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ついにが船を降りる日になり、甲板は見送る船員達でいっぱいになった。しかし。
「ブルックのやつ、来ねェなァ・・・」
顔を曇らせて呟くヨーキには心苦しそうに俯く。
あの日以降、ブルックは部屋に閉じこもったきり出てこなくなった。
「俺が不甲斐無ェばっかりに、あいつに嫌な役やらしちまった。なぁ、分かってやってくれ。あいつだって本当は・・・」
言いかけたヨーキにが首を振る。
「分かってる。私、ブルックのこと恨んだりしてないよ。悪いのは全部甘えてた私だもの」
「バカ、んなことねェよ。少なくとも俺はお前がこの船に残りたいと思ってくれたと知って、嬉しかった」
「ヨーキ船長・・・」
涙を浮かべたをヨーキが抱きしめる。
「私、みんなのこと忘れない・・・絶対、絶対に」
「おう・・・」
別れの言葉を交わしているうちに、が乗る船の船首が遠くの方に見えてきた。
ヨーキがの背中をぽんぽんと叩く。
「ほら、迎えが来たぞ」
「・・・うん」
ブルックが姿を見せぬまま別れてしまうことに、その場にいる誰もが気を落としていた。
その時。船室の扉が勢いよく開いた。
「待って!待って下さい!」
「ブルック!」
ばたばたと船室から駆けてきたブルックはその手に山のような紙束を抱えている。
それを船員達に渡し、そのうちの一部を持ってブルックはのもとへと駆け寄った。
「遅くなってしまい申し訳ありません。これを、作っていました」
息を切らしたブルックの顔には疲労の色が浮かび、その顎には無精髭が僅かに伸びている。
それでもその表情には真摯な熱意が浮かんでいた。
はブルックの手からその紙を受け取って視線を落とす。
それは楽譜だった。
五線の上の音符を目で追いながら、徐々には体中の血液が覚醒していくのを感じた。
体が熱くなり、楽譜を持つ手が震える。
「ブルック・・・これは・・・」
「これは、・・・あなたのことを想って作った曲です」
「私、を・・・?」
目を瞠るにブルックが切なそうに笑いかける。
「あんな手酷い言葉をあなたにぶつけた私のことなど許せないかもしれません。
けれど・・・もし良かったらこれだけは受け取って下さいませんか?」
ブルックの言葉にがぶんぶんと首を振る。
「ブルックは全然悪くないわ!だけど・・・こんな素敵な曲、本当に私が貰っていいの?」
「あなた以外に受け取って欲しい人などいませんよ。これはあなたを想う気持ちから生まれた旋律なのですから」
ブルックの言葉に、ぱたぱたとの目から溢れた涙がスコアに滲んだ。
「ありがとうブルック・・・ありがとう・・・」
嗚咽交じりのか細い声に周囲の船員達も思わず涙ぐむ。
ブルックは歪む口元に必死で笑みを浮かべ歯を噛み締めながら、の言葉を大切に大切に胸に刻み付けた。
零れ出る涙をぐいと拭い、はその楽譜を胸に抱きしめながら顔を上げる。
「私・・・みんなに会えて本当に良かった。歌意外の楽しいこといっぱい教えてもらった。
大切なものも沢山教えてもらった。みんなのお陰で音楽をもっと好きになれた。仲間とか友達とか、はじめてで・・・
本当は離れたくないけど・・・もっともっとみんなと航海したかったけど、だけど・・・私は船を降ります。
みんなに、ルンバー海賊団に恥じない人間でいたいから。歌うことを、もう諦めたくないから・・・
だから私、絶対に喉治すよ。そしてまた歌い続ける。どんなに遠く離れても、必ずみんなに届くように・・・っ」
の言葉に船員達は泣き笑いの表情を浮かべ、そして温かく見守っていた。
やがてやってきた船へとは乗り移る。
そして、出航の時。
クルー達は譜面台にブルックが書き上げたパート譜を乗せ、各々の楽器を構えた。
「よしお前ェら!の船出だ!最高の演奏で送り出してやるぞ!!」
ヨーキの掛け声と共に船員達が楽器を掻き鳴らす。
初見の演奏は覚束ず、とても拙い。
けれどどこまでも優しさと温かさが感じられる音色だった。
それは明るく愛らしく希望に満ちた旋律。
時に切なく、時に甘苦しく、聴く者の胸を締め付け揺さぶる。
徐々に広がりを増していく音色は激しさと優しさを併せ持ち、そして全てを温かく包み込んだ。
どこまでも幸福な音色に船員達は満ち足りた表情を浮かべている。
ブルックもまた、渾身の想いを込めてピアノを奏でた。
この想いがの魂にまで届くようにと。
ルンバー海賊団の演奏に見送られながら、遠ざかる船の後方ではいつまでも大きく手を振り続けていた。
船縁に立ったヨーキが小さくなる船を見送りながらテンガロンハットを目深に被りなおす。
そして朗らかな表情を困ったように崩しながら一人小さく零した。
「ったく・・・こんな壮大なラブレター聴いたことねェや」
海ではラブーンが一緒になって歌い、を見送っている。
愛しさと喜びに溢れた旋律は船が見えなくなった後も大海原へと響き渡り続けていた。
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