−RUN!RUN!RUN!−
「ーーー!待てェーーーーーーー!!」
「ぎゃあーーーーーーーーーーーー!!!」
満面の笑顔で追いかけてくる二番隊隊長から必死の形相で逃げ惑う。
今日も今日とて、白髭の海賊船でエンドレス鬼ごっこが繰り広げられていた。
船内から飛び出したところでを見失ったエースはきょろきょろと甲板を見回した。
「ありゃ、あいつどこいった? なぁオヤジ、知らねェか?」
「グララララ!ハナタレの馬鹿娘の事なんて知らねェよ」
船長にそう言われ、エースはおっかしーなぁと首をかしげてどこかへと走っていった。
エースの姿が見えなくなったのを確認すると一人のナースが微笑を浮べて白髭に近づいた。
「、船長をかくれんぼにつかうのはお止しなさい」
ニーハイの豹柄ブーツを履いたセクシーなナースに優しくたしなめられ
座る白髭と椅子の背もたれの隙間からもそもそとが這い出してきた。
「はーい、ごめんなさい。オヤジ、ありがとね」
「バカヤロウ。ケツの青いガキが気なんて遣うんじゃねェよ、アホンダラ」
またグララララ!と大きな笑い声を上げ巨大な手でそっと撫でてくれる白髭に、はえへへっと照れくさそうに笑った。
「あーッ!!やっぱりオヤジかくまってたんじゃねェか!」
「ひぃッ見つかったぁーーーー!」
そして再び鬼ごっこを始めた二人を、白髭とナース達は微笑ましく見守っていた。
「はぁ・・・つ、疲れた・・・」
「随分愛されてるじゃねェかい、」
「・・・マルコ」
なんとか逃げ延びて食堂のテーブルに崩れ落ちたの隣に一番隊隊長が座りからかうように笑った。
「もぉ〜、他人事だと思ってぇ〜・・・」
「けどよぉ、何も逃げることねェんじゃねェのかい。エースのこと嫌いな訳じゃねぇんだろい?」
「・・・・うん・・・でも、どうしていいか分からないんだ・・・」
は素直な気持ちを話した。
エースがに告白したのは数日前のこと。
それから猛アタックを繰り返すエースには戸惑っていたのだ。
「私、好きとか、よく分からないんだ・・・。この年でまだ恋もしたことないなんておかしいかもしれないけど
私はエースも、マルコも、オヤジもナースさん達もみんな同じように好き。
それ以外の“好き”なんて・・・。それが分からないから、エースに好きだって言われてもよく分からなくて・・・」
私変なのかなぁ・・・と、しゅんと項垂れたの頭をマルコはぽむっと叩いた。
「落ち込むんじゃねェやい。心配しなくても、そういうのは自然と分かるもんだい」
「そう・・・なのかなぁ・・・」
そんなを励ますようにマルコは酒を勧めた。
二人が談笑し始めると、食堂の入口で隠れていたエースがそっと離れていった。
翌日、新しい島に着くとはエースに突然担ぎ上げられ、そのまま連れ去られた。
「ぎゃーーーーーー!ちょっとエース!どこいくの!?」
「まぁまぁ、行きゃ分かるって」
ばたばたと暴れるに構わず、エースはにいっと笑いどんどん山道を登っていく。
歩くたびに地面はかさかさと音を立て、後ろに流れていく木々は赤や黄や橙に染まった葉を落としている。
頂上についた頃、ようやく下ろされたと胸を撫で下ろした瞬間、突然足を払われて視界がぐるりと廻った。
「ひッ・・・!」
地面にぶつかる!と思った刹那、それは体を支えるエースの手によってふわりと下ろされた。
「び、びびった・・・ちょっと、エース!曲がりなりにも女の子に足掛けするってどういう・・・ッ!」
「俺の“好き”はこういう“好き”だ」
抗議の言葉はエースの声によって遮られた。
隣に並んで寝転がったエースの方へきょとんと視線を向けるとエースは空を仰いだまま言葉を続けた。
「すげーだろ?この景色」
「え?・・・あ、うん・・・」
脈絡の無い言葉に戸惑いながらも、エースに倣って空を仰ぐと
澄んだ青空をバックに茜色や山吹色、緋色、黄金色、鶯色・・・と色とりどりの鮮やかな紅葉が視界一杯に広がった。
「こういう綺麗な景色を見ると、真っ先にお前の顔が浮かぶんだ」
