−Shampoo me?−
「勘弁してくださいよ大将」
「まーそー固ェこと言いなさんな」
「いや、これセクハラですって。そしてパワハラです」
「あーあー、やだねー。最近の若ェもんは何かってーとすーぐにセクハラだーなんだって」
「いやいや、これは誰がどうみても立派なセクハラですよ。なんで私が大将の髪洗わなくちゃなんないんですか」
その長い足をバスタブからはみ出させふんぞり返っている青キジには盛大なため息を吐いた。
それに悪びれる様子など微塵も見せずに、青キジはだらだらとその腕をバスタブにのせている。
「しょーがねーじゃねェの。俺能力者だもん。風呂入るとダルくてしょうがないのよ。髪洗うのもだりィ」
「だったらシャワーで済ませれば良いじゃないですか。いつもはそうしてるんでしょう?」
「お前ねぇ、能力者だってたまにはゆっくり風呂に浸かりてェ時もあるでしょーが。
お前ェには上司を労わろうって気持ちはねェのか?」
「そっちこそ少しは部下を労わって下さいよ!いっつも勝手にふら〜っと消える上司せいでこっちは毎回毎回余計な仕事
押し付けられてるんですからね。っていうか別に浸かりながらじゃなくて上がってから髪洗えばいい話で・・・」
延々と続く小言を右から左へと聞き流して青キジは煩そうにおざなりの生返事。
しかし文句を言いながらもシャカシャカと器用に動く手は止まず
悪態吐いてる癖に態度はなかなか献身的じゃないのと青キジはほくそ笑んだ。
ここは海軍本部に備え付けてあるバスルーム。
無駄に豪華なその内装に税金の無駄遣いってのはこういうことをいうんだろーなァと
現在進行形でその恩恵に与りながら他人事のような感想を抱く。
いつものごとく自前のチャリでぷらぷらと走り回り、本部に戻ってきたのは熱ちー風呂に入りてェなァと思ったからという体たらく。
ヒエヒエの実の能力者とは言えずっと凍った海の上走ってりゃ体も冷えるですよーと誰にともなく言い訳を並べ。
青キジの顔を見るなり怒鳴ろうと口を開いたを問答無用に担ぎ上げて風呂場へと直行した。
いやーそれにしても上手ェ。いっそ海軍なんて辞めて美容師にでもなりゃあいいんじゃねェの、と思ったが口にはしなかった。
に辞められて一番困るのは自分だ。優秀な部下が雑務をこなしてくれているからこそああも奔放に動き回れるのだ。
面倒な雑務は押し付けて勝手にふらふらと動き回る上司なんて迷惑この上ないだろう。
実際そんな青キジの自由奔放ぶりについていけず辞めた部下もいる。
しかしは文句を言いつつも真面目に職務を全うしてくれるし、こんなワガママにも付き合ってくれる。
俺だったらこんな上司死んでもやだねと無責任極まりないことを思ったと知ったらはどんな顔をするだろうか。
ぼんやりとそんな思考に耽っているタイミングで丁度から少しは感謝してくださいなんて小言が聞こえ
青キジは弛緩しきった腕をわずかに上げてみせた。
「あー・・・ほんっとお世話になってます」
唐突にしおらしくなった青キジに驚いては思わずその手を止める。
「えっ?と、まぁ、分かってくれてるならいいですけど・・・急にどうしたんです?」
「お前が感謝しろっつったんじゃないの」
「そうですけど・・・なんか気持ち悪」
「・・・お前ねー、言うに事欠いて気持ち悪いって」
「まぁ、嬉しいですけど」
はにかみながらカシャカシャと指を動かすを見上げながら、あらららー可愛いとこあるじゃないのーなんて青キジはこっそり思う。
けれど付き合いが長いと素直にそう言うのも躊躇われた。
これが行きずりの女の子だったりしたら可愛い子ちゃん今夜ヒマ?なんてさらりと言ってしまうのだが。
「これでボインちゃんだったら言うことねェんだけどな〜」
代わりに口にした余計な一言にぴたりとの手が止まり、黒い影がさした笑みを見せる。
「・・・頭に脱毛クリーム塗りたくって差し上げましょうか?」
「すんませんでした。や、ほんっとマジで」
こりゃ本気だわと悪寒が走った青キジは即刻謝罪を口にする。
それでもの腹の虫は当然収まらずぷりぷり怒りながら鬱憤をはらすように手に力をこめると青キジは眉を顰めた。
「もうちょっと優しくしなさいやー。この年になるとそろそろ髪の毛労わんなきゃいけねーんだから」
「知りませんよっ!っていうかなんですかこの髪は、天然アフロですか?大将のお子さんは不憫ですねぇ」
「あらら〜随分辛らつなこと言ってくれるじゃないの。そんなこと言ってっとちゃんの家系に天パの遺伝子継承させちゃうよー?」
「セクハラです、今のは本気でセクハラです。いい加減にしないと警察呼びますよ?」
「海兵ならここにいるけどね」
「世も末ですね、こんな人が大将なんて」
嘆かわしい、ああ嘆かわしいっ、なんてわざとらしく嘆いてみせるに青キジが笑う。
大将の自分にここまで言いたい放題言える部下などそうそう居ない。
この気安さが青キジには心地よかったし、それは共に過ごした時間の中で築いてきた絆とも言えた。
「お前俺なんかによくついてくるな」
先ほど思ったことがなんとなく口を衝いて出た。
自分を卑下しているわけではなく、客観的な意見としてそう思ったのだ。
けれどは目を丸くすると何かを考えるようにうーんと唸った。
やがてぽつりと。
「合っているのかもしれません、ね」
「合ってる?」
「ええ、私物凄く飽きっぽいので何事も続かないんですよ。でも大将ってやることが突飛だし、何考えてるんだろうっていうか
何も考えてないんじゃないのこの人?みたいな感じで読めないし腹の立つことも多いんですけど、お陰で飽きないんですよね」
「・・・それは褒めてんの?」
「ええ。だるっだるでどーしよーもないっていうか、海兵として以前にもう人としてどーよとか思ったりもしますけど
でもあなたのやることは基本的に信頼出来ますし、何よりこの人に付いていけば大丈夫っていう安心感がありますから。
それって上司と部下の関係で一番大事なことじゃないかなと私は思ってるんで」
「・・・何だろうねこの素直に喜べない感じ」
青キジの言葉をさらりと聞き流して、はいじゃあシャンプー流しますよーとは桶に汲んだお湯をその頭に被せた。
湯に浸かりすっかり力の入らない体で青キジはぼんやりとの言葉を反芻し、薄く笑う。
小娘の言葉にうっかりほだされそうだなんて俺もまだまだ青いね、と。
「そんならお前さんが飽きるまで付き合ってくださいや」
ぽつり漏らしたセリフにが眉をひそめる。
「・・・それは一生付き合えってことですか?」
その言葉に面食らい、思わずくっと吹き出した。
俺の下で働くのは一生飽きそうにねェってか?
・・・それならそれでいい。お前さんが良いってんなら一生付き合ってもらおうじゃないの。
行き遅れた時は俺が貰ってやるよとひっそり笑う青キジをが不思議そうに見た。
どうかしたんですかと尋ねられなんでもねェ、忘れたと素っ気無く返す。
だらけた物言いは今に始まったことでないため、がそれを訝しがることもなかった。
まさか目の前の大将が案外天パの遺伝子伝承も冗談じゃなくなるかもななどと考えているとはもちろん夢にも思わずに。
その小さな手は一心に濡れて緩くなったウェーブ髪にコンディショナーを塗りたくっていた。
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これほんとただのセクハラじゃ・・・?