−jack-o'-lantern−
「ハロウィンやりましょう!」
そう言いだしたのはお祭り好きの船長ではなく、むしろ控えめでそういったことは苦手とするだった。
そのことにクルー達はしばし驚きを見せたが、もとよりそんな楽しげなことを逃すはずもなく、ほぼ満場一致で決定した。
辿り着いたばかりの島では盛大なハロウィン祭が行なわれており、そこへ麦わら海賊団も参加しようと言う訳だ。
女部屋でそれぞれの衣裳に着替えていると、ナミがに尋ねてきた。
「がこういうの率先して提案するなんて珍しいわねぇ。仮装とか恥ずかしがるかと思ったのに」
「いや、ただなんとなく言ってみただけで・・・それに恥ずかしいものは恥ずかしいよ・・・」
実際に衣裳を前にすると後悔の念が込み上げてきたは、衣裳の交換をお願いしようかと思ったが
とんがり帽子を被った魔女の短いスカートを見て思い止まった。
「なんとなく・・・にしては、随分意気込んでいたようだけれど?」
「そ、そんなことないよ」
妖艶な笑みを浮かべる死神に慌てて首を振るが、何故だかすべて見透かされているような気がした。
死神の衣裳はロングスカートだけれど、体のラインがはっきりと分かるデザインでかなり深めのスリットが入っている。
何より身長が違うのだから交換は難しく、それに万更でもなさそうに鎌を構えるロビンに言いだせるはずもなかった。
しかし発案者である自分が今更着ないと言う訳にもいかず、は意を決して黒い羽のついたワンピースに袖を通した。
三人でラウンジに行くと、目をハートにしたドラキュラ伯爵が美辞麗句を並べたてて迎え入れてくれた。
テーブルでは大食漢のゾンビが縦横無尽に腕を伸ばしてハロウィンのお菓子をがつがつ口に詰め込んでいる。
それに負けじと小さなトナカイも食い付いているが、顔の両脇に付けられた犬のぬいぐるみの頭がどうにも邪魔そうだった。
「スリラーバークのケルベロスは一匹キツネだったが、うちのは一匹タヌキだな」
「タヌキじゃねェ!トナカイだ!!」
長身のフランケンシュタインに噛み付くケルベロスの可愛らしさにはつい頬を緩める。
やがてラウンジのドアが開き、漆黒の正装に身を包んだ白骨の紳士が入ってきた。
いつもは肋骨が見えているブルックの体には包帯が巻かれているが、その姿はほぼいつも通りだった。
「おめェは仮装いらねェな」
「いやアンタも十分そのまんまよフランキー?」
「ヨホホホ!私本物のガイコツ人間ですからね! オヤオヤ、よく見れば実に麗しきお嬢さん方。
んビューーーティフォーーー!パンツ見せて貰ってもよろしいですか?」
「見せるかッ!」
ナミに靴をぶつけられたブルックはガシャリと崩れ落ちた。
「オヤオヤ手厳シィー!スカルジョークですよ!ヨホホホ!」
「食ったー!いよぉーし、次は祭り行って食うぞぉー!トリックオアトリートォ!!」
「まだ食う気かよッ!」
ラウンジを飛び出していったゾンビの船長に倣い、他のクルー達も下船し始める。
は思い切ってブルックに声をかけた。
「ブルックさん、よろしければ一緒に街に行きませんか?」
突然の誘いにブルックは目を丸くしたが(実際には目はないのだが)、恭しくその申し出を受け入れた。
甲板を通りかかると長い鼻を穴から突き出したシーツオバケが眠っている剣士にイタズラをしていた。
大きな耳と尻尾とご丁寧に肉球つき手袋まではめられた姿はまさに狼男。
ずっと眠りっぱなしでハロウィン参加の可否すら知らない彼は、きっと起きたらびっくりするだろう。
小さく笑いながらはブルックと共に街へと向かっていった。
街は想像以上に賑やかだった。
オレンジと黒を基調にした飾り付けが街を彩り、いたる所に様々な顔を彫られたカボチャが置かれている。
そこには思い思いの仮装をした人々が溢れかえり、誰も彼もファンシーな空間を楽しんでいた。
二人もその中へと混ざっていく。今日ばかりは誰もブルックを訝しがる者はいなかった。
それこそががハロウィン参加を提案した本当の理由だった。
異形の者となった彼は、当然人前に出れば気味悪がられたり怯えられたりする。
けれどみんなが仮装しているお祭りの中であれば、ブルックも堂々と楽しめるのではないかと思ったのだった。
その期待通りブルックのはしゃぎようはすごいものだった。
屋台で買ったパンプキンスイーツに齧りつき、どうすればそんなに汚れるのかというほど顔中にクリームをつけたり
イベントやゲームに参加して子供のように喜んだり、野外オーケストラに飛び入り参加して見事な演奏をしてみせたり・・・。
はじめはコルセット風の露出度の高いワンピースで街を歩くことに恥ずかしさを覚えていたも
心の底から楽しそうなブルックを見ているうちにそんなことも忘れて一緒にハロウィンを満喫したのだった。
帰り道、二人は仲良く歩きながら今日のことを話した。
「ブルックさんは何が一番楽しかったですか?やっぱりパンプキンのお菓子の屋台ですか?
