−一万分の一で良いから−
「お妙さぁーーーっん!」
「しつこいんだよこのゴリラ野郎がぁぁぁ!!」
鮮やかに決まった右ストレート。
血しぶきを上げる近藤さんを見ながら、ほんとよくやるよとため息を吐いた。
女が去ったあと、完全に伸びちまってる近藤さんに近寄る陰がひとつ。
よく見知ったそれは、真選組の女中であるだった。
「大丈夫ですか近藤さん?」
心底心配そうに駆け寄り、血を吹いた部分にそっと清潔そうなハンカチをのせた。
近藤さんはあれくらいでどうにかなるようなタマじゃねェし、第一そうなってんのも自業自得だ。
そんな近藤さんを本気で心配するのは、今はもうくらいのもんだろう。
よろよろと起き上がった近藤さんがに笑いかけて礼を言った。
無事だと分かるとほっと表情を緩める。
あぁ、本当に心配してんだなと今更ながらに思った。
「あまり無茶なさらないでくださいね?」
「はっはっは!これくらいなんてことないさ。これもお妙さんの愛の強さだからな!」
「はいはい。ほどほどに頑張ってくださいな」
オイオイ、これ以上煽るんじゃねェよ・・・。
「ありがとう!そう言ってくれるのはお前だけだっ!いよぉしッもう一押しして来るぞ!」
ほらみろ、調子のっちまったじゃねーか。
勢いづいて再びストーカーしに行った近藤さんをが笑顔で見送る。
何故だか、複雑な心もちになった。
「随分近藤さんに協力的じゃねェか」
「土方さん!」
声を掛ければは驚いたように顔を上げた。
「あんまりストーカーの応援されるとこっちが困るんだよな。これ以上エスカレートしたら新撰組の存続に関わるしよ」
「あ、ははっ・・・すみません、出すぎた真似を・・・」
萎縮するに気まずさを感じる。
別にそこまで咎めることでもない。俺のほうこそ言い過ぎだ。これじゃあまるでムキになってるみてェだ。
「・・・近藤さんに惚れてんのか?」
「えぇ!?違いますよ!」
首を振るコイツに小さく安堵する。
・・・は?安堵?
「ただ・・・近藤さん見てると応援したくなっちゃうんです。
確かにやりすぎな所はあるし、お妙さん大変だなと思う時もあるんですけど。
でも、好きな人にあんな風に真っ直ぐ気持ちを伝えられるってすごいなぁって。
だって怖いじゃないですか。拒絶されたらどうしようとか。だから、尊敬・・・というか、憧れてるんです。」
「・・・好きなヤツでもいんのか?」
「いいえ、今はいません。でも、いつかそういう相手ができたら
近藤さんの十分の・・・いえ、百分の一でも勇気があればなぁなんて。あ、すみません。変なこと言って・・・」
「いや、聞いたのはこっちだ」
その“いつか”の相手が俺であればいい、だなんて。
なんで思っちまったんだろう。
あぁ、そうか。そういうことか。
自分の胸に蔓延っていたものの正体に気づき合点がいくと、それはすとん、と胸に落ち着いた。
コイツが近藤さんに甲斐甲斐しく世話を焼くのが気に入らねェのも
そのせいで妙に突っかかっちまうのも、好きなヤツがいんのかとか余計なことが気になっちまうのも、きっと、全部
「・・・確かに近藤さんはすげェな」
そう言うとは嬉しそうに頷いた。
その笑顔に心拍数が上がる。それはまるで俺の想いを肯定するかのように。
惚れた女を目の前にして改めてあの人の凄さが分かった。
俺には出来そうにねェ。あんな風に真っ直ぐ気持ちを伝えるなんざ。
目の前にいるだけで怖気づいちまいそうだ。
やっぱアンタすげェよ、近藤さん。
ま、それでもやりすぎには違いねェがな。
の笑顔を見ながら思う。
俺にもあればいい。近藤さんの百分の・・・いや、一万分の一でいいから、と。
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一万分の一くらいで人並みになる気がする