++ ョッパー ++



麦わら海賊団のとあるクルーが病に倒れた。
それは他人に伝染しやすいものらしく、彼女は即席の医務室となった倉庫に寝込むことになり
トナカイであり医者のチョッパー以外は面会謝絶の状態となった。
それに一番堪えたのは他でもない恋人のサンジだった。

「おいチョッパー、まださんに会っちゃいけねェのかよ」

苛立たしげにチョッパーに詰め寄るサンジは明らかに不機嫌であり
ここ数日目に見えて煙草の本数は増えていた。

「まだダメだぞ!サンジにうつったら他のクルーにも広がっちゃうんだからな」

自分だけならうつったって構いやしないと思っていたサンジだが
ナミやロビンにまでうつる可能性があると言われれば黙るほかない。
(もちろん野郎はどうでもいい)
それを学習したチョッパーはサンジに詰め寄られる度にそう繰り返していた。
しかし理解は出来てもはいそうですかと納得できるわけもなく。
イライラと落ち着かないサンジは膝や指を世話しなく貧乏ゆすりさせていた。


その時ふわりと花のような優しい香りがサンジの鼻腔をくすぐった。

それはチョッパーから香ったものであり、愛しい彼女の香りだった。
それにラブコックの特徴的な眉がぴくりと反応する。
そして。


「ぎゃーッ!何すんだサンジ!お、おれは女じゃねーぞ!?」
「ンなこた分かってんだよ。俺だって不本意だっつの!あ〜クソッ、獣臭が邪魔だ」


むんずと掴みあげられたかと思うと思い切り抱きしめてくるサンジにチョッパーは総毛立てて嫌がった。
自分はその姿すら見られないというのに、香りが移るほど彼女の側にいるチョッパーが腹立たしい程に羨ましいらしい。

トナカイとはいえ男であるチョッパーを抱きしめるサンジの姿に
その場にいたゾロは「ついに禁断症状の挙句宗旨替えか?」と器用に片眉を上げて見せ
ウソップは「チョッパー・・・ファイト〜・・・」とあっさり見捨てて合掌(サンジがやべーセンサー発動中)
ロビンは「珍しい光景ね・・・」と妖しく微笑みながら面白がっていた。

つまり全員が薄情にも傍観者を決め込んだ訳で。
いつもならばこんな時に助けてくれるのは渦中の人である病に伏したであり
チョッパーは一日も早く彼女に治ってもらわねばと涙目でコックの腕から脱出していった。





そして数日後。
の診察を終えて聴診器を外したチョッパーはもう大丈夫だと判断した。
それを聞いたもほっと表情を緩める。

「ありがとうチョッパー先生」
「チョ、チョッパー先生なんて言われても嬉しくなんかねーぞコノヤローッ!」
照れて顔を赤くしながらくねくねと踊るチョッパーは心底嬉しそうだ。

「サンジに絡まれたりして大変だったでしょう?」
「そんなこと・・・あったけど・・・」

日に日に人相の悪くなっていくサンジ(ナミ曰く「ゾロがもう一人いるみたい」)に
相当やっかみを買ったらしいチョッパーはそれを思い出して顔を暗くした。
それに苦笑しながら彼女はチョッパーをよしよしと撫でる。

「でもこれでみんなと会っても大丈夫だし、チョッパーも解放されるわね」
「・・・そ、そうだな」

が何気なく口にしたセリフにチョッパーは口ごもった。
サンジに絡まれるのは大変だったけど、別に彼女の看病から解放されたいと願っていたわけではない。
それどころかこうしていられなくなることが寂しい気すらした。


――おれは医者なのに、患者が治ったことを喜べないなんてそんなの最低だ・・・


しゅんと落ち込みながらもぶんぶん首を振って気を取り直す。

「おれ、みんなにもう入っても大丈夫だって言ってくるよッ」


そんな風に無理やり明るい声を出しながら踵を返そうとするチョッパーをの柔らかな声が引き止めた。


「そんなに焦ることないよ」
「え?で、でも、早くサンジに会いたいんじゃないのか?」
「別にすぐ会えるじゃない。こうやってチョッパーを独占できてなんだか役得した気分なの。私だけのチョッパー、みたいな。
 ふふふっ、病気で役得なんて変ね。でも出来たらもう少しだけ一緒にいてくれないかなぁ?」

優しい微笑を浮かべるにチョッパーはまたも赤くなった。
自分の気持ちを全部見透かされた上に彼女が代弁してくれたような気がしたのだ。
照れくさくなってしまったチョッパーは帽子で顔を隠すように縁をぎゅうっと引っ張ると

「ウ、うるせェな!!お、おれは独占されて嬉しいなんて思ってねーぞっ!
 別におれはどっちでもいいんだからなッ、どっちでもいいんだゾ!!」

と目尻を垂らしてにっこにっこしながらしっかり扉を閉めて彼女の側にちょこんと座りなおした。
それが「おれも一緒にいられて嬉しい」であると正確に解釈した彼女はくすくす笑いながらありがとうと告げる。
そんな彼女にやっぱり全部お見通しなんだとなとチョッパーははにかむのだった。



まだ安静にしていなければとベッドにを寝かせて、チョッパーはその顔を覗き込んだ。

「大丈夫か?寒くないか?」
「うん。あ・・・やっぱりちょっと寒いかも」
「ほんとか!?じゃあもっと掛けるものを・・・」
「ねぇチョッパー、良かったら添い寝してくれない?」
「ええ!?おれと、一緒に?」
「うん。今日だけ特別、ね?」


ニコッと笑って両手を伸ばすにいいのかなぁとどきどきしながら
チョッパーは帽子を傍らに置いてそっと彼女の隣に潜りこんだ。
抱きしめられるとそこはほかほかと温かくてとても心地いい。
そっと彼女に頭を寄せればふわりと優しい香りに包みこまれた。
頭を撫ぜられると気持ちよくてとろとろと眠気を催した。


――良い匂いだなァ・・・お母さんってこんな感じなのかなァ・・・


初めてのはずなのに何故だか懐かしいような感情が湧いてきて
それは無性に泣いてしまいたくなるほど幸せな時間だった。













 (君が望むならいくらでも独占させてあげる)




 


 

 

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コックにバレたら非常食決定