「見合いだぁ!?」
思わず食っていた飯を吹き出しそうになりながら聞き返せばは居心地悪そうにコクンと頷いた。
こいつとは付き合って彼此数年になる。
しかしながら俺が職場のヤツ等に冷やかされるのを嫌がり公にしなかったせいで
そのままこいつと付き合っていることは周囲に黙ったままだった。
別にもうバレたって構わねェ気もするが、もう今更という感じもあり惰性でここまできちまったんだが。
まさかそれがこんな形で仇になるなんて。
「受けないつもりだったんだけど、アイスバーグさんを通してのお話だから無碍にも出来なくって・・・」
申し訳なさそうにうな垂れるを見ながらどういう反応をしていいのか困った。
もちろん見合いなんてして欲しくねェし、そんなもん断っちまえって怒鳴りてェくらいだ。
けどこいつの言う通り、アイスバーグさんの顔を潰すような真似は・・・
あの人の人柄を考えりゃ、俺たちが付き合ってるって知ってればこんな話持ってきやしなかっただろう。
こいつだって所謂結婚適齢期ってやつだ。善意で良い話を持ってきてくれたに決まってる。
そもそも俺が始っから喋ってりゃあこんなことにはなんなかったんだ。
「大丈夫だよ。顔見せだけしてちゃんと断ってくるから」
ね?と無理に笑うに胸の奥がもやもやと燻ぶった。
こいつだってそんな話受けてェ訳じゃねえんだ。俺が不甲斐ねェばっかりに・・・
結局ロクなことも言えないまま妙な空気だけが残り、あっという間に日数は過ぎて見合い当日。
先方の都合で見合いは平日に執り行われる事になり
アイスバーグさんが同行することになっているらしく、あいつは早朝からガレーラに顔を出した。
その姿を見て俺は固まっちまった。
いつもと雰囲気の違う上等なワンピースはカリファが見繕ったものらしい。
短ェスカート丈にハレンチだと叫ぶことも忘れて俺は茫然と立ちつくす。
「こりゃ別嬪さんじゃのう。縁談は決まったも同然じゃな」
あんなんじゃあっという間に気に入られちまって・・・
『相手は資産家らしいから玉の輿だッポー』
資産家・・・玉の輿・・・
アイツにとっちゃ俺なんかといるよりその男と夫婦になった方が幸せなんじゃ・・・
飲むわ打つわで借金取りに追い掛け回されてるような俺といるよりアイツのためになるんじゃねェか?
後ろ向きな考えばかりが頭を巡り、ただ突っ立ってることしかできねェでいた俺の目に
アイスバーグさん達と一緒に出口へ歩いていくアイツの横顔が飛び込んできた。
・・・っ!違う、あれはアイツが無理してる時の顔だ!
あいつは人のことばかり気に掛けて自分が嫌な時も嫌って言えずに無理しちまうヤツなんだ。
それを一番知ってんのは俺のはずじゃねェか。
本当は付き合いを隠してることだって、あいつは我慢してたんじゃねえのか?
別に隠さなきゃいけねェことじゃねえのに、後ろめたい思いさせてたんじゃねェか?
くそっ!そんなことすら今の今まで気付けなかったなんて・・・
このまま行かせていいのかよ?
・・・良い訳ねえ!
「パウリー何しとるんじゃ、ワシらもそろそろ仕事に戻らんと・・・」
俺を現場に引き摺っていこうとするカクとルッチを振り払い、俺はアイツの所へ走ろうとした。
しかし見れば今にもヤガラに乗り込もうとしている。
こっからじゃ叫んでも届かねえ・・・っ
その時、角材の上に転がっていた拡張機が目に入った。
あれだ!
それを鷲掴みスイッチを入れるとキィン―と耳障りな音が消えるのも待たずに叫ぶ。
『その見合いちょっと待ったぁーーーッ!』
ヤガラに乗ろうとしていた三人が驚いたようにこちらを向いた。周りの奴らも目を剥いて俺を見ている。
視線が集まりカーッと顔に血が上るが、と目が合い俺は意を決して言葉を続けた。
『アイスバーグさん、申し訳ねェ!そいつァ俺の女なんだ!その見合い、なかったことにしてもらえねェだろうか!?』
ヤガラから下りたアイスバーグさんとカリファが呆気にとられたように俺を見る。
その横でが信じられねェって面で口元を手で覆っている。
『無理を言ってんのは百も承知だ。それでも、そいつだけは手放すわけにいかねェんだ!
