[PR] 母の日 A song for you


epilogue−





「じゃあ、その海賊の音楽家と歌姫は離れ離れになっちゃったのか?」


幼く可愛らしい声に、感慨に耽っていたブルックははっとして顔を上げた。

ちょこんと椅子に座って小首を傾げているのはぬいぐるみのように愛らしい風貌をしたトナカイの船医。
終始話に聞き入っていた船医は最後まで聞くと不安げな面持ちでそう尋ねた。

「ええ、そうですね・・・」
「じゃあ恋は実らなかったんだな・・・」

ハッピーエンドを期待していたらしい船医はしょんぼりとしょげた。
ピンクの帽子を乗せた頭を垂らす船医にガイコツの紳士が笑いかける。

「ヨホホホ!実はですね、この話には後日談があるのですよ・・・」
「ごじつだん?」














数日前、麦わら一味の船はとある島へと上陸した。
白亜の石畳が美しい洗練された雰囲気の町並みは都会的で、そこへ船員達は思い思いに散っていった。
ブルックは特にすることもなく海沿いをぶらぶらと散策。
鼻唄を歌いながら手持ち無沙汰にステッキをくるくると回していた。


その時、どこからか軽やかな旋律が聴こえてきた。


ブルックは耳を疑った。けれどそれは間違いなく、あの旋律だった。
音のする方へとブルックは走り出す。
町の中心へと近づいた頃、音は止んでしまった。
必死で辺りを見回しながら歩いていくと、やがてブルックは広場へと辿り着いた。
鮮やかな草花に彩られた花壇に囲まれたそこでは、子供達が駆け回り、大人たちは銘々に穏やかな時間を過ごしている。





その中心に、彼女が立っていた。





あの日よりも少し大人びた風貌ではあるが、それは見紛う事なき彼女の姿だった。
彼女は凛と背を伸ばして柔らかな表情でそこに立っている。

信じられない気持ちでブルックはふらふらと歩み寄った。
目の前まで歩み寄り、彼女の手前にある大理石に足を乗せた瞬間、カチリとスイッチが入ったような音がした。


途端にあの旋律が流れ出す。


そこには彼女の歌声が乗り、まるで目の前の彼女が歌っているかのようだった。
輝かしい純白の銅像はブルックを見下ろして優しく笑いかけている。
その目の前でブルックは立っていることに耐え切れず跪いた。



・・・」



あの日彼女に渡した旋律には、その時にはなかったはずの歌詞がついていた。



それは時を越えて愛しい人へと想いを届ける恋の歌。



彼女は信じていたのだ。
例えどんなに時間が経っても語り継がれる曲ならば、現世へと再び蘇ったブルックに必ず届くはずだと。
たとえ世界の端と端とに別れてしまったとしても、歌っている限りこの想いは魂へと届くはずだと。
そうして彼女は届けたのだ、ブルックへの想いを。彼から捧げられた旋律にのせて。


「ああ・・・なんという・・・っ」


ブルックは両手で顔を覆い、とうに目など無くした眼孔から涙を溢れさせた。
彼女の声が、想いが、時を越えて胸に染み渡る。



愛に満ちた歌声は柔らかな日差しと共に広場を満たしていた。


















「おーいチョッパー!雨止んだぞー!!」

陽気な船長の声が甲板から船医を呼ぶ。


「ヨホホホ!ルフィさんが呼んでらっしゃるようですよ」
「あ、うん。分かったー!今行くよー!」


船長へと声を返し、船医は話を聞かせてくれたブルックへと礼を言うとちょこちょこと愛らしい蹄の音を立てて出口へ向かった。
扉を開けたチョッパーがふいに振り返る。


「なぁブルック。その音楽家は・・・今、幸せなのかな?」


無垢な瞳で問う小さなトナカイにブルックは優しく笑いかけた。


「ええ、もちろんですとも!」
「・・・そっか!エッエッエッ」

ブルックの言葉に嬉しげに笑ってチョッパーはてくてくと駆けて行った。


可愛らしい船医の後姿を見送り、ブルックは傍らに置いていたトーンダイアルを大切そうに手に取った。
音を蓄え再生できる貝。それには先日上陸した島で録音したばかりの彼女の歌声が入っていた。
その貝とバイオリンを携えてラウンジを後にしたブルックは
骨身の軽さでもってサニー号のメインマストの上へスタンと降り立った。



あとで聞いた話では、は歌い手として大成し、グランドラインへと航海してきたらしい。
恐らくブルック達を追ってきたのだろうが、危険なグランドラインでの航海はやはり難しく
最終的にはあの島に腰を据え、天寿を全うするまで様々な楽曲を生み出したそうだ。
歌姫として人気を博したは亡き後も愛され続け、彼女を偲んだ島民達によって像が立てられたという。
いくつもの名曲を生み出した彼女だが、ブルックの捧げたあの曲を何よりも愛し、そして今でもああして語り継がれているのだと。



手の中のトーンダイアルをしみじみと眺めながらブルックは呟く。

「また一つ、ラブーンにお土産が増えましたね。ヨホホホホ」

ブルックの頭蓋骨の中には肌身離さず持っているもう一つのトーンダイアルがあった。
グランドラインへは連れて行けないと双子岬で別れ、必ずまた戻ると再会を約束したラブーン。
しかし一味は武器に毒を仕込んだ海賊との交戦により全滅させられた。
致命傷を負った仲間達と共に最期の瞬間にラブーンへと唄ったメッセージ。
今は生きて再会を果たしこの唄声を届ける為の旅路の途中。

「ラブーンはの歌が好きだったからきっと喜ぶでしょう」

そしてきっと、も喜ぶはずだ。


ああ、しかし、まさか蘇った私がこんな姿だなんて彼女は想像もしていないだろうな。
ガイコツ姿になった私を見たら、彼女はなんて言うだろう。怖がるだろうか?気味悪がるだろうか?


「・・・ヨホホ!きっと笑いますね」


きっと彼女は言うだろう。ガイコツだっていいじゃないかと。だって歌が歌えて、楽器が弾けるのだから。それで十分だと。
何よりも音楽を愛していた彼女はきっとそう言ってあの愛らしい笑顔を見せてくれるのだろう。



の笑顔を思い出しながらブルックはトーンダイアルのスイッチを入れてマストの上に置いた。
貝から奏でられる旋律に合わせてバイオリンを響かせる。
あの頃よりも深みを増した彼女の歌声がブルックのバイオリンと共に歌う。


それはまるで、永遠を願ったあの日のように。


その旋律に惹かれて今の仲間達が顔を上げた。
太陽の光に眩しそうに目を細めながらも、その表情は晴れやかで優しい。



、私にはまたこんなに素敵な仲間が出来ましたよ。
そこから見えますか?見守ってくれていますか?別れた仲間達と共に・・・



切なくも幸福な気持ちになりながら抜けるような空へと音色を響かせる。
彼女は歌い続け、必ずその歌を届けるという約束を果たしてくれた。
時を越えても必ず私の魂へと届くはずだと信じてくれていた。


ならば私も届けよう、この音色をあなたのもとへと―――






美しき旋律は天高く、どこまでもどこまでも響き渡っていくのだった。













                                       − fin−







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 ここまでお付き合いくださってありがとうございました!
 2008.5.1 きえ