Feel dizzy−



 ゆらゆら ゆらゆら
    ゆらゆら ゆらゆら


きもちー あったかくて ふわふわふわふわ体が漂う。
心地よくて幸せで まさに夢見心地。



あれ でもここって・・・ ん?水音?



うっとりと微睡んでいた私はちゃぷんという水音に意識を覚醒させられた。
ぼやーとした頭に飛び込んできたのはどうやらお風呂に入っているらしい私の体、と、それに巻きついている、腕。
明らかに私のものではない、しかもがっちりとしたそれに一気に現実に引き戻される。
引き戻されたというより叩き落されたと言った方が良いかもしれない。
だって裸の体に見知らぬ腕。明らかに男の腕。男・・・男!?
そういえばと今更ながらに背中に当たる固めの感触が逞しい胸板であることに気づいて一気に血の気が下がる。


「ンマー、気がついたか?」


パニック状態の私は頭上から降ってきた声に勢いよく振り返り、硬直した。
僅かに濡れた青髪はそれでも特徴的にくるりと巻いた前髪を崩してはおらず
薄い唇は暖かなお湯に浸かって尚血色の悪い色をしており、口周りの髭はいつもより少しだけ伸びている。
すっと通った鼻筋、喉仏の目立つ男らしい太い首、そして私の視線は最後にその閑静な瞳に行き着いた。


ありえない人が、目の前に居る。


この状況だけでも十分にありえないのに、え、だって、この人、いやこの方は・・・


凝視したまま酸欠の金魚のようにぱくぱくと口を動かし言葉を失っていると、
その人ははにかむように小さく笑った。



「ンマーなんだ、年甲斐も無く・・・照れるな」



・・・えぇぇぇっ!!?ちょ、待っ、はいぃ!?
誰かこの状況を説明して!なんで私この人と風呂入ってんの!?

っていうかこの人うちの社長なんですけどー!
その上ここの市長なんですけどー!
夢だ!夢に違いない!誰か夢って言って!!

あぁぁ・・・っ、でもお湯温かいし、触れてる感触が思い切り生々しいし、映像が鮮明すぎるし、どう見ても現実。
じゃあやっぱりこの状況って・・・

・・・・・・そうゆう、こと?


ガンガンと頭を殴られるような頭痛を感じ始めた私をンマーどうした?と社長が覗き込んでくる。
思わずごくんと唾を飲み込み、私は意を決して恐る恐る口を開いた。

「あの、しゃ、社長、この状況はその・・・」

口ごもりながら話す私に社長がくっと眉根を寄せて険しい顔をした。
や、やっぱ失礼だった?覚えてないとか・・・そうだよね、最悪だよね・・・でもでも本当に記憶がないんだもの!
俯く私に社長はお前なァ、と呆れたような声を出した。

「この状況で社長はねェだろう」

その言葉にへ?と間抜けに口を開いて顔を上げるとなにやら面白くなさそうな表情。
あ、えっと、そうか、「社長」じゃいかにも社員と風呂入ってますみたいな感じだもんね。
セクハラ〜みたいな?あ、でも同意なら・・・っていうかこれ同意だったのか!?
思考回路ぐっちゃぐちゃのまま、とりあえず私は言い直してみる。

「あの、アイスバーグさん・・・」
「呼び捨てでいい」
「む、無茶言わないでください!」
「・・・ンマーなら仕方ねェが、なんだ?」
「ええと、私、その、アイスバーグさんと・・・」

もじもじとしたまま見上げて言うと、ふっとアイスバーグさんが顔を逸らした。
そしてその大きな手で口元を隠すように覆う。
節の太い指の間から覗く頬は先ほどより赤らんでいて、どうもそれは湯のせいではないようで・・・・
その様子を見た途端、私の頬もつられるように熱を持った。


・・・っちょ、誰か見てこれェ!社長照れたんですけど!?頬染めてらっしゃるんですけどぉ〜!?
あわわわ・・・これってつまりそういうことなんだよね?
でも信じられないよ・・・“あの”アイスバーグさんだよ!?


