「・・・・ひっく・・・ルフィの・・・バカッ・・・」
真っ暗な公園のすべり台の下で、は蹲って泣いていた。
ぞうさんの形のすべり台は中が丸く繰りぬかれていて、小さい頃三人でかくれんぼする際によく使ったものだった。
・・・そりゃ、気持ち伝えてなかった私も悪いけど・・・けどエースに告白しろだなんて!人の気も知らないで・・・っ
声を殺して泣くの後ろで、じゃりっと誰かが石を踏む音がした。
「お嬢ちゃん泣いてんの?慰めてやるから俺とイイコトしねェ・・・?」
低い声に背筋が震え上がる。ち、痴漢・・・!?とは体を強張らせた。
しかし声の方を確認すると、は半眼になった。
「・・・イイコトって何よ」
「そうだなぁ、公園のごみ拾いとか?」
「ぶっ・・・そりゃ確かに善い事だわ」
が噴出すと、だろ?とエースは悪戯っぽく笑った。
「も〜、紛らわしい声出して!変質者かと思って焦ったんだからね!」
「だったらこんな時間に女がひとりで出歩くんじゃねーよ」
すべり台の下から出たの頭をエースがわしわし撫でる。
何かを言いたそうにしているにエースが苦笑した。
「不肖の弟の代わりに迎えにきたんだ。一緒に帰ろうぜ?」
「・・・・本人は?」
「さぁ、今頃まだ部屋で落ち込んでるか、もしくは走り回って探してるかもな」
「連絡しなくていいの?」
「自業自得だからな。いい薬だ、心配させとけ」
にいっと口端を上げるエースには困ったように笑い、二人はゆっくりと歩き出した。
「まぁルフィは鈍いし、女の気持ちなんかまだ分からねェガキなんだ。勘弁してやってくれ」
「そうねー、鈍いのは血筋みたいだしぃー」
「・・・俺はちゃんと気づいてたぞ?の気持ち」
からかうように言ったセリフにふいに真面目な声が返ってきては顔を上げた。
「まぁなー、お隣にこぉーんな二枚目のカッコ良い兄ちゃんがいたらそりゃ惚れるよなァー」
「・・・しばらく会わない間に随分な性格になったんじゃないエース?」
一変しておちゃらけるエースにはしらけたように言い放つ。エースは可笑しそうに笑った。
「何言ってんだ、俺は何にも変わっちゃいねェよ。お前もルフィも変わらず可愛い妹と弟だ」
なっ?と太陽みたいに笑うエースを見て、あぁ、本当に変わってないなとは思った。
この笑顔が好きだったんだ・・・と。
家が見えてきた頃、はくるりとエースに向き直った。
「エース。・・・私本当にエースのこと好きだったんだよ。
子供だったけど、憧れとか勘違いとかじゃなくて、本当に本当に好きだったんだからね」
「・・・おう。分かってるよ。そんで、今はちゃーんと別のヤツに恋してるってこともな?」
ぐしゃぐしゃと頭を撫でられ、はにししっと照れくさそうに笑って家に入っていった。
それを見届けたエースは眉をハの字に下げる。
好きだった・・・か。
あーぁ、可愛い妹分は弟に取られるし、弟にはライバル視されるし、兄貴なんて損なポジションだなァ・・・。
ガリガリと頭を掻きながら、自分への気持ちをちゃんと卒業してしまったに寂しさを覚えた。
別に弟だから譲った訳じゃない。自分の気持ちより、ルフィの想いの方が大きかった、ただそれだけ。
どちらも自分にとって大切な存在。だから、二人には上手くいって欲しいんだ。
・・・もう泣かすんじゃねーぞルフィ?
