Dislike rain? −



雨音が甲板を叩く音が頭上から断続的に聞こえる。
時化で船の揺れもいつも異常に大きく、時折ミシミシと板が軋む音がする。

その大きな揺れに合わせるようにして視界の端でごろごろと転がる影。
それは麦藁帽子を被ったこの船の船長。
何が面白いのかひたすら転がり続けていたルフィは唐突にそれを止めたかと思うとごろんっ、と仰向けになり


「ひ〜ま〜だ〜な〜〜〜・・・」


情けなく間延びした声を上げた。
まさに“暇”という感情を見事に表現した声だなぁと他人事な感想を抱きながら、
私は手にしていた本のページをぺらりと一枚捲った。


「なー、雨止まねェなァー」
「そうだねぇ」


ぺらり


「まだまだ止まねェのかなァー」
「そうみたいだねぇ」


ぺらり


「つまんねェなー」
「そうだろうねぇ」


ぺらり


「・・・お前ェ読むの早ェなー」
「速読習得したからねぇ」
「ソクドク?」
「早く読めるってこと」
「あーソクドクなー・・・昔よく見かけたよなー、ソクドク」


適当過ぎる相槌になんのこっちゃと呆れながらまた私はページを捲る。
すると床ではルフィがひっくり返った節足動物のように手足をじたばたさせて暇だーッ!と一際大きい声を上げた。


数日前に雨季の海域に入ったらしく、ここのところ雨の日が続いていた。
最初はチョッパーやウソップ達と室内遊びに興じていたルフィだったが
さすがにこうも外に出られない日が続くと遊びのレパートリーも底を付いてしまったらしく
さっきからこうして転がったりじたばたしたりを繰り返しているのだった。


「俺雨嫌ェだなァ〜」


今度は突っ伏したままぼそりと呟いたルフィをちらりと横目で見て、再びページを捲る。
それは恐らく、単に暇だからというだけではなく能力者故の苦悶も含まれているのだろう。
水が弱点の能力者は私たち常人が感じる以上に雨は不快なものなのかもしれない。

ちょっと可哀想かも、と思ったけれど。でも。



「私は好きだけどな、雨」



私の言葉に驚いたようにしてルフィがムクッと半身を起こした。


、雨好きなのか?」
「うん」


ぺらり


「暇じゃねーか?」
「別に、こうやって本読んでるの好きだし」


ぺらり


「晴れてた方が気持ち良いじゃねェか」
「晴れてるのも好きだけど、雨も好きだよ」


ぺらり


「ナンデ??」
「・・・・・・・・」


ぺらり



ぺらり・・・




















「・・・・・・・・・だってルフィと一緒にいられるし」

























ちら、と視線だけで伺うと、ルフィはぽかん、て顔をして瞬きを大きく続けて三回した。

「別に晴れた日だって一緒にいられんじゃねェか」
「・・・晴れた日はルフィすぐにどこかに走って行っちゃうでしょう?」

ぺらり

「釣りしたりするのも嫌いな訳じゃないけど、私はこうやって本読む時間も同じくらい好きだし」

ぺらり

「でもそうするとそういう時間はどうしても離れてなくちゃならないし」

ぺらり

「でも雨の日は本読んでてもこうやってルフィと一緒にいられるから」

ぺらり

「だから・・・好き」

ぺらり

「なあ、・・・」

ぺらり

「それほんとに頭入ってんのか?」

ぺら・・・

「・・・・・・・・・・・・・・・」



言いながらどうしようもなく照れくさくて、実はそれを誤魔化すかのようにむやみやたらに捲っていたのだ。
そこを指摘された私は耳まで赤くなりながら窮する。


顔を俯かせていてもルフィの真っ直ぐな視線を感じてページを捲る指が動揺する。
それでもどうしていいか分からずに私は無理やり“読書してます”というふりをし続けた。
再びページを捲ろうと動かした指が、ルフィの「なあ」という呼び声にぴくんと反応して止まってしまう。


「俺と一緒にいたかったのか?」
「・・・・・・・・・・」


「俺と離れてるの嫌だったのか?」
「・・・・・・・・・・」


「俺と離れてると寂しいのか?」
「・・・・・・・・・・」


「なあ、
・・・ぺらり






「・・・一緒にいたかったし、嫌だったし、寂しかったよ」






・・・・・・ぺらり






「・・・そっか!」


にしししッ!といつもの暢気な笑い声が聞こえてきて
嬉しいような、恥ずかしいような、居た堪れないような、そんな気持ちになる。


ルフィが動いた気配がして顔を上げたら
その姿を捉える前に背中に温かな重みが圧し掛かった。
ルフィが後ろから抱きついた証拠。


うわっ、と動揺して鼓動が跳ねて心音が早くなる。
それを気づかれないようにと必死で平然を装いながら、でもどうしてもページを捲る指が照れて覚束ない。
それにますます動揺を煽られてどきどきしていると、肩口にルフィが顎を乗せた。
黒々とした猫っ毛が耳を掠めてくすぐったい。
本を覗き込んだルフィが、うわなんだコレ!字ィいっぱい書いてんぞ!?と素っ頓狂な声を上げる。
本なんだから当たり前じゃない、と思ったけれどそんなツッコミすら入れられないほどにテンパる。

脇の下に入れられた手が私の体を持ち上げるようにして。
気づけばルフィの胡坐の上に収まるような格好になっていた。

なんだかお父さんと一緒に本読んでる子供みたいな絵面だな、と思ったら可笑しくなってしまった。
私を抱きしめたままルフィは船のゆれに合わせるようにゆらーゆらーと揺らす。
照れくさくて後ろなんて振り向けないけど、ルフィがご機嫌なのが伝わってくるから私の口元もつい緩んでしまう。
ゆらゆらゆらゆら戯れのように揺らされて、くすぐったくて二人で笑う。


コテン、とルフィが肩口に頭を預けるから、私は笑んだまま再び本に視線を戻した。




「・・・雨、止まねェなァー」
「・・・そうだねぇ」



ぺらり



「まだまだ止まねェのかなァー」
「そうみたいだねぇ」



ぺらり





「・・・止まなくても、いいな」
「・・・・・・・・・・・」






・・・ぺらり






「・・・・・・うん」






肩口でルフィが小さく笑って、吐息が首筋を撫でた。
船板を叩く雨音が私の気分を高揚させる。
もっと降ればいいのに、なんて思ってしまう自分が恥ずかしくてまたページを捲る。

「やっぱり読むの早ェなー」
「・・・速読習得したからねぇ」
「ソクドクなー、元気でやってっかなー、ソクドク」
「誰よそれ」


思わず吹き出すと、ルフィもしししッと笑った。



「・・・お前ェスゲーなぁ・・・」
「ん?何か言った?」



ふいにぼそりと呟いたルフィの声は雨音に掻き消され、
聞き返した私の耳に聞こえてきたのはルフィのすやすやとした寝息だけだった。













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 だって君の言葉だけで雨が好きになってしまったんだから







 船長はぴば!!(080505)