++ モーカー ++



屋根から屋根へと飛び回り逃げる私を一台のビローアバイクが追ってくる。
ふいに足場が途切れて立ち止まると、下の方からバイクが停止する音が聞こえた。
地面を見下ろせばその口に二本も葉巻を銜えた厳めしい男と目が合う。
『正義』の二文字を背負ったその男は私を見上げて低い声を上げた。


「観念するんだな。港に停泊していた麦わらの船にもたしぎ達を先回りさせといた」


港の方へと視線を投げれば爆音が轟き、煙が上がっていた。
今頃みんなで応戦しているのかもしれない。

「・・・なんてことを」

ため息まじりに零せばスモーカーはフンと勝ち誇るように鼻を鳴らした。
そういう意味じゃない。別に彼らがピンチだなんて思っちゃいない。これは落胆のため息だ。


この男との出会いはローグタウン。
盗賊家業を生業にしていた私はこうして彼に追い回されることも度々だった。
海軍にとっては管轄外のことなのに、正義感の強い彼はそんなことお構いなしで追ってきた。
しかし彼がある日突然偉大なる航路へと向かった為、ぱたりと顔を合わせることもなくなった。
なのによもやこんな風に再会することになるなんて・・・


「義賊と呼ばれたお前が海賊に成り下がるとはな。何故そこまで落ちた」
「落ちたなんて言い方相応しくないわ。盗人なんて始っから落ちた存在だもの」
「よりにもよって麦わらの一味になんぞ入りやがって」


あの海賊団に入ったのはもちろん彼らの生き様が好きだったから。
ルフィに半ば強引に誘われて海賊になることを決めた。
けど、あの一味を選んだ本当の理由は・・・



ふいに煙の腕が伸びてきて私を捉えようと形を変えた。
しかし彼と同じく悪魔の実の能力者である私にそれが利くはずもなく、それは体をすり抜けていく。
チッ、と舌打ちしながら今度は体全体を煙状に変えて屋根の上まで上ってくる。彼が私と同じ場所に並んだ。

「神妙にお縄についてもらおうか」

背中から海楼石入りの大きな十手を取り出して構える彼を真っ直ぐに見据える。

「いやよ」

じりっと詰め寄ろうとする彼に、どくんと鼓動が跳ねた。

もう、強がっていられそうにない・・・



「だって・・・捕まってしまったら、あなたはまた別の人を追いかけに行くんでしょう?」



思わず口にしてしまった本心に、厳しい顔つきが驚きに変わり銜えていた葉巻が落ちそうになった。


麦わらの一味に入ることを決めたのは、彼らがスモーカーに追われる存在だったから。
今日もこの島の港に海軍船が並んでいるのを見て、みんなが顔を顰めるなかで私だけは浮き足立っていた。
もしかしたら彼に会えるかもしれない・・・と。
そんな事を思ってしまう不謹慎な自分に呆れたりするけれど、それでもいいとルフィは笑って受け入れてくれた。
きっと私はいつかこの人に捕まることを願ってしまう。
でも、今はまだダメだ。私を待っていてくれる仲間がいるうちは。


「だから、まだ捕まる訳にはいかないの」


驚きに呆然とする彼から視線をそらして港を見遣る。
そろそろログも溜まる頃だ。戻らないとみんなに心配をかけてしまう。
全く、この人が援軍をやったりしなければもう少し一緒にいられたのに・・・。

するりと体を光彩の粒子に変えればその表情に微かな焦りが見えた。
こうなってしまえば彼が私を捕らえることはもう出来ない。
光速度で移動してしまえば煙のスピードでは追いつけないから。

私の体が半分ほど消えかけたとき、おもむろに彼が嘆息した。
そしてするどい眼差しで私を射る。


「俺は必ず麦わらを叩き潰す。俺の誇りにかけてな。あの一味にいる以上てめェも俺の獲物だ。だから・・・」


ふいに言葉を濁した彼に首を傾げれば、そこには見たことのない表情をした彼がいた。




「俺以外のヤローに捕まったりするんじゃねェぞ」




今度は私が驚きに目を見張る番だった。
俺以外の野郎って・・・他の海軍の人間ってこと?それとも・・・

信じられないような心もちでスモーカーを見上げれば、不敵ににやりと口端をあげる。

それを見て、なんだか無性に笑いが込み上げてきた。


「お手並み拝見するわ」


笑いながら言えばすっと伸びてきた彼の手が、もう消えかけている私の頬をなぞった。
それにどうしようもない切なさと恋しさを覚えながら私の体は空気へと溶けて消えた。

 


終わらない追いかけっこ。
私を捕まえるのはあなたじゃなきゃ意味がないの。
だから早く捕まえてね、鈍感大佐さん?









C
atch me if you can

(貴方に捕まる日を夢見る怪盗)







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捕まったのはどっちだろうか