−あるの日のデート−



とある冬島に上陸した俺たちはログが溜まるまで一週間程ここに滞在することになった。
俺とさんは久しぶりに二人きりの時間を満喫していた。
様々なショップが軒を連ねる大通りを二人で雪を踏みしめながら歩く。
騒がしいクソゴム共もいなければ、お邪魔虫のシスコンマリモもいねえ。
誰にも邪魔されずさんとの時間を独り占め。
あぁ・・・陸生活万っっ歳!!

思わず拳を握り締めつつ幸せを噛み締めていると隣でさんがくすくす笑った。
「サンジー?まぁたどっかにトリップしてるでしょう?」
俺ははっとして、いやいやそんなことねぇよと
弁解しながら振り向くと優しい微笑みを湛えた天使がそこにいた。

まっ、まぶしい・・・!
冷たい空気で白い頬は薔薇色に染まり、少し赤くなった鼻の頭もソーキュートッ!
雪の反射のせいか純白の背景のせいか、いつにも増してきらきら輝いて見えるその姿。
君は雪の国から舞い降りた妖精・・・?

寒いねとはにかんでマフラーに顔を埋める動作に胸がきゅんと締め付けられる。
あ〜マフラーになりてぇ!!


そんなこんなで冬島にも関わらず俺の心は春爛漫!とばかりに浮かれ切っていた。

二人で雑貨屋に入ったり、お茶したり、一緒にアクセサリーを眺めたり・・・
こういういかにもデートっぽいことって船で生活している俺たちにはなかなか出来ない。
さんと一緒だと些細なことが嬉しくて楽しくて、一瞬一瞬がとても大切に思える。



そんな風に歩いていると、さんがふとある店の前で立ち止まった。
見ればそこはメンズ服の店で、ショーウィンドウにはロングコートが飾ってある。
それをじっと見つめるさんの横顔を見て、俺は嫌な予感がした。

・・・またマリモですか?

俺はため息を吐いて大きく肩を落とした。
さんはマリモにクソ甘ェ。ファッションなんて無頓着なあの野郎に変わって
時々こうして奴の洋服を選んだりする。
姉として弟分の服装をコーディネートするのを楽しんでいるらしいが
初めてヤツがさんに選んでもらった服を着ているのを目にした時は
羨ましさのあまり三枚におろして鍋でコトコト煮込んでやろうかと思ったくらいだ。
(まぁマリモなんか煮込んだところで美味くもなんともねェけどな!)

胸クソ悪ィけど楽しそうな彼女に水を差すような真似もできず、口出ししないようにしているんだが・・・


何も俺と二人きりでいる時まで他の野郎のこと考えなくてもいいんじゃねえの?
なかばやさぐれ始めた俺は、なおも熱心に見入っているさんに意地悪してやりたい気持ちが湧いてきた。

「・・・こういうのアイツは着ねぇんじゃねーの?」

あ〜ガキ臭ェ〜・・・自分で言ってて情けなくなってくるぜ。
例えどんなに趣味じゃねえ服だって、さんが選んだもんなら間違いなくアイツは着るに決まってンのに。
うわ、ちょっとヘコんできた・・・


しかしさんの反応はきょとんとしたものだった。
「アイツって?」
「え?マリモの服選んでたんじゃねェの?」
「ゾロはあんまりこういうの好きじゃないでしょ」
「へ?じゃあなんで・・・?」
そういうとさんはちょっと言い淀んでから、ちらっとこちらを見た。


「・・・サンジに似合いそうだなーって」


俺!?
驚いて見返すと、照れくさいのかマフラーで顔を隠すような動作をする。
そんなさんを見て徐々に嬉しさが込み上げてくる。

そっか・・・・そうだよな。
あの船でこういうの着るっつったら俺くらいだし、
ここは恋人である俺のを選んでるって考えるのがフツーだろ。
あぁ、迫害されることに慣れすぎてそんな当たり前の思考回路すらもてなかったぜ・・・
苦節数か月、ようやく俺にも光があたる時が・・・!


熱くなってきた目頭を押さえていると、さんが不安げに声をかけてきた。

「サ、サンジ・・・?」
「え?あぁ、ごめん。ちょっと浸ってた。えーと、このコートだっけ」

さんが見ていたコートを改めて見返す。
形の綺麗な細身のロングトレンチ。濃いめのグレーで
ダブルのボタンの重みあるシルバーがポイントになっていた。
ふむ、嫌いじゃねェな。
普段は動きやすさを重視して服を選ぶことが多いけど、
スーツには断然こういうデザインのが似合うし。
たまには良いかも・・・

さん、ちょっと中に入ってみても良いかい?」
俺が思考を巡らせてる間、自分が言いだした事だからか
やや緊張した面持ちで見守っていたらしいさんは俺の言葉に表情を明るくした。
そんな彼女に可愛いなぁと目を細めつつ俺たちはその店に入っていった。



少し店内を見て回ってから、店員に頼んで先程のコートを試着させてもらう。

あー着心地も良いなぁ。軽いけど暖かいし、実際に着てみると形の良さが引き立つ。
うーん、ちょっと欲しくなってきた。
しかし物が良いだけに値段もそれなりだし、貧乏海賊団のクルーにとっちゃ気軽に買える代物でもない。
鏡を見ながらちょっと気持ちが揺れてきた俺は感想を貰おうとさんの方を見やった。


