「だから最初はね、時計ウサギかと思ったの」
−Eat Me−
あの日、私は平穏すぎる島での暮らしに退屈しながら木陰でうとうとしていた。
すると目の前を可愛い小動物が『時間がないっ、時間がないっ』と
小走りで喋っていたものだから、つい追い掛けてしまったのだ。
「本当はトナカイだったけど」
ふふっと笑うとチョッパーが照れたように顔をすくめた。
後で聞いた話では、どうしても欲しい医学書があり
しかしナミにすぐ出航するから急いで戻ってこいと言われていたらしい。
「じゃあナミはハートの女王ってとこか?ぴったりじゃねーかっ」
「あら、お望みならその首をちょん切ってやりましょうかウソップ?」
「ひーっ!ナミが恐ェー!」
ならばガタガタと震えるウソップとチョッパーはさながら
クイーンに怯えるトランプ兵といったところだろうか、なんて考えながら笑った。
「でも辿り着いた先にいたのは眠りネズミじゃなくて眠り剣士だったけどね」
「っつーか寝腐れマリモだな」
「そういうてめェは帽子屋じゃなくてイカれたラブコックじゃねーか」
またもぎゃーぎゃーと言い争いを始めた二人は、女王様の拳骨により沈められた。
落ちた穴の先にあったのは海賊船だったし、船長はゴム人間だし、
鼻の長い嘘吐きを見たときは物語が違うんじゃないかと内心ツッコんだし・・・
ここは不思議の国よりよっぽどハチャメチャな場所だった。
だけど、まるで太陽みたいにキラキラ笑う麦わらの船長を見ていたら、
例えどんなところでもいいからここにいたいと思ってしまったんだ。
三時のおやつの時間が近付きラウンジへ行くとにこやかに笑うサンジ君が迎えてくれた。
「ちゃんこれ見て」
お皿のうえに並べられた美味しそうなクッキーには『Eat Me』の文字。
「わぁすごい!アリスのクッキーだ!」
確かこれを食べたアリスは体が大きくなってしまうんだっけ?
「さっきの話で思いついてね。お気に召していただけましたかアリス?」
恭しくお辞儀をしてみせるサンジ君につい顔が綻ぶ。
サンジ君は本当にこういう演出が上手だと思う。
お伽話にものってくれるし、時々私なんかより
よっぽど乙女ちっくなんじゃないかなんて思ってしまう程だ。
そんな事を考えてクスクス笑いながら席に着くと、りんごの香りがする紅茶が運ばれてきた。
アリスのティーパーティよりずっと素敵なこのお茶会に心が弾む。
そして心を弾ませるもう一つの理由が、きっともうそろそろ…
「サンジおやつーーーーー!」
ほらやっぱり。
予想通りの登場に思わず口端が上がった。
「あ!何食ってんだ!?」
問い掛けに答えようと、食べかけのクッキーを離そうとした時
ふいにルフィの顔が近づいた。
「ん〜、んめーなぁコレ!」
ラウンジの時が一瞬止まる。
それを破ったのはサンジ君の怒声。
「てんめェーは何してんだクソゴムー!!」
「だって『Eat Me』って書いてたじゃねーか」
「だからってちゃんがくわえてたのを食う奴があるか!」
「のが美味そうに見えたんだから仕方ねーだろ!」
「威張ンなーーーーー!!」
二人のやり取りの前で石のように固まってしまった私は
自分でも分かるほど真っ赤になってしまい、慌てて紅茶を飲んでそれを隠した。
今、ルフィの唇が触れた・・・よね?
わずかに飲み込んだアリスのクッキーで体が大きくなることはなかったけれど
代わりに大きく膨れ上がったルフィへの気持ちがこの船を突き破ってしまうんじゃないかと思った。
残りを食べたルフィにも、同じ魔法がかかれば良いのに・・・
なんて考えを頭をぶんぶん振って追い出した。
顔を上げるとふいに目が合ったロビンが
すべてお見通しと言わんばかりにチェシャ猫のように妖しく微笑んでいた。
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ルフィ夢のはずなのにとてもサンジに傾倒している気が・・・