−Birthday Gift−
波打つシーツの海の中、腕枕で眠る愛しい人をそっと抱き寄せる。
すっぽりと納まってしまう華奢な体に思わず頬が緩んだ。
どんなに極上の抱き枕だって敵わない最高の抱き心地。
この人は俺に抱き締められるために生まれてきたんじゃないだろうかと半ば本気で思ってしまう。
それほどまでにしっくりと馴染むその体を抱き締めると離したくなくなるのはいつものこと。
けれどその愛らしい寝顔が恋しくなり、名残惜しさを覚えつつ僅かに体を離した。
未だ夢のなかにいる寝顔は無防備で、ついつい触れたくなって手を伸ばす。
額にかかる前髪をさらりと流し、滑らかな頬に触れ、深色の瞳を隠す薄い瞼をなぞり、そして薄く開いた唇に口づける。
昨夜は何度となく唇を重ねたくせに、相手が眠っているというだけでこんな掠めるような口づけすらも
なんだかイケナイことをしているような気分になるのだからおかしい。
柔らかな手を持ち上げて細い指をそっとなぞる。
辿り着いた硬質の感触に口角を上げながら、再び布団の中にその手を仕舞った。
あまり触れると起こしてしまうと分かっているのに止められない。
いつもなら眠りを妨げては可哀想だと自重するのに。
そんな自分に気付いて苦笑する。
どうやら俺はかなり期待しているらしい。その言葉を貰うのを。そしてそのせいでどうにもテンションが上がっちまってんだ。
わくわくしながら今か今かと目覚めを待ってるだなんてガキみてェだと呆れるけど、
それでもこの穏やかな寝顔を前に逸る気持ちは止まらねェ。
頭を撫ぜるようにしながら髪を梳いていると、ぴくりと瞼が動き、やがて薄らと開いた。
徐々に持ち上がりぼんやりと周囲を捉えはじめたそれが俺を見止めた途端ぱちっと音を立てて開く。
黒曜石のような双鉾が俺を映すと、途端に頬の血色が良くなった。
そう言えばこんな風に彼女の目覚めを一緒にベッドの中で迎えられるのは久しぶりだ。
「お、おはよう・・・」
どもっちまってまぁ。あまりの可愛らしさに吹き出してしまいそうになるのを堪える。
ほんのり染まった頬や照れて泳ぐ視線、可愛い緊張具合も全部俺を意識しているのだと分かるから嬉しくてたまらない。
「おはよう、俺のプレゼントさん?」
頬に手を添えて覗き込みながら言えば、その顔が柔らかく破顔した。
「いつから起きてたの?」
「10分くらい前かな」
「せっかくなんだからもっとゆっくり眠れば良いのに」
「癖で目が覚めちまうんだよ」
朝寝が出来ねェのはコックの性。
二度寝でもしたらいいのにと納得いかなそうにしてみせる彼女に笑う。
「こうやってゆっくりの寝顔を堪能出来たことが何よりの贅沢だよ」
いつもは名残惜しみながら離れなきゃならねェのが常だから。
こうやって時間を気にせず彼女が目覚めるのを待って、一緒にシーツに包まってまどろんでいられるなんて最高に幸せだ。
寝顔を観察されてたなんてと照れる膨れっ面に頬を緩めて再び口づける。
啄ばむように何度も繰り返してそっと離れた。するとすぐに彼女の方からもう一度キスされて。
珍しい行動に目を丸くすると恥ずかしそうにはにかみながら腕の中から見上げられた。
「お誕生日おめでとう、サンジ」
柔らかく細められた目も、ふわりと弧を描いた唇も、そっと寄り添う温度も全てが優しく温かい。
ああ、どうして。
間違いなくそれは待っていた言葉で、つまり予想していた、もっと言えば貰えると確信していた言葉。
なのに思わぬ波紋が心に広がる。ああクソ、まさか泣きそうになるなんて。
ぎゅうと抱きしめてその髪に顔を埋める。
「・・・もう一回」
「え?」
「もう一回言ってくんねェ?」
強請れば小さく笑う声が胸の中で響いて擽ったさに包まれる。
「お誕生日おめでとう」
「・・・もう一回」
「おめでとう、サンジ」
「もっと」
ガキみてェに乞う俺にくすくすと笑う。
それに顔が火照っちまってんのが自分でも分かるし、俺だってこんな自分にクソ呆れるけど。
けど止まんねェんだ。ぎゅうと詰まる胸の奥が甘苦しくて、もっともっとと欲してる。
誕生日おめでとう、なんて、こんなに嬉しい言葉だったか?
恐らくクソ情けねェ面になっちまってんだろう俺の両頬をそっと小さな両手が包み込む。
「何度だって言ってあげる。お誕生日おめでとうサンジ。サンジに出会えて良かった。本当に心からそう思うよ。
今日という日に生まれてきてくれてありがとう。大好きよ、サンジ」
ちょん、と額に触れた唇は祝福するように。
俺もクソ愛してるとか、出会えたことにクソ感謝してるとか、想いはよどみなく溢れ出すのに何一つ言葉に出来ねェ。
そんなもどかしさすら甘受するように柔らかな手が頭を撫ぜるから、もう降参だと笑いが込み上げた。
これまで毎年のように言われてきた言葉。この日が来れば大抵は当たりまえのように与えられた言葉。
それがこんなにも嬉しく、特別に聞こえたのは生まれて初めてだ。
そんな相手に巡り合えた。それだけで今日という日に心底感謝したくなる。
「どこかの島に辿りつけてたら何かプレゼント出来たんだけどね」
「いや、俺は航海中だったことに感謝してるよ。これ以上のプレゼントなんてねェから」
海のど真ん中で迎えた誕生日。物は準備できないからと渡されたプレゼントは彼女とその時間。
宴の最中に突然リボンを掛けられたはきょとんとした表情で。
当人のみ知らされていなかったのだとありありと分かるその顔に、俺の方が先に状況を把握して吹き出した。
今日くらいはコックも休業してゆっくり寝坊しろと言われて躊躇もしたけれど。
こうして朝日の中で彼女を抱きながら改めて感謝した。こんなクソ贅沢な朝もねェだろう。
「プレゼントはお気に召しまして?」
悪戯っぽく小首を傾げ芝居がかった口調で問うに、もちろんと即答したい気持ちを抑えて。
「いいや、まだまだ」
「まだまだ?」
「だって誕生日はまだ始まったばっかだぜ?今日一日独占する権利があるんだろ?」
まだまだ堪能させてもらうぜとわざと羽交い絞めるようにすれば身を捩りながらころころと笑った。
それに、もうひとつ。もうひとつだけ、どうしても欲しいものがあるんだ。
笑いながら乱れた髪を直そうと手を上げたが、小さな違和感にふっと表情を変えた。
ようやく気付いた、と笑んでしまう口元を隠してそれを見守る。
左手の薬指に光るそれを驚きに満ちた表情で見つめ、やがて視線がゆるゆるとこちらに向けられる。
視線が交わり微笑を向ければ大きな瞳が潤みを増した。
丸一日じゃ足りねェんだ。だから君を永遠に独占する権利を。
俺が何よりも欲しいもの。
今日という日が人生最高のバースデーになるかどうかは君次第。
さぁ早く“イエス”と言って。
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サンジはぴば〜!! (08/3/2)