−幻想のもり−


新しくこの船の仲間に加わったのは異形の音楽家。

とてもユニークで気のいい彼の人間性はすごく素敵だと思うのだけど
困ったことに私は大の怖がり。
そのせいで、ガイコツ姿の彼に慣れるまでに長い時間を要してしまった。

夜、船の中を移動している時にボーンッと鉢合わせてしまって何度絶叫したことか。
そのせいでクルー達は敵襲かと騒ぎ
毎度の如くフェミニストなサンジ君が、レディを怖がらせるンじゃねェ!
といってブルックを蹴り飛ばした。
私はその度に骨がばらばらになってしまうんじゃないかと本気で心配した。
そして失礼なことを繰り返す自分が申し訳なくてならなかった。


しかし時間の経過と共に、ようやく私もその姿に免疫がついてきた。
それどころか・・・最近の興味の対象はもっぱら彼で。
ついつい目で追ってしまうという変わりよう。


今日も賑やかな方へ目を向けると、ご機嫌な船長と可愛い船医にねだられ
見事なバイオリンの腕を披露していた。
その音色は陽気で軽快で、そしてとても温かい。
まるでブルックみたいだと思った。


・・・なんで私こんなに彼が気になるんだろう。


会うたびに悲鳴を上げられていい気なんてするはずないのに
彼はいつだってヨホホと笑って許してくれた。
私もオバケ怖いですから、と。
(ガイコツがオバケ怖いとかギャグでしかないけど)
そんな風に彼の優しさに触れたり
遠い友との約束を果たそうとする男気と思いやり深さに心を打たれたり
想像もつかないほどの長い孤独を経験したにも関わらず
卑屈になることもなく明るいその人柄に尊敬の念を抱いたり
ブルックという人を知れば知るほど私は彼に嵌まっていった。



ルフィ達が去った後、ブルックのもとへと近づいた。

「すごく素敵な演奏だった!何かお礼をしたいくらい」
「ヨホホホ!麗しいお嬢さんにそう言って頂けるだけで光栄ですよ!お礼はパンツ見せ・・・」

言いかけたブルックの頭にどこからか飛んできた靴が強打した。

「やめんか!このセクハラガイコツ!!」
ナミが鬼のような形相で睨んでいる。

「ヨホホホホ!手厳シィー!!スカルジョークですよ!」

・・・うーん、つかめない人だなぁ・・・


ブルックはご機嫌なまま芝生の上に座りバイオリンの手入れを始めた。

「ブルック、邪魔じゃなければ見ていてもいい?」
「ヨホホ、何も面白いことなどないですよ?」
「そんなことないよ、ダメかな?」
「とんでもない、それではどうぞこちらへ」

そういうと胸からハンカチーフを取り出し、芝生の上へと広げた。
ふふふっ、こういうところは紳士だなぁ。


じいっと向ける視線の先は、ついついバイオリンよりブルックへと向けられる。
表情っていうのは顔の筋肉が作り出すものだよねぇ・・・。
この人にはそんなものないはずなのにどうしてこんなに表情豊かなんだろう?
そんなことを考えていると、ふいにある思いつきが芽生えてしまい
無意識的に私はブルックへ手を伸ばしていた。


・・・さん?どう、されたんですか・・・?」
「え?・・・あ!ご、ごめん!!」


気づけば私はブルックの手を握ってしまっていた。
骨だけの彼でも表情があるなら、その手首には脈があり
体に触れれば体温が感じられるんじゃないかと
そんな期待が私を勝手に動かしたのだった。

握りしめたそれはやはり硬くて白い骨だったけれど
何故か温かさを感じた気がした。
それは私の願望が錯覚させたことだったのだろうか。

しかしいくらガイコツとはいえ許可もなく殿方の手を握ってしまうのはいかがなものか。
恥ずかしさで紅潮した頬を手で覆いながらブルックの方を見上げれば
心なしかブルックも赤くなっている気がした。
これも私の気のせいなのかな?

それでもなんだか嬉しくなってしまった私は
「ブルックは、とても温かいのね」
ふふふっと笑いかけながらブルックに告げた。
照れくさくてすぐその場から去ってしまったけれど
感じたブルックの体温だけはいつまでも私の手のひらに残り続けていた。





が去った後の甲板で、ブルックはがらがらと崩れ落ちた。
それこそ肋骨だか尾骨だか背骨だか判らないほどにがらがらと。

「び、び、ビックリしました・・・もう胸がどきどきどきどき、と。まぁ心臓なんてないんですけれども!」

―――まさかあんなに若いお嬢さんにトキメキを覚えてしまうなんて・・・

何十年ぶりかも分からないほどの高揚感は
とうになくなったはずの鼓動の在り処をブルックに伝えていた。




そしてもまた物思いに耽る。

―――ゴムでもエロでも魔獣でも嘘つきでも恋愛は成り立つし、
    半分サイボーグでもなんとかいける気がする。
    まぁトナカイは人間の女に興味がないみたいだから除外するとしても・・・

「ガイコツとの恋愛って、どうすればいいのかしら・・・」

おそらくこれまで誰一人として導き出したことのないであろう議題を前に はひとり途方にくれるのだった。





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 あんなに表情豊かなガイコツ他にいない。