あのカボチャ形のバルーンアートもすごかったし・・・あ!ジャック・オ・ランタンの刳り貫きも・・・」
いまだ興奮冷めやらぬ様子のを微笑ましげに見守りながら、ブルックは優しい声で答えた。
「私は、さんの楽しそうな顔を見るのが一番楽しかったです。ヨホホホ!」
陽気に笑うガイコツ紳士には驚いたように顔を上げた。
「え!?わ、私ですか・・・?」
聞き返したの言葉をはぐらかすかのようにブルックは、んっんん〜♪と鼻唄を歌っている。
そんな・・・他にも楽しいものいっぱいあったのに、私の楽しそうな顔が一番だなんて・・・
は夕日が自分達を照らしていることを感謝した。赤くなった頬の言い訳にはもってこいだ。
黙ってしまったに、ブルックが突然話し始めた。
「さんは“ジャック・オ・ランタン”の話はご存知ですか?」
「いえ、何かあるんですか?」
「あれはですね、ある哀れな男に与えられた唯一の明かりだったのだそうですよ」
「哀れな男・・・ですか?」
「その昔、ある口の巧い卑怯な男が死者の門の番人を騙して生き返り、その後も悪行を繰り返したのだそうです。
そのせいで再び死後の世界に訪れた際、天国へも地獄へも行くことが出来なくなり
男は暗い闇の中を漂うことを強いられました。それを哀れんだ悪魔が男に明かりを与えた。
それが“ジャック・オ・ランタン”の起源という説があるそうです。
一度死んで生き返り、暗い闇を漂っただなんて私みたいですね!ヨホホホホ!」
かなり悲惨な話を陽気に笑って語るブルックに、はどう反応していいか分からず困った。
「でも・・・明かりを与えるなんて、随分優しい悪魔もいたものですね」
「ヨホホ!そう、まるであなたのようだと思って話したのですよ!」
そう言われては自分の格好を思い出し赤くなった。
「け、けど、ブルックさんは卑怯な人間なんかじゃないですし、もう闇を漂うこともありませんよ!」
「ヨホホホ、あなたは本当に優しい方だ・・・。確かに闇の世界は辛く寂しいものでした。
しかし、あなたのような可愛らしい小悪魔さんと一緒ならば、暗闇を歩くのもなかなか良いものかもしれませんね」
「え・・・?」
「ヨホホホ〜♪ヨーホホーホー♪ ビンクスの酒を〜届けにゆくよ〜♪」
突然歌いだしたブルックに、また歌で誤魔化された気がする・・・と腑に落ちなく思いつつ
それでもの表情は楽しげだった。
自分には大した事など出来ないけれど、それでもこの優しいガイコツの心に闇が差した時には
それをほんの少しでも照らす存在になれたらいいと、心の中でそっと祈った。
辺りは闇が広がり始め、小さな星たちが瞬きだしていた。
歌う白骨の紳士を月明かりがスポットライトのように照らしていた。
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ハロウィンはブルックで書くしかないと思って