「え・・・」
「綺麗なもんを見るとお前にも見せてェなと思うし、美味いモン食うとお前にも食わせたいと思う
楽しい事見つけるとお前と一緒にやりてェなと思う・・・ それが俺の“好き”なんだ」
にかっと太陽みたいな笑顔を向けるエースには胸が熱くなった。
自分は逃げてばかりだったのに、エースは正面から向き合おうとしてくれる。
エースが真っ直ぐに好きだと伝えてくれることが嬉しい。
自分の事を想ってくれる気持ちが嬉しい。
けれど何故だろう、同時に切ないものが込み上げるのは・・・。
の心に今までに感じたことのない感情が湧き上がった。
「・・・じゃあ、寂しい時は?」
「え・・・?」
は自分でも意識しないうちに言葉を紡いでいた。
「私を思い出すのは楽しい時だけ? 寂しいときや悲しい時、辛い時は一緒にいたいと思わないの・・・?」
自分でも何故こんなことを言っているのか分からなかった。
けれど何故だか胸が詰まってしまい、言わずにはいられなかったのだ。
そんなを驚いたように見つめ返すとエースはやや苦笑して、上半身を起こした。
「まぁ・・・そういう時も一緒にいて欲しいと思わねェっつったら嘘だけど、でもそういうのはお前に味わせたくねェからなァ・・・」
エースの言葉にはきゅっと唇を噛み、がばりと起き上がる。
「そんなの変だよ!楽しい時だけしか一緒にいないなんて、そんなの間違ってる!
私はエースがこうやって嬉しい事を分けてくれるっていうなら苦しい事だって一緒に分かち合いたいよ!
そうじゃなきゃ、一緒にいる意味ないじゃない・・・」
「・・・」
どうして自分はこんなに悔しいんだろう、どうしてこんなに寂しいんだろう、どうして・・・どうして泣いているのだろう・・・
自分を飛び越えて走り出してしまった想いがの目から溢れていた。
エースは堪らずにを強く抱きしめる。
「ンなこと言われちまったら、勘違いしちまうぞ?」
肌寒いほどの気温なのにエースの体は熱かった。
心臓は早鐘を打ち始めたが、エースの鼓動に気づくとどうしてか気持ちが和いだ。
エースも自分と同じように緊張しているのだと分かると、は嬉しくなった。
―――そうか・・・これが特別に“好き”ってことなのか・・・
自覚した途端気持ちは一気に零れだして、はエースにしがみついた。
「勘違いじゃないよ・・・私、エースが、好き・・・みたい・・・」
その言葉にエースは目を見開くと両肩を掴んでばっと体を離し、の顔を見た。
潤んだ瞳と紅葉のように赤く染まった頬が、それはエースの望んだ“好き”であることを教えた。
胸がいっぱいになって、再びきつくを抱きしめる。
「やべェ・・・泣きそうだ・・・」
「え!ウソ!?」
エースが泣くの!?と、驚いて顔を上げようとしたの頭にぼすりとテンガロンハットが被された。
「こっち見んな!」
顔は見えなかったけれど、恥ずかしまぎれの怒ったような声と
紅葉が反射しているかのようにほんのり色づいた体がにエースの気持ちを伝えていた。
嬉しくて笑い出してしまったをたしなめるかのようにエースが腕に力をこめる。
「笑うな!」
「あはははっ!だって、なんか嬉しいんだもん」
「そりゃこっちのセリフだ。嬉しすぎておかしくなりそうだぜ」
愛おしげに呟いたエースに、はいっそう満たされていった。
帰り道、二人は手を繋いで走った。
少し先を行くエースを斜め後ろから見ながら、は溢れだす想いを持て余して握る手に力をこめた。
エースは振り返らずに帽子を目深に被りなおした。その口元は押さえきれずに弧を描いていた。
鬼ごっこはもうおしまい。
これからは一緒に手を繋いで走ろう。
きっと二人ならどこまでも行けるから。
海へと続く下り坂の落ち葉はがさがさと音をあげた。
二人の作る風が紅葉を落とし、見えなくなった後もゆるやかに舞っていた。
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やたらと白髭クルーに愛されてるヒロインw