償いは俺に出来ることならなんでもする!頼む、この通りだ!』
拡張機を置いて地面に頭を擦り付ける。辺りはしんと静まり返っていた。
やけに長く感じる静寂を破ったのは声を張るわけでもないのに何故か不思議と通るアイスバーグさんの声だった。
「ンマーそこまで言うからには、あいつのこれからの人生を背負っていくだけの覚悟はあるんだろうな」
こちらへと歩み寄り俺を見据えるアイスバーグさんに顔を上げてしっかりと頷いてみせる。
遠くで腰抜かして座り込んじまったに向かって俺はまた拡張機を向けた。
『今まで散々我儘言ってお前ェに苦労かけちまったけど、俺にはお前ェじゃなきゃダメなんだって、やっと気付いた。
こんな腑甲斐ねェ男だが、お前ェを想う気持ちは誰にも負けねェつもりだ。だから・・・』
声が、手が震える。口の中がいやに乾いてきやがる。
それでもありったけの想いを込めて俺は思い切り息を吸い込む。そして。
『俺とけっ キュイーン―― てくれ!』
ひゅーっと冷たい風が吹き抜ける。
アレ・・・?
『・・・ん?今なんか・・・や、だからその、一生お前のポヒーン―― 汁が食いてェ!あァ!?あんだよこれ!壊れてんのか!?
だ、だからよ、俺と同じはヒュイッ、ヒューイ――ってくれ!ってあ゛ーイライラすんなッ!!』
肝心な所がことごとくかき消されてキレる俺の後方でカク達が呆れ声でぼやくのが聞こえた。
「このタイミングでハウリングとは・・・なんちゅう決まらん男じゃ」
『プロポーズで滑るなんて最悪だッポー。もう死んだ方が良いッポー』
うっせェよ!あーッちきしょー!!
そんなどっちらけになった空気を壊したのは、他でもないの笑い声だった。
ぶはっと噴出したアイツは可笑しくて堪らないというように笑い出し、仕舞いにゃ涙流して笑い転げた。
それに今度は俺がぽかんと立ち竦む。それを皮切りに周囲の職人達も大笑いしだした。
やがて笑い収めたが涙を拭きながらアイスバーグさんに近づくとしゃんと向き直り。
「アイスバーグさんごめんなさい。
こんな抜けた人には私がついていてあげなくちゃならないから、お見合いの話お断りさせてください」
深々と頭を下げたを俺は呆然と見つめた。
アイスバーグさんが穏やかな表情でそれに頷く。
周囲の笑い声はやがて歓声に変わり祝福する声があちこちから上がった。
顔を上げたがにっこりと俺に微笑み、それでようやく実感が湧いてきた俺は嬉しさより照れくささでいっぱいになり
それを隠すように囃し立てる奴らを怒鳴る他なかった。
―――それから数日後。
「なぁキュイーンそこの鉋取ってくれよ」
『さっきまたキュイーンの借金取りが来てたっポー』
「キュイーン、今日の査定のことなんじゃが・・・」
〜〜〜〜〜〜っっ!!
「っ誰がキュイーンだ!!」
「なんじゃキュイーンそう怒るな」
『そうだッポー、そんなんじゃすぐポピーンに捨てられるッポー』
「うっせェ!!」
コイツ等散々人をおちょくりやがって!
ぶち切れた俺がロープアクションでシメてやろうとした時、後ろからの楽しげな声がそれを止めた。
「もー職長達ってば、あんまりうちの旦那さまをイジめないでやってくださいよー?」
「だっ、旦那とか言うんじゃねェ!」
赤面して怒鳴る俺にはにっこりと笑って弁当箱を差し出す。
「はい、キュイーンのお弁当」
「おまっ、お前ェまでおちょくる気かよっ!?」
「ちゃんと残さず食べてねポピーン」
「いい加減にしろっ!!」
俺の言葉を全て無視しては軽やかに笑って事務室へと戻って行った。
そんな俺たちをカク達がげらげら笑う。
「ありゃ絶対にポロポーズでハウリングしたの根に持っておるのう」
『いい気味だッポー。これで死ぬまで尻に敷かれること請け合いだッポー』
「やかましいっ!!」
弁当箱を開けた俺の目に飛び込んできたのは
完全に嫌がらせとしか思えない白飯の上に描かれたハート型の鮭フレーク。
それをカクやルッチ達に散々からかわれ怒鳴り返しながら
やっぱり公表するんじゃなかったと俺は赤面して飯をかきこんだ・・・
長すぎた春の終止符
(それはきっと幸せの幕開け・・・・・・のはず)
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いっつもこんな扱いでごめんなパウリー・・・(半笑い)