するとそこには惚けたような表情の彼女がいた。

さん?」

呼び掛けるとはっとしたように俺を見てから、何やら居心地悪そうに目を逸らされる。


「・・・サンジ、それはやっぱ・・・マズイかも・・・・」
「えっ?変?」
「・・・いや、その反対・・・」

反対ってことは似合ってるって事か?じゃあ何がマズイんだろう。
疑問符を浮かべたまま見ていると、さんは頬を紅潮させて
「・・・・ちょっと格好良すぎる」
ぼそりと呟いた。


・・・・・・・・・・・・・・


「お客さまいかが「買います」
「えぇっ!?即答!?」

店員の言葉を遮り、即効で購入を決断した俺にさんはわたわたと慌てた。

「だってさんが似合ってるって言ってくれてんだから、買わない手はないでしょう?」
「いや、でも、他にもあるしもっと見てからの方が・・・」
あっちのダッフルも可愛いしとかなんとか言って俺に他の物を勧めようとする。


「やっぱ似合ってない?」
首を傾げながらじいっと見つめると、さんはうっと言葉に詰まって視線を逸らした。

「似合っては・・・いるのよ、すごく」
・・・直視出来ない程に・・・・

ぼそっと呟いた最後の一言を俺は聞き逃さなかった。

「他の物もお持ちしま「これにします!」
「サンジってば・・・っ!」
人の話聞いてる?とさんが膨れる。

「だってさんが俺に萌えてるなんてこんなおいしいシチュエーション逃す手はな「萌えるとか言わないで!」

赤面して抗議するさん。正直俺は面白がっていた。


駄目押しにさんの顔を覗き込んで
「俺がこれ着るの嫌なの?」
と悲しげな顔を作り尋ねると、さんは困ったような顔をしながら

「嫌じゃないけど・・・それ着てるサンジを他の女の子に見せるのはイヤかも・・・」

と消え入りそうな声で呟いた。

・・・・・・・・・・・・・・・・はい決定!

「いかがなさ「着て帰りますっ!」

「〜〜〜〜〜ッ!」



もう何を言っても無駄だと判断したのかさんは抗議するのを諦めた。
俺はそんな彼女に口元が緩みそうになるのを堪えながら支払いを済ませた。


外へ出てもさんはそっぽを向いて歩いていたが
その頬は赤いままで、ちょっともじもじとした様子につい顔が綻ぶ。

ふと顔を上げたさんが不安げな顔をした。
その視線の先を追うと、女の子達がこちらを見ているのに気付いた。
さっきのさんみたいに惚けたような表情の子や
顔を赤くして友達とこちらを見ながらひそひそと話す子達。
・・・こりゃあ気分良いなァ〜。
つい俺は上機嫌になる。

これまでならそんな女の子達に愛想を振りまいたり声をかけたりするところなんだけど
今はそんなことよりさんがヤキモチを焼いてくれている事がなにより嬉しい。
そんな風に妬いたりするのは専ら俺の方だったから
さんもそんな風に思ってくれるんだなぁなんて、不謹慎だけど喜びを感じた。


顔を曇らせてしまったさんの頭をぽんっと撫でる。
「そんな不安そうな顔しなくても、俺にはさんしか見えてねェよ?」

にぃっと笑ってそう言うと、さんは恥ずかしそうに俯いてから少し切なげに眉を寄せて
「・・・あんまり格好良くなり過ぎないでね?」
と俺のコートの肘をちょいっと摘んだ。


うぉぉ・・・・・いっ!!
そりゃ反則じゃねーか?
小首傾げて目を潤ませたあげくそんなクソ可愛らしことされたら俺が萌える!
っつか悶えるわッ!
俺をトキメキ殺す気か!?
ぐぉぉぉお・・・・!!


さんの可愛らしさにあてられた俺はついに堪えきれず道のど真ん中で彼女を抱き締めた。


「ちょっと!サンジ・・・!?」
さんの方こそこれ以上俺を惚れさせねェでよ」


ぎゅーーーっと音がしそうなくらい抱き締めてからゆっくり離すと、俺を見上げた彼女がくすっと微笑んだ。
自分でも顔が赤いのが分かる。
照れ臭くなって俺はさんの手を取って歩きだした。
雪道なのに体が火照って暑いくらいだ。
腕にきゅっと抱きついて、さんはふふっと笑った。
俺はそれに堪らなく満たされる。

あーぁ、いつだって最後は結局彼女に翻弄されちまうんだ。
まぁつまり惚れた方が負けってことなんだろうけど。
素敵な貴方に釣り合うためにも、俺はもっと男を磨かなくちゃなと決意を新たにした。
覚悟しててね、さん?
今にもっと貴方を虜にしてみせるから。



二人きりの時間を惜しむように白銀の道をゆっくりと歩きながら、俺たちはみんなが待つ船へと帰っていった。










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 サンジに細身のロングトレンチを着せたかっただけです!そんだけ!(笑)