二階にあるルフィの部屋に念を送ると、エースも吹っ切れたような表情で家へと入っていった。
「あールフィ、おかえりー」
外を走り回って探したがは見つからず、一旦部屋へ帰ると呑気な顔をしたがベッドで横になってくつろいでいた。
その様子にルフィはへなへなと崩れ落ちる。
「な・・・なん・・で、ここ・・・に・・・」
ぜーはー言いながら途切れ途切れで話すルフィにはしれっと返す。
「ルフィ帰ってくるの待ってたんだよ」
「お前ェ・・・怒って、泣いてたんじゃ・・・」
「うん、もう泣き止んだ。でもまだ怒ってるよ。ちゃんと理由分かってる?」
「・・・分かんねェ」
「馬鹿ルフィ」
「なっ、馬鹿って言う方がバカなんだぞ!?バーカ!」
「馬鹿って言う方がバカって言う方がばかなんですぅー!」
「うるせェ!ばかばかばかばーかッ!」
子供の喧嘩のようなやりとりで疲れた二人は、それこそ馬鹿らしくなってきて笑った。
「・・・なぁ、。お前エースのこともう良いのか」
「あのねぇ、いつの話してんのよ?人の気持ちなんて変わるもんなの!」
「・・・俺は変わってねーぞ」
真剣に話すルフィについ顔が赤くなる。ルフィの気持ちに気づいたのはいつだったろうか・・・
それからなんだか意識してしまって、気づけばいつの間にか自分の気持ちもルフィに向いていた。
ちっとも気づいてくれないルフィに身勝手に苛立ちを感じたりもした。
それでもこんな風にストレートに伝えてくれるルフィを前にすると、どうしようもなく熱が上がってしまうのだった。
それを隠すようにふいっと顔を逸らすと、はわざとらしく声を張り上げた。
「私がなりたいのはエースの彼女じゃないの!妹なの!」
「今だって妹みてェなもんじゃねーか」
「そうじゃなくて、本当の妹になりたいのよ」
「はぁ?そんなもん無理に決まってんじゃねーか。血繋がってねェのに・・・」
「バカねぇ、もう一つ方法あるでしょ?」
「もうひとつ・・・・・?」
しばらく考え込んだルフィが突然がばりと立ち上がる。
「っそれって・・・・!?」
闘牛のように突っ込んできそうな勢いのルフィの顔に向かってはシャツを投げた。
「待ってる間暇だったから投げてあったそれにボタンつけといてあげたよ。
っていうかあの日取れたやつまだ付けてなかったんだね。まったく、ズボラなんだから」
それはあの日ボタンを引きちぎってしまったシャツだった。
どきりとして目をやると、素っ気無い白のボタンの中にひとつだけ形の違う真っ赤な目立つボタンが縫い付けてあった。
「なんじゃこりゃ?お前ェ何付けてんだよ」
「いいじゃない、前よりカッコ良くなったでしょ?」
にししっと笑うの笑顔に、心の綻びが治っていく。
そっか・・・無くしちまったボタンは付け直せば良かったのか・・・。
元通りではなくても、それは前よりずっとカッコ良い気がした。
握ったシャツの上で、赤い小さな星型のボタンが瞬いた。
翌日、家の前では一台の自転車にまたがって賑やかに騒ぐ二人の姿があった。
「ほらエンジン一号!超特急で飛ばすのよ!」
「お前ェえらそーだなァ」
「アンタが送ってくっていった癖に寝坊したんでしょーが!」
ルフィがこぐ後ろに立って、はわーわーと文句を言う。
の高校より手前にあるルフィの学校が見えてきた頃、登校する制服集団の中に見慣れた三人の後姿を見つけた。
「あ!ゾロー!ウソップー!サンジくーんッ!」
眠そうに歩く三人は、呼ばれると緩慢な動きで振り返った。
「おー、二人仲良くご登校かー?」
「ちょっとの高校まで送ってくんなー!」
「ちゃんの高校って女子高じゃねーか!てめェなにひとりでイイ思いしてんだッ!」
冷やかすウソップと騒ぐサンジの横を、二人は手を振って通り過ぎる。
すっかりいつも通りの笑顔に戻ったルフィを見てゾロは口端をあげた。
そしておもむろに手でメガホンを作って叫ぶ。
「おーい、パンツ見えそうだぞー?」
「ぎゃー!うそぉーッ!?」
「なにぃ!?なんて朝からラッキーなッ!!」
「うーん、もうちょっとだな・・・ルフィー、もっとスピードあげろぉー」
「何バカなこと言ってんのよ!このエロトリオがッ!!」
後ろでしゃがみ込んで覗こうとする三人に向かってが怒鳴る。
「ルフィもなんか言ってやってよ!」
「おいお前ェら!のパンツ見て良いのは俺だけだぞ!・・ってイテー!!なにすんだ、!」
「アホかー!アンタだって見て良い訳ないでしょーがッ!」
「いいじゃねェかケチ」
「ケチじゃなーいッ!」
朝からテンションの高い二人を見送って、三人は顔を見合わせた。
「どうやら上手いことくっついたみてェだな」
「まったく心配かけやがってよ」
「とりあえず今日はルフィに死ぬほど驕らせようぜ」
「そりゃそうだ。幸せお裾分けしてもらわねェとな」
驕らされることになるとは露知らず、ルフィはを乗せて颯爽と走っていった。
新たに形を変えた二人の関係はまだ始まったばかり。
まだまだ暑さを引かない日差しの中、ルフィの肩を持つの手にはじわりと汗が滲んだ。
それでも向かってくる風は心地よく、は気持ち良さそうに目を閉じる。
後ろに感じる重みに嬉しさを感じながらルフィはさらにスピードを上げた。
その胸には真っ赤な星が太陽の光を浴びてきらりと輝いていた。
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真冬に初夏の設定ですいませんでした!!<(_;)>