか」
はぁっとため息を吐くけど撫でられるのは嫌じゃないらしい。
少し照れたような顔が可愛くて、くしゃくしゃっと頭を混ぜた。



ふいにぐっと抱きしめられる。
「サンジー?・・・んッ・・・!?」
顔を上げると突然唇を塞がれた。
いつもの優しいキスとは違う性急なそれに呼吸を奪われる。
息苦しくなってきた頃、ようやく解放されると
真剣な表情の中に射抜くように真っ直ぐな瞳があった。


「・・・許せないんだ、他の男が貴女に触るなんて」


海のように青い瞳が濃度増して深緑を帯びる。
その強い眼差しから目を逸らせずに息を呑んだ。

「この手も、唇も、体も・・・全部、全部俺だけのものにしたい」

そう言いながら手に、頬に、首筋にと口付けられる。
いつのまにか壁に追い込まれ既に逃げ場はなかった。


「貴女は俺のものだ・・・」

その言葉と共に、再び深く口付けられる。



だから犬なんかじゃないって言ったんだ。
可愛らしい犬だと思っていたら、実は狼だったなんて
とっくの昔に知ってた。
そう、知っていたのよ。
優しいその手には鋭い爪がついていることも
薄い唇の奥に恐ろしい牙を隠していることも
私はブリーダーではなく餌食なのだということも・・・


それでも・・・
狂おしいほどに自分を求めてくる姿が愛おしくて
私はそっと狼の首に腕を回してしまった。







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green-eyed monster とは嫉妬のこと。