胸中で一人大騒ぎしていると、ふっと下半身に違和感が走った。
鈍い痛みに一瞬顔が歪んで、けどその意味が分かった途端顔が爆発しそうになる。

これは、もう間違いない。アイスバーグさんと繋がった証拠だ。

実感するとじわじわと昨夜の記憶が蘇ってきた。
遅くまで仕事して、終わったらアイスバーグさんに食事に誘われて、緊張を紛らわそうとお酒飲みまくって
それから先はあんまり覚えてないけど、アイスバーグさんの家に来たところだけはぼんやりと・・・

一気に押し寄せてきた後悔の波に眩暈がする。
私だっていい大人だし、それなりに経験もある。
こんな風にお酒に飲まれて一夜限りの、みたいのは初めてだけど。
ああでもどうしてその相手がアイスバーグさんなの?いっそ行きずりの見知らぬ男の方がよっぽどマシだったよ・・・
私どう思われてるんだろう?軽い女だと思われてんのかな?酔いつぶれて醜態曝して、ああ、最低っ!
職場で顔合わせる時だってあるのにこれからどんな顔して会えばいいの?


じわん、と溢れてきた涙に視界が霞む。
とにかく謝らなくちゃ。子供じゃないんだから、ちゃんと割り切って、忘れなくちゃ。
ぐっと唇を噛むとふいに頭に重みを感じた。


「ンマーどうした?のぼせたか?」


優しい言葉にいっそう泣きそうになったけど、必死で堪えて首を振る。

「あ・・・の・・・」
「あのな、

私の言葉をアイスバーグさんの声が遮った。
穏やかだけれど力強い声と真摯な眼差しが私を捕らえる。



「ンマー順番は違っちまったが・・・大事にするからな」



信じられない台詞に目を瞠って見上げれば優しげな微笑を向けられて。
涙腺が決壊した。
嗚咽が漏れないように口を押さえながらぶんぶんと首を横に振る。


「そんな、無理なんてしないでください・・・私、大丈夫ですから・・・っ」
「無理?」


アイスバーグさんの優しさに付け込む訳にはいかない。
責任なんて感じてもらう必要なんてないと言葉を途切れさせながら呟けば、呆れたようなため息が降ってきた。

「ンマー、お前ェなんか勘違いしてねェか?」
「勘・・・違い・・・?」
「俺は勢いだけでお前と関係を持った訳じゃねェぞ?というか言っただろうが、お前ェのことが好きだって」


好き・・・?
アイスバーグさんが?私のことを?好き??
信じられなくてまじまじと見つめるとあんまり見るなと小突かれた。


「言ったって・・・いつですか?」
「いつって、お前ェを抱いてる時に・・・」

抱くという言葉にああやっぱり抱かれたんだと改めて実感がわいて顔が火照る。
アイスバーグさんも気まずげに頭を掻いた。

「ンマーあれだな、ああいう時に言うもんじゃあなかったな」

スマン、と謝られて慌てて首を振る。
でもまだ信じられない気持ちでいっぱいだ。
だってあのアイスバーグさんだよ?
ずっと憧れてた・・・ずっとずっと慕ってた人が、私のこと好きだなんて。

未だまとまらない思考を巡らせているとアイスバーグさんに両肩を掴まれた。
真正面に大好きな人の顔。



「俺のもんになってくれるか?」



夢みたいな台詞に零れた涙が湯船に落ちて波紋を広げる。
大きく頷くと広い胸に抱き寄せられた。


そして大きな大きなため息。


「全くお前ェは・・・大丈夫ですからなんて言うから遠まわしに断られたのかと焦ったぞ」
「ええ!?アイスバーグさんが・・・ですか?」
「お前が思ってるより俺は気が小せェんだ」


苦笑するアイスバーグさんがなんだか可愛らしく思えて、気持ちが緩む。
甘えてしまってもいいだろうかなんて図に乗り始めて、恐る恐る見上げた。


「あの・・・私昨日のこと覚えてなくて・・・」
「ん?ああ、かなり飲んでたからな」
「あの、だからその・・・また、抱いて下さいませんか・・・?」


目を丸くいしたアイスバーグさんがやがて呆れたように頭を抱えた。
やっぱりはしたなかったかと慌てて否定しようとした時、下半身に硬いものが当たった。
その正体が分かって顔が熱くなる。
男の人って大変だわなんて人事のように思いながら、これはどう解釈すればいいんだろうなんて狼狽。

やがてアイスバーグさんの無骨な手が私の顎を持ち上げた。


「ンマー昨夜も思ったが、お前誘うのが上手いな」


え!?私から誘ったんですか!!?
そんな疑問を口にする前に唇を封じられてしまって。
同時に伸びてきた手に焦る。


「あの!ここでじゃなくって!」
「こんな状況で誘ったお前が悪い」



ええ〜!?と慌てふためく私に薄い唇が妖艶に笑って。
今度は忘れるなよと囁いた。












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 セクハラ社長万歳