−全面幸福−
CP9たるものいつ何時でも己の制御など出来て当然じゃ。
諜報員として如何様な場所にも潜入し、時にはその気配を押し殺し
呼吸も発汗も瞬きすらも意のままに、五感でさえ操り自らの身体をコントロールするのじゃ。
そのくらい赤子の手を捻るより容易いこと。
・・・のはずなんじゃが。
今この状況はどう考えてもそれと矛盾しておる。
気まずさに当て所もなく視線を奔らせるワシの斜め後ろからくすくすと忍び笑う声が耳に痛い。
「・・・何を笑っておる」
「だって、カクさんってば手に汗すごいんだもの」
やっぱり気づかれておったのかとうな垂れながら、一方で気づかんわけもないじゃろうと自分に呆れる。
誤魔化しようなどあるわけもなく、今と繋いでいる手はぐっしょりと濡れておる。
こんなに手に汗握ったのは生まれて初めてじゃ。
これまで散々危険な任務をこなしてきたがこんな風になったことなど一度もない。
女子と手を繋ぐなどこれが初めてでもあるまいし一体なんじゃと言うんじゃ。
たかだか手を握っただけでこんな・・・
「カクさんが手に汗かくなんて何だか意外です」
「・・・ワシじゃって緊張くらいするわい」
そんなワシの言葉に緊張してるんですか?と楽しげに悪戯な笑みを見せるに一層煽られる。
顔など逸らした所でこのキャップでは熱くなった耳朶までは隠しきれん。
ああ、なんと言うことじゃ。散々に濡れておる掌、からからに乾く口腔、仕舞いに耳まで赤く染め上げて。
己の制御など聞いて呆れるわい。本当にワシ政府直下の暗躍諜報員か?段々自分でも自信がなくなってきたぞ・・・。
もう箸が転がっても可笑しいというようにころころ笑う声がどうにもくすぐったい。
しかし居心地悪いくせに不快ではないというのは、そこにワシに対する好意が滲んでおるからじゃなんて
自惚れも甚だしいことを思うワシは本格的にどうかしておるわい。
「嫌じゃったら手を離してくれてもいいんじゃぞ」
「誰も嫌だなんて言ってないじゃないですか」
そう言ってはにかむ表情に、もう敵いはせんと諦めに似た思いで嘆息する。
それにまたが笑うから。ああもう勘弁してくれんかと頭を抱えたくなった。
繋いだ手からワシの気持ちが全部に流れて伝わってしまいそうで
恥ずかしいわ居た堪れんわでどうにかなってしまいそうじゃ。
それなのに自分からは離したくないなどと。腑抜けにも程があろう。
いっその方から離してくれんじゃろうか。
そんなことを思いながら一層握る手に力を込める自分の行動に
やっぱり矛盾しておるわいと呆れることしか今のワシには出来んかった。
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君に全面降伏。それはこれ以上ない幸せな敗北。