オヤオヤ、どうしたのですかつまらなそうな顔をされて。
暇で時間を持て余してらっしゃる?退屈で仕方が無い?
ヨホホ、それはよろしくありませんね。
え?何か話を、ですか?ふーむ、そうですねぇ・・・


それではなぜ牛乳で骨折が直るのかという話をしましょうか!
カルシウムというのは本当に凄いものです。あの効力には舌を巻いてしまいますよ。
私、ガイコツですから舌なんて・・・ないんですけど!ヨホホホホー!スカルジョークッ!


・・・え?違う話にして欲しい?ヨホホ、それは残念。
さて、どんな話がよろしいでしょうかねぇ。




では・・・・・・恋の話などいかがでしょう?




オヤご興味がおありですか?ヨホホホ〜!
そう、恋です。切ないほどの想いに胸を躍らせ、時に締め付ける・・・
胸なんて私、肋骨くらいしかないんですけども!ヨホホホーッ!
あ、それはもういい?ヨホホ、これは失礼致しました。
まぁ不弁な私の話では退屈でしょうが暇つぶしくらいにはなるかもしれません。
少しの間お耳を拝借致しましょう。




―――そうそれは、とある海賊の音楽家が歌姫に恋をするお話なのです。


























 − A song for you −
































大海原に浮かぶ一隻の船。フォアマストにはためくはジョリーロジャー。
東の空が明るみ始めた頃、その船内の一室では大小様々な鼾が交じり合い騒音を奏でていた。
未だ気持ちよさそうに夢の中にいるのは屈強な体躯をもつ船員達。

そこへ早々に身なりを整えた紳士風の出で立ちの男がバイオリンを持って現れた。
漆黒のスーツに身を包んだ肢体はひょろりとした印象で
ボリュームあるアフロヘアの上にはシルクハットと海賊らしからぬ出で立ちである。
男は掛けていたサングラスをおもむろにすちゃっと指で上げると、すうっと息を吸い込んだ。


「ハイどうもみなさん!ごきげんよう!朝ですヨホホホ〜!朝の一曲始めます!!」


早朝らしからぬテンションの高さと声量でそう言い放ち、盛大にバイオリンをかき鳴らしながら大音量で歌いだす。

「白い〜〜ハン〜カチ〜♪見つかるな〜〜やつに♪逃げろ〜白い〜ハ〜ン〜カチー♪つーかまーるなー♪タコに〜〜♪」

珍妙な歌詞の歌を起き抜けに嫌がらせとしか思えない音量で歌われ
船員達は一人また一人と顔を顰めて呻いたり飛び起きたりしながら耳を塞いで訴える。

「ブルック〜!朝からその音量は勘弁してくれ〜ッ!」
「起きるっ起きるよブルック!」
「もう起きた!起きたから!せめてバラードにしてくれッ」

苦情や不平を口々に言いながら船員達はしぶしぶ起きていく。
決して好評とは言い難いが、この朝の風景がこの海賊団の日常であり
この派手なモーニングコールから船は一日の幕を明けるのだった。



そうしていつもと変わらぬ朝を迎えたある日。しかしその日はちょっとした事件が起こった。
始まりは見張り役の船員の叫び声。


「おい!海に何か浮いてるぞ!人・・・女の子だ!」


その声に船員たちがわらわらと船縁に集まる。
見れば海面には流木にぐったりと半身を横たわらせる小柄な少女が頼りなげに浮いていた。
とにかく救出をと泳ぎの得意な船員が浮き輪を持って海へ飛び込み、少女は船へと引き上げられた。

船医に診せると漂流中体温を奪われていたため衰弱しているが大きな外傷は無く、安静にしていれば大丈夫とのこと。
船員達はその言葉に胸を撫で下ろしたものの、ベッドで横になっている少女へと目を向ければその表情は渋くなった。
改めて見ると生気のない顔はやつれているが、そこにはまだあどけなさが残っており
血管が透けるほど白い肌が青ざめ、憔悴しきった細い体はひどく痛々しく映った。
何故このような少女が荒波を漂っていたのか、それは彼女自身に聞く他に知る手立ては無い。

けれど少女は泥のように眠り、結局目が覚めたのは翌日の夕方近くになってからのことだった。







太陽が夕暮れ色に海を染め始めた頃、賑やかな旋律に引き寄せられるように少女は眠りから覚醒した。

(バイオリンの、音・・・?)

ゆっくりと瞼を持ち上げると、その賑やかさは一層増した。

「お!やっと起きたぞ!やっぱりな〜、音楽聴かせりゃ起きると思ったんだよ俺ァ」
「馬鹿言うな!医務室でそんな大音量でかき鳴らす奴があるか!」
「ヨホホホホ〜!とにかく目が覚めて良かったじゃありませんか。
 イヤハヤ、ご機嫌麗しゅうお嬢さん。お目覚めの気分はいかがですか?あ、お金貸してくれません?」
「なんで漂流者に金の無心!?」

状況が把握出来ないまま頭上で飛び交う脈略の無い会話の応酬に少女は困惑の色を浮かべる。
やがて一人の貫禄ある精悍な男がベッドの横にどかりと腰を下ろした。
右目の下と顎に小さく『ヨ』の刺青が入ったその男はテンガロンハットを被りなおしながら少女に向き直る。

「俺はこのルンバー海賊団の船長、ヨーキってんだ。お前さん昨日海でぷかぷか浮いてたから拾ったんだが・・・」
「ここ・・・船の上、なんですか・・・?」

少女は船という単語に反応して初めて口を開いた。身を硬くし、その表情は怯えている。
それを海賊に怯えているのだと判断したヨーキは屈託の無い笑みで少女を諭す。

「心配すんな、何もお前さんを取って食おうってんじゃねェんだ。俺達はグランドラインへ行く途中でな。
 そのついでだ、次の島まで乗せてってやるからよ。ところでお前ェはなんで海に浮いてたりしたんだ?名前は?」

ヨーキの質問に少女は表情を暗くして俯いた。もしやと思い、覚えていないのか?と訊ねても反応は無い。
手が白くなるほどシーツを硬く握り締めて口を閉ざしてしまった少女に、船員達は顔を見合わせて首を傾げた。
さらに畳み掛けて質問しようと口を開きかけたヨーキの肩をブルックが掴んで首を横に振る。
何か事情があることは明らかだが、震える少女の痛ましい様子が気の毒になりヨーキを止めたのだった。
ブルックの心情を察したヨーキは小さく頷き、それ以上少女を詮索することをやめた。
そして気を取り直すように快活な声を上げる。

「ま、なんでもいいか。とにかく宴だ宴!お前さんの快気祝いぱーっと派手にやるぞ!」

船員達はその言葉に賛同して大いに盛り上がり、少女は訳も分からず呆けてその様子を見守った。








日もとっぷりと暮れた甲板には温い潮風が漂い、頭上を小さな星達が瞬いている。
少女は促されるままに甲板の一角に腰を下ろして眼前の光景に目を丸くした。
甲板には大皿に乗せられた料理の数々に酒、酒、酒の山。そして多くの船員達で所狭しとごった返している。
そしてそれ以上に目を引くのが彼らの手に持たれた楽器の数々だった。
管楽器、弦楽器、打楽器から鍵盤楽器までありとあらゆる楽器が甲板にずらりと並ぶ様はいっそ壮観な程で。
フォアマストに掲げられたドクロさえ無ければどこかの楽団の客船だと言った方が相応しい気さえした。

賑々しく盛り上がる彼らは、やがて船長の掛け声と共に一斉に楽器を鳴らし始める。
豪快な音色は巧みとは言い難いが、壮大な演奏が海上で響き渡る様は迫力があり、そして何より誰もが心から楽しそうだった。

演奏を肴に愉快そうに酒を煽っていたヨーキは、ふと隣に座る少女の変化に気づいた。
先ほどまで暗く肩を落とし俯き怯えていた少女が今は身を乗り出して演奏に聴き入っている。
その表情には生気が宿り、目はきらきらと輝いていた。
その様子にヨーキが口端を上げる。

「お前音楽が好きなのか?ならお前も一緒に歌え!楽しいぞ〜ッ」

突然の誘いに少女は驚いたように顔を上げ、けれど瞬時に表情を硬く強張らせた。
唇を噛んでふるふると首を振ると、青ざめながらごめんなさいと小声で呟いて医務室の方へと駆けていく。
その後姿をぽかんと見送ってヨーキはぽりぽりと首の後ろを掻いた。
主役を逃がしてどうするんですか船長!なんて船員から飛ばされた野次をうるせェと一蹴し、首を傾げる。

「っかしーな、ありゃ絶対ェ音楽が好きなように見えたんだけどなァ?」

ヨーキの呟きは誰の耳に届くこともなく喧騒に掻き消